インバウンド(訪日外国人客)ビジネスに関する法律の改正動向まとめ(前編)

投稿日:2017/05/18

 

弁護士の濱本です。

2020年の東京オリンピックに向けて、インバウンドビジネスがますます盛り上がりを見せています。2016年の訪日外国人旅行者数は約2404万人(旅行消費額3兆7,476億円)でしたが、政府はこれを2020年までに4000万人(旅行消費額8兆円)にすることを目標にしています。

インバウンドビジネスの盛り上がりとともに、民泊を筆頭に、現在さまざまな法律の改正も議論されています。ビジネスチャンスを逃さないためにも、今後予定されている法改正の動向を把握しておくことは重要です。そこで、現在及び次回の2回に分けて、インバウンドビジネスに関する法律の改正動向について解説します。

内容は、以下のとおりです。

  • 前編(今回):民泊関係、IR(統合型リゾート)法
  • 後編(次回):旅行業法、通訳案内士法

1. 民泊関係

(1)現状の法規制(旅館業法)

訪日外国人旅行者が急増する中、民泊サービス(住宅を活用して宿泊サービスを提供するもの)が日本においても急速に普及しています。もっとも、個人が自宅や空き家の一部を利用して行う民泊サービスであっても「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」に当たる場合には、旅館業法上の許可が必要となるのが原則です[1]。「旅館業」に該当する民泊サービスを提供するためには、現状の法規制においては下記のいずれかの方法による必要があります。[2][3]

(2)法改正の動向(住宅宿泊事業法案)

上記のとおり、現状の法規制においても個人が「旅館業」に該当する民泊サービスを提供することも不可能ではありません。しかし、個人にとって旅館業の許可(簡易宿泊所営業)の取得は必ずしも容易ではなく、また特区民泊はそもそも特定の地域についてしか認められていません。そのため、政府は2017年3月に民泊サービスを全国的に解禁するための住宅宿泊事業法案を閣議決定しました。今国会での成立及び年内の施行を目指すとされています。その概要は、以下のとおりです。

上記のとおり、住宅宿泊事業法が成立した場合には、「旅館業」に該当する民泊サービスも届出により提供することが可能になります。もっとも、法案においては、年間提供日数の上限が180日(条例でさらに制限可能)と制限されているため、特に家主不在型の民泊サービスの提供については収益性等の観点から参入可能かを慎重に検討することが必要になります。

また、住宅宿泊事業法が成立した場合には、従来は特段の規制のなかった住宅宿泊管理業(家主不在型の住宅宿泊事業者から委託を受けて住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置等を行うもの)や住宅宿泊仲介業(住宅宿泊事業者と宿泊者との間の宿泊契約の締結の仲介を行うもの)について、新たに登録手続が必要になり、法律上種々の規制を受けることになります。そのため、これらの業務を行うベンチャー企業等は新たな対応が必要になります。

なお、住宅宿泊事業法に基づき家主不在型の民泊サービスを提供する者には、原則として住宅宿泊管理業者に対して委託をすることが法律上義務付けられるため、この点は住宅宿泊管理業を行うベンチャー企業等にとって新たなビジネスチャンスといえるかもしれません。

2. IR(統合型リゾート)法

(1)IR推進法の制定

昨年12月に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「IR推進法」といいます。)が成立し、施行されました。IR推進法は、「特定複合観光施設」すなわちカジノ施設と会議場施設・レクリエーション施設・展示施設・宿泊施設等が一体となった統合型リゾート(Integrated Resortの整備を推進するための法律です。そして、IR推進法は、統合型リゾートを設置できる地域や設置・運営の主体について、以下のように定めています。

IR推進法が成立した際には、「カジノ法の成立」とも報じられましたが、実はIR推進法は統合型リゾート推進の理念や方針といった大枠を規定する基本法にすぎません。IR推進法は、政府に対してIR推進法施行後1年以内に統合型リゾートを設置するための具体的な実施法(以下「IR実施法」といいます。)の策定を求めており、IR実施法が成立して初めて設置できる区域の認定や設置・運営を行う民間事業者の許可等の具体的な手続が進められることになります。

(2)IR実施法の制定動向

政府は、2017年3月24日に特定複合観光施設区域の整備の推進を総合的かつ集中的に行うために、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置しました。今後は、IR実施法が可決された際の附帯決議の内容等[4]を踏まえてIR実施法の具体的な内容についての検討が進められることになります。附帯決議においては、特に統合型リゾートを設置できる区域の数[5]やカジノへの入場規制に関して以下のような決議がなされていることが注目されます。

IR実施法の成立、特定複合観光施設区域の認定や設置・運営を行う民間事業者の許可等の手続、さらに建設などの日程を考えれば、カジノ施設を含む統合型リゾートが実際に開業するのは2020年の東京オリンピック後になると予想されています。

統合型リゾートは実現すれば、非常に高い経済効果があるとされており、東京オリンピック後における日本の観光の“目玉”になることが期待されます。ビジネスチャンスを逃さないためにも、インバウンドビジネスに携わるベンチャー企業等は、今後のIR実施法の制定動向等に注目しておく必要があります。

執筆者によるコメント

img_up_htk-2

AZX Professionals Group
AZX総合法律事務所
弁護士 濱本 健一

いかがでしたでしょうか。次回は、石田弁護士が旅行業法及び通訳案内士法の改正について解説する予定です。


♦ 脚注

[1] 具体的にどのような民泊サービスが「旅館業」に該当するかについては、厚生労働省の「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」が参考になります。

[2] 具体的な簡易宿泊所営業の許可の取得手続等については、厚生労働省の「民泊サービスを始める皆様へ~簡易宿所営業の許可取得の手引き~」が参考になります。

[3] 特区民泊の制度の概要については、内閣府地方創生推進事務局の「旅館業法の特例(特区民泊)について」が参考になります。

[4] 衆議院の附帯決議はこちらから、参議院の附帯決議はこちらから参照できます。

[5] 区域認定数については、西村康稔議員が、平成28年12月13日の内閣委員会における答弁において、「最初の段階ではせいぜい2か所、3か所」を想定しており、その後も成果や課題を検証しながら「段階的に増やしていくのが適切」と述べています。また、総数については「10も20も想定はしていない」と述べています。


投稿日:2017/05/18