特許法改正~職務発明制度見直し

投稿日:2016/11/29

 

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こんにちは。弁護士の林です。
もうすっかり寒くなりましたが、夏を振り返りますと、今年は初めて宮古島に行きました。経験者の方からはリピート必須と言われていましたが、実際、子連れで楽しめるシュノーケリングスポットが点在していて、ファミリーにとっても最高のリゾートでした。

今回は、今年4月1日より施行されている特許法改正について、職務発明規程との関係を中心に解説します。職務発明規程については、以前の記事「ベンチャーと職務発明」で簡単に触れていますので、よろしければそちらとあわせてお読みいただけると、理解が深まると思います。

 <今回の内容>
1 職務発明と職務発明規程のおさらい

2 法改正のポイント

3 職務発明規程の変更の必要性

 1 職務発明と職務発明規程のおさらい

「ベンチャーと職務発明」の内容を簡単におさらいすると、ポイントは以下になります。

  • 会社の業務に属し、かつその職務に属する発明は「職務発明」となる。
  • 職務発明は当然に会社に権利帰属するものではなく、職務発明規程などの社内規程や従業員との契約により、会社に帰属する旨を事前に規定しておく必要がある。
  • 職務発明の権利取得の見返りとして「相当の利益」(注:後述のとおり法改正で旧法の「相当の対価」の用語から変更)を従業員に提供する必要があり、その金額や決定方法も職務発明規程に定めておくべきである。
  • 職務発明規程に基づく提供額が「相当の利益」の要件を満たすものと認められるために、職務発明規程の制定や同規程に基づく金額査定における、従業員との協議や情報開示などのプロセスも重要である。

2 法改正のポイント

今回の主な改正点は、(1)会社による原始取得制度の創設、(2)「相当の対価」から「相当の利益」への変更、(3)法定ガイドラインの導入、の3点です。

 (1) 会社による原始取得制度の創設

上記のとおり、職務発明規程において、職務発明の権利を会社が取得する旨を定めておくことは法改正前より可能ですが、このルールを定めた改正前の条文は特許を受ける権利を会社に「承継させる」という文言だったのに対し、改正後の条文では「承継させる」に加えて、「取得させる」という文言が追加されました。

「承継させる」が、①発明により特許を受ける権利が発生→②発生した権利を会社に承継(=譲渡)という2ステップを踏むのに対して、「取得させる」は原始取得、すなわち発明の発生時点から特許を受ける権利が会社に帰属することを意味します(以下「原始取得」といいます。)。そして、会社は職務発明規程の内容として、「承継」と「原始取得」を選択できることになりました。

ここまで読まれた方は、「具体的に何が違う?会社に権利が帰属するのは一緒では」と思われるかも知れません。原始取得を選択できることにした理由(会社としてのメリット)は、①二重譲渡リスクの回避、②共同研究等におけるリスク回避の2点です。

① 二重譲渡リスクの回避

少し専門的になりますが、一般的な権利譲渡の取引において「二重譲渡」という法律問題があります。例えば、AさんがBさんと不動産を売却する契約を締結した後に、Cさんとも同じ不動産の売却契約を締結した場合、原則としてBさん、Cさんのうち、所有権移転登記という対抗要件を先に得た方が所有権を取得するというのが、民法のルールです。特許の場合も、もし従業員XがY社在職中の職務発明をY社に権利譲渡した後、転職したZ社に当該発明を開示し、Z社に権利譲渡した場合、原則として先に当該特許を出願した方の会社が特許権を取得することになります(特許法第34条第1項)。旧法の「承継」は「譲渡」を意味するため、Y社が職務発明規程で権利承継を規定していても、出願を速やかに行わないと上記のような二重譲渡が発生して他社に権利をとられるリスクがあることになります。

実際には二重譲渡がされるケースは稀だと思いますが、近時の人材流動化の傾向にも鑑みて、この改正が行われました。改正法のもとでは、会社が職務発明規程で「原始取得」する旨を定めておけば、発明と同時に権利が会社に帰属するため、それを別の会社に二重譲渡することが理論的に不可能になります。この点が、会社にとってのメリットであり、簡単に図表にすると以下になります。

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② 共同研究等におけるリスク回避

メリットの第二点ですが、X社とY社の共同研究に基づく発明が生じた場合、両社間の契約では、発明の権利はX社Y社間で共有する旨規定される例が多いと思います。これを実現するためには、X社は自社の職務発明規程で研究従事者(Aさん)から権利を取得することが、Y社は自社の職務発明規程で研究従事者(Bさん)から権利を取得することが、それぞれ必要であり、そこまでの対応は各企業ともとっていることが通常です。

