ICOの法的論点

投稿日:2017/11/16

こんにちは。弁護士の林です。
ひさしぶりのAZXブログ投稿になります。

ベンチャー業界もインバウンドの動きが強まり、AZXでも海外からの投資案件など国際的な案件が多くなっています。AZXブログでは、ジョン佐々木弁護士の連載(シリコンバレー法実務)の日本語版を私が担当しておりますが、9月に行われたTech in Asiaのイベントでは、ジョン佐々木弁護士と共同でアジア企業向けのプレゼンテーションを行いました。今後もベンチャー企業の世界的な発展に貢献したいと思います。

さて今回は、世間を賑わせているICOについて、弁護士の立場から整理を試みたいと思います。暗号通貨やブロックチェーンが、ICOの理解のベースになるため、それらについても簡単に触れていきます。なお、ICOの議論は未成熟なところが多いため、今回は論点整理的な解説になる点、ご了承下さい。


 <今回の内容>
 1.  ブロックチェーンと暗号通貨
 2.  ICOの概念
 3.  ICOトークンの種類
 4.  法的規制
 5.  税務上の問題


1.  ブロックチェーンと暗号通貨

ICOは、Initial Coin Offeringの略称であり、株式公開のInitial Public Offeringを模した表現です。ここでいうCoinは暗号通貨(Crypto Currency)であり、暗号通貨はビットコインに代表される、暗号技術に基づくブロックチェーン上の通貨です。

ブロックチェーンや暗号通貨の仕組みについては、沢山の解説があるので詳細は割愛しますが、代表的なビットコインについては、大要以下のような仕組みになります。

  1. ビットコインの運営開始から現在に至る暗号化されたコイン移転のデータ(トランザクションデータ)が、全てつながった状態で、一定数量ごとに「ブロック」化して保存される。
  2. 全世界のコンピューターが、トランザクションデータを参照でき、ダウンロードすることができる。ダウンロードしたコンピューター(「ノード」)は、それぞれ同じデータを共有することになる。
  3. ユーザーは、一定のソフトウェアを利用して、暗号化技術を利用した方法でビットコインを他のユーザーに移転することができる。
  4. コイン移転が生じると、当該移転のデータがトランザクションデータに(未承認のデータとして)追加される。
  5. 「マイナー」と言われるノードが、未承認の取引データを一定数量ブロックにまとめ、既承認トランザクションデータの最後に追加する作業を行う(マイニング)。この作業のためには、一定のプロトコルに従った非常に難解な(コンピューティングパワーを要する)計算の解を出す必要がある。
  6. ブロックが追加された最新のトランザクションデータが全ノードに共有され、追加ブロック内の取引は承認された形になる。
  7.  更なるコイン移転取引に対しても (4)~(6)が行われ、最新の取引データは、全て従前の取引データ(ビットコイン開始時から直近までの連鎖したデータ)の上に付加される。あるブロックAがマイニングされた後、更にブロックB、Cとマイニングされていくと、Aのデータを改竄することは技術的に著しく困難となる。

簡潔に言えば、Peer to Peerの仕組みを基礎として、特定の事業者の管理支配に依拠せず(非中央集権性)、分散したノードによってシステムダウンを回避し(安定稼働性)、改竄が困難な状態で(耐改竄性)、プロトコルに従って自動的に権利データを移転、保存できること(自動執行性)が、ブロックチェーンの主な特徴であり、この仕組みの上で取引データとして記録される価値表章資産が、暗号通貨となります。

暗号通貨には、ビットコイン以外にも、Ethereum、Rippleなど、ビットコインとは別のブロックチェーンをベースとするものが多数あり、マイニングの有無など部分的な相異点はありますが、基本的な性質の理解としては上記のように整理できると思います。

なお、「暗号通貨」について、「仮想通貨」と言われることもありますが、日本の法律(資金決済法)において定義された「仮想通貨」の用語と区別するため、一般的な呼称としては暗号通貨という用語を本稿では用います。

2. ICOとは

ICO(Initial Coin Offering)は、文字通りコインの初期発行を指しており、まだ流通や利用の開始されていない暗号通貨を、広く希望者に販売することを意味します。調達額1位を記録したTezosは2.32億ドルを調達したと言われています。

