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IoT(Internet of Things)の法務(2) ~IoTベンチャーが知っておくべき10の法規制(後編)~

img_up_htk-2こんにちは、弁護士の濱本です。

夏もあっという間に終わり、随分と涼しくなってきましたね。最近、私はゴルフの練習を頑張っているのですが、ちょうどゴルフにいいシーズンなので、近いうちに一度はコースに行きたいと思っています。

さて、前回の私のブログでは「IoTベンチャーが知っておくべき10の法規制」をテーマに、前編として「モノを製造・販売するにあたり知っておくべき法規制」を解説しました。後編にあたる今回は、「インターネットを利用したサービスを提供するにあたり知っておくべき法規制」を解説していきます。後編において解説する法規制は、以下の5つです[i]

①消費者契約法、②特定商取引法(通信販売に関する規制)、③個人情報保護法、④景品表示法、⑤資金決済法(前払式支払手段に関する規制)

(1)    消費者契約法

消費者に対してインターネットを利用したサービスを提供する場合には、サービスを利用するにあたっての諸条件を定めた利用規約を定めるのが一般的です[ii]。もっとも、利用規約に定めておけばどのような条項でも有効になるわけではなく、消費者契約法は、以下のような規制を定めています。

   ① 事業者の責任を過剰に制限する条項に対する規制 (第8条)  
   ・ 事業者の消費者に対する損害賠償責任を全面的に免責する条項は、原則として無効。  
   ・ 事業者の故意又は重過失による損害賠償責任については、一部であってもこれを免除・制限する規定は無効。  
   ② 消費者に対して過大な違約金等を定める条項に対する規制 (第9条)  
   ・ 消費者による契約の解除(キャンセル)に対して「事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えるような違約金等を定めても、平均的な損害額を超える部分は無効。  
   ・ 消費者が支払いを遅延した場合の遅延損害金は、年率14.6%を超える部分が無効。  
      ③ その他、消費者の利益を一方的に害する条項に対する規制 (第10条)  
     ・ 民法、商法その他の任意規定(契約により適用を排除できる法規)と比較して、消費者の権利を制限し又は義務を加重する条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは無効。  

利用規約に消費者契約法等により無効となるような条項を定めていた場合には、内閣総理大臣の認定を受けた「適格消費者団体」から差止請求(違法な行為をやめることを求める請求)等がなされる可能性があります。また、2016年10月1日から新たに施行された消費者裁判手続特例法[iii]に基づき、集団的な訴訟がなされるリスクも否定できません。適格消費者団体等からこのような請求等を受けた場合には、そのこと自体が企業イメージを傷つけかねないため、利用規約に不当条項を定めていないか慎重に確認が必要です。

(2)    特定商取引法(通信販売に関する規制)

商品やサービスの販売について、消費者からインターネットにより申込みを受け付ける場合には、特定商取引法の「通信販売」に該当するため、同法の規制を遵守する必要があります。特定商取引法は、「通信販売」について種々の規制を定めていますが、特に以下のような規制に注意が必要です。

   ① 「特定商取引法に基づく表示」をする必要がある。  
    「通信販売」に関する広告をする場合には、一定の事項を記載した表示をする必要があります(第11条)。具体的な記載事項や記載例については、消費者庁のこちらのウェブページを参照してください。  
   ② ガイドラインに従って「返品特約」の表示をする必要がある。  
    「通信販売」においては、特約がないかぎり、消費者は契約の申込みから8日間以内であれば、契約の解除(キャンセル)ができます(第15条の2)。このようなキャンセルを認めないものとする場合には、利用規約等の契約にその旨の特約を定めるとともに、当該特約を顧客が容易に認識できるように表示する必要があります。そして、「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」が、特約の表示方法の具体例を定めています。  
   ③ ガイドラインに従って「申込画面」を構築する必要がある。  
    「通信販売」における「申込画面」では、(i)あるボタンをクリックすればそれが有料の申込みとなることを消費者が容易に認識できるように表示し、かつ(ii)申込みをする際に消費者が申込みの内容を容易に確認し、かつ、訂正できるようにしておく必要があります(第14条)。「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」が、具体的にどのようなケースがこれに該当するかを定めています。  

(3)    個人情報保護法[iv]