ここで問題となるのは、共有発明の譲渡には共有相手の同意が必要という特許法の規定(第33条第3項)です。上記の共同研究で得られた発明は、旧法の枠組みでは、該当発明に関する特許を受ける権利は一旦AさんとBさんの共有になります。よって、上記の例でX社が職務発明規程に従ってAさんから権利(厳密には権利の共有持分)を取得する(承継する)には、その承継に対してBさんの同意が必要であり、同様にY社がBさんから権利を取得するにはAさんの同意が必要になります。

   【旧法の枠組み】
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しかし、このようなAさん、Bさんの「同意」が必要であるということは、ちょっと気付きにくい点であり、「うっかり」忘れてしまう可能性もありました。実際には、出願前に気付いて同意をもらったりして、大きな問題には至らないケースが多いと思いますが、もめてしまって同意がもらえないようなケースもあり得ます。この事例で、改正法のもと、X社、Y社ともに職務発明規程で「原始取得」を採用した場合、発明と同時にAさんの持分はX社、Bさんの持分はY社に帰属し、「譲渡(承継)」というステップがありませんので、上記特許法33条3項の適用がなく、上記のようなAさん、Bさんの同意がなくても会社による権利取得が完結します。これが、メリットの第2点です。

長くなりましたが 以上を簡単にまとめると、職務発明について、二重譲渡や共同研究発明における同意取得の取りこぼしのリスクを避けるために、「原始取得」という選択肢をとれるようになったということであり、特に特許が重要な技術系ベンチャーでは、職務発明規程を原始取得できる規程に改正することを検討すべきということになります。

 (2) 「相当の対価」から「相当の利益」への変更

旧法では、職務発明の権利を会社が取得した場合に、従業員に提供すべき「相当の対価」は金銭に限られると解釈されていましたが、今回の改正においては「相当の利益」と文言が変更され、金銭以外の経済的利益の提供も認められるようになりました。例として、以下のようなものが考えられます。

  • ストックオプション付与
  • 昇給を伴う昇格
  • 特別な有給休暇の付与
  • 会社負担での留学

会社としては、選択の幅が広がったことになりますが、このような金銭以外の提供を行うこととする場合は、その内容や決定方法について職務発明規程に定める必要があると考えられています。また、「相当の利益」を提供したものと認められるには、職務発明の権利の取得に対応して付与された経済的利益である必要があり、当該従業員に対する(当該発明と直接関係しない)トータルな待遇レベルを理由に「相当の利益」を提供したと主張しても、認められない可能性があることに注意が必要です。

 (3) 法定ガイドラインの導入

1の(4)でおさらいしたとおり、職務発明規程の制定や規程に基づく従業員に対する提供額の査定において、従業員との協議や情報開示などのプロセスをきちんと行うことが重要です。今回の改正では、このプロセスをどのように行うべきかの指針を、経産省が定めることになりました。

【特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)】
https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm

ガイドラインの内容は、従前の解釈実務を明文化したものであり、実質的な改正ではないと説明されています。今後、職務発明規程の制定や改正、規程に基づく従業員に対する提供額の査定等を行う場合には、このガイドラインを適宜参照しながら行うことになると考えられます。

3 職務発明規程の変更の必要性

以上の法改正を踏まえて、職務発明規程を変更すべきなのでしょうか。またどのように変更すべきでしょうか。改正点(1)及び(2)との関係で、問題となります。

まず上記いずれの改正とも、会社の選択の幅が広がったもので、旧法の枠組みでの職務発明の取扱いを継続することも可能です。したがって、職務発明規程を変更しないことも可能です。

変更した方が良いかどうかについては、基本的には会社の権利取得を確実にし、従業員に対する負担の形態の選択肢を増やすものですので、一般的に言えば、改正法に対応する変更を行う方が良いと考えられます。

職務発明の権利を「原始取得」する場合の規程文言変更例としては、以下のようなものがあります。

旧: 「職務発明についての特許を受ける権利は、会社がこれを承継する。」
新: 「職務発明については、その発明が完成したときに、会社が特許を受ける権利を取得する。」

会社によっては、発明の内容に応じて権利を取得する、しないを判断したいという場合もあり、その場合は旧法の承継型を維持することや、原始取得した上で権利を従業員に戻せるような規定をあわせて設けておく対応が考えられます。このあたりは複雑になってくるので、専門家に相談した方が良いと思われます。

執筆者によるコメント

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AZX総合法律事務所
弁護士 林 賢治

直近の特許法の改正を、職務発明規程との絡みを中心に説明しました。実際に職務発明規程の変更を検討する場合には、具体的な規定の文案、どのような従業員との協議プロセスを踏むべきかなど、専門家にご相談頂く方が良いと思われます。職務発明規程が未整備のベンチャーが規程を新設する場合も同様です。


投稿日:2016/11/29