インターネットを利用したサービスを提供するにあたり、利用者から氏名、生年月日等の「個人情報」の提供を受ける場合には、個人情報保護法を遵守する必要があります。特に以下のような規制に注意が必要です。なお、個人情報保護法は2017年春頃に改正法の全面施行を予定しているため、改正後の個人情報保護法を前提に解説しています[v]

   ① 利用目的に関するルール (第15条、第16条、第18条)  
   ・ 個人情報を取扱うに当たって、利用目的をできる限り特定する必要があります。  
   ・ 個人情報を取得するに当たっては、取得の状況から明らかな場合等を除き、利用目的を通知・公表等する必要があります。なお、インターネットサービス等を提供するにあたっては、プライバシーポリシーを作成して、利用目的等をあらかじめ公表しておくのが一般的です。  
   ② 保管・管理に対するルール (第20条、第21条、第22条)  
   ・ 個人データの漏えいや滅失を防ぐため、事業の規模等に応じた適切な技術的措置等をとる必要があります。  
   ・ 安全にデータが管理されるよ う、従業者に対して、適切な監督を行う必要があります。  
   ・ 個人データの取扱いを委託する場合には、委託先に対して適切な監督を行う必要があります。  
   ③ 第三者に提供する際のルール (第23条、第25条)  
   ・ 法令に基づく場合等一定の場合を除き、個人データを第三者に提供するには、あらかじめ本人の同意を得る必要があります。  
   ・ 個人データを第三者に提供したときは、提供年月日、受領者の氏名等を記録し、一定期間保存しなければなりません。

なお、改正後の個人情報保護法は、個人情報を加工して特定の個人を識別することができないようにするなどしたものを「匿名加工情報」と定義して、一定の条件の下で事業者による自由な流通・利活用を認めるものとしています[vi]。IoTベンチャーとしては、IoTで収集したデータ等をこのような「匿名加工情報」の枠組みで利活用することも考えられます。

(4)    景品表示法

景品表示法は、消費者がより良い商品やサービスを自主的・合理的に選べる環境を守るために、不当な「広告」について規制するとともに、過大な「景品類」の提供を制限しています。インターネットサービスを提供するにあたっては、このような景品表示法に違反することのないように注意が必要です[vii]

①     表示規制

景品表示法は、以下のような「優良誤認表示」及び「有利誤認表示」を不当表示として禁止しています。また、一定の類型や分野については、消費者庁等のガイドラインや実態調査報告書が具体的にどのような表示が不当表示として禁止されるかについて指針を示しています。

  優良認識表示 有利誤認表示  
    商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示   商品やサービスの価格などの取引条件について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく有利であると一般消費者に誤認される表示  
  具体的な指針 (ガイドラインや実体調査報告書等)  
    比較広告:「比較広告に関する景品表示法上の考え方」
No.1表示:「No.1表示に関する実態調査報告書」
二重価格表示:「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」
インターネット分野:「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点と留意事項」
打消し表示:「見にくい表示に関する実態調査報告書」など
 

なお、消費者庁は、優良誤認表示の疑いがある場合には、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、原則として15日以内に事業者が資料を提出できない場合には不当表示として措置命令や課徴金納付命令が課される可能性があります(第7条第2項、第8条第3項)[viii]。そのため、事業者としては、表示を行う時点において、十分な根拠資料を準備しておく必要がある点に注意が必要です。

②     景品類規制

景品表示法は、取引の対象となる商品やサービスに付随して、これとは別に提供する「景品類」[ix]を、その提供方法により「一般懸賞」と「総付景品」に分けて[x]、その最高額や総額等について下記のような制限を設けています。

  景品類の最高額 景品類の総額  
      一般懸賞 (商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性やパズル、クイズ等の特定行為の優劣等によって景品類を提供する場合) 取引価額の20倍
ただし、10万円が上限
懸賞に係る売上予定総額の2%  
      総付景品 (懸賞によらずに、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく景品類を提供する場合) 取引価額の20%
ただし、200円が下限
(規制なし)  

なお、商品・サービスの購入や来店を条件とせずに誰でも申し込むことができる懸賞などは、一般に「オープン懸賞」と呼ばれ、景品表示法の規制は適用されません。オープン懸賞で提供できる金品等の最高額は、以前は1000万円とされていましたが、現在は規制が撤廃されているため、提供できる金品等に上限額の定めはありません。

(5)    資金決済法(前払式支払手段に関する規制)

インターネットサービスにおいては、使用することで商品やサービス等の提供を受けることができるポイント等を有料で販売することがよく行われます。このような有料のポイント等は、基本的に資金決済法の「前払式支払手段」に該当するため、発行をするにあたっては同法の規制を遵守する必要があります。特に、以下のような規制に注意が必要です。

   ① 届出又は登録義務 (第5条、第7条)  
   ・ 「自家型前払式支払手段」(発行者に対してのみ使用ができる前払式支払手段)のみを発行する者は、基準日(3月31日及び9月30日)における未使用残高が1000万円を超えた場合、金融庁長官に対して届出を行わなければならない。  
   ・ 「第三者型前払式支払手段」(発行者以外の者に対しても使用できる前払式支払手段)を発行する業務は、金融庁長官の登録を受けた法人でなくては、行うことができない。  
   ② 表示又は情報の提供義務 (第13条)  
   ・ 前払式支払手段の発行者は、発行者の名称等一定の事項を表示し又は情報提供する義務を負う。  
   ③ 発行保証金の供託義務 (第14条)  
   ・ 基準日(3月31日及び9月30日)において、前払式支払手段の未使用残高が1000万円を超えるときは、原則として、その基準日未使用残高の2分の1以上の額に相当する金銭を発行保証金として主たる営業所・事務所の最寄りの供託所に供託する義務を負う。  

なお、「前払式支払手段」の有効期限が発行日から6ヶ月未満である場合には、上記のような資金決済法に基づく規制は、適用されません(第4条)。特に、上記③の発行保証金の供託義務は、ベンチャー企業にとって負担が重い場合もあるため、ポイント等の使用期間を発行日から6ヶ月未満に設計することによって、資金決済法に基づく規制の適用除外とすることも考えられます。

♦ 脚注

[i] その他にも、①いわゆるメッセージ機能等を設けるなど他人の通信を媒介する場合には基本的に電気通信事業法に基づく届出が必要となる点、②決済に関するシステム等を提供する場合には資金決済法に基づく資金移動業の登録の要否等を検討する必要がある点等が、インターネットサービスにおいてはよく問題となります。なお、①の電気通信事業法に基づく届出がどのような場合に必要となるかについては、総務省の「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」が参考になります。

[ii] 利用規約に規定すべき内容や利用規約の同意の取得方法等に関しては、こちらをご参照下さい。また、AZX総合法律事務所では利用規約の雛形も公開しておりますので、ご参照下さい。

[iii] 正式な法律の名称は「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」といいます。こちらの消費者庁のウェブページがその概要を知るために有用です。

[iv] 個人情報の保護に限られませんが、IoTにおけるセキュリティに関しては、総務省と経済産業省が「IoTセキュリティガイドラインver1.0」を策定、公表しています。

[v] 改正後の個人情報保護法の概要を知るためには、個人情報保護委員会が公表しているこちらのパンフレット等が参考になります。また、改正後の個人情報保護法に関する個人情報保護委員会のガイドラインが、現在パブリックコメントに付されている状況です。

[vi] 匿名加工情報の作成手順・方法については、経済産業省が「匿名加工作成マニュアル」を作成、公表しています。

[vii] 平成26年6月に景品表示法が改正され、事業者には景品表示法を守るための管理体制を整備することや、それに必要な措置を講じる義務が課されることになりました(第26条)。具体的にどのような措置等を講じるべきかについては、消費庁のこちらのページから参照できる「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」がその考え方を示しています。

[viii] 不実証広告規制と呼ばれます。どのような資料が「合理的な根拠」を示す資料といえるか等については、こちらの消費庁のウェブページをご参照下さい。

[ix] 景品表示法上の「景品類」とは、①顧客を誘引するための手段として、②事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する、③物品、金銭その他の経済上の利益を意味します。具体的にどのような場合が景品表示法の規制を受ける「景品類」に該当するかについては、消費者庁の「景品類等の指定の告示の運用基準について」が参考になります。

[x] その他、複数の事業者が参加して行う懸賞は、「共同懸賞」として実施することができる場合があり、共同懸賞における景品類の限度額は、一般懸賞よりも高く設定されています。

 

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
濱本 健一
Hamamoto, Kenichi

「IoTベンチャーが知っておくべき10の法規制」いかがだったでしょうか。次回のブログでは、「IoT(Internet of Things)の法務(3)」として「製品事故が生じた場合の対応」について解説をする予定です。

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