基本的な例としては、ビットコインのような、独自のブロックチェーンに基づく暗号通貨のプロトコルを新たに創設しようとする企業が、その創設資金に充当するために、発行予定の暗号通貨の引受権を販売し、創設時に引受数量の暗号通貨を出資者に付与するという場合があります。クラウドファンディングにも類似しており、「クラウドセール」と言われることもあります。

現在実際に行われているICOでは、ビットコインのような通貨用途のコインを発行しようとするケースは少なく、ブロックチェーンにコインの権利を記録するという性質は保有しつつ、通貨以外の用途を有するコインが発行されるケースが多いと思われます。ではどのような用途、価値を有するコインが想定されるのでしょうか。

3. ICOトークンの種類

「コイン」や「暗号通貨」というと、通貨のイメージがありますが、ICOでは、実際にはより広い性質のものが想定されており、「トークン(token)」と呼ばれることが一般的ですので、以下ではそのように記述します。

トークンの種類を大別すると、以下のように考えられます。

(1)ネイティブ通貨
上記に述べたビットコインのような暗号通貨

(2)ユーティリティトークン
ICOによってローンチされる企業のサービスの提供を受ける権利を表章するトークン

(3)ロイヤリティトークン
ICOによってローンチされるサービスやプロジェクトの収益の分配を受ける権利を表章するトークン

法的な位置づけは後述しますが、現状はこのモデルは、売買型のクラウドファンディング(クラウドファンディングについて池田弁護士の記事をご参照下さい)に近いもので、支援側ユーザーのリターンを受ける権利が、トークンによって証明されるようなイメージになります。これは本質的には契約上の権利(約束事)であり、「通貨」のイメージと異なりますが、当該トークンを将来売却できる仕組みをあわせて設けておくことで、売却益を期待するユーザーの投機対象としての価値を持たせているケースが一般的です。例えば、ローンチされたサービスがヒットすることで、トークンの潜在的な価値が高まり、更に仮想通貨として取引所で売買できるようになれば、ユーザーが売却益を得られる可能性があります。

また、(3)はコンテンツファンドや匿名組合などの出資持分に近いものになってきますが、こちらについては後述のとおり、証券法の規制に特に留意が必要なモデルです。

4. 法律上の位置づけ

ICOに関係する主な規制は以下のものです。

  • 有価証券に対する金融商品取引法の規制
  • 仮想通貨交換業の規制
  • 前払式支払手段発行業の規制

(1)有価証券に対する金融商品取引法(金商法)の規制

この問題は、Ethereum上のスマートコントラクトスキームであるThe DAOが、その収益分配モデル性に着目して、米国証券取引委員会(SEC)から米国証券法違反の可能性をされたことで、有名な論点です。また、最近日本の金融庁からも注意喚起のリリースが行われています。

簡単に説明すると、いわゆる「ファンドの持分」は、金商法上「有価証券」と扱われ、その募集や運用に許認可が必要となり、一定の場合には有価証券届出書の提出などの開示義務が発生します。一般的に「集団投資スキーム持分」と称されていますので、以下この用語を用います。

「集団投資スキーム持分」に該当する場合でも、VCファンドなどの場合、一定の要件を満たす限定された人数からの出資のみを募ることで届出(適格機関投資家等特例業務)のみで対応する余地があり、またコンテンツファンドなどの場合には、全員が業務に携わるLLP形態をとることで上記規制を免れる余地がありますが、広く一般投資家から資金を募るICOでは、「集団投資スキーム持分」に該当してしまうと、金商法の厳しい規制を受けて、現実的にワークさせるのが難しくなると考えられます。

「集団投資スキーム持分」の大まかな定義は、金銭等の出資を行い、その出資財産に基づく事業活動による収益の分配を受けられる権利です。したがって、金商法の規制を受けないようにするためには、事業収益の分配を約束するようなモデルは避けるべきことになります。

厳密に言うと、多くのICO案件では、キャッシュでなくビットコインなどの仮想通貨で出資が募られており、仮想通貨で出資する場合は、現行の日本の金商法及び政省令の文言上は、形式的には「集団投資スキーム持分」に該当しません。しかし、政府が脱法行為を防ぐために近々に政省令改正を行う可能性もありますし、国際的なICOでは海外の証券規制にも留意する必要があることから、たとえ仮想通貨で出資を募る場合であっても、収益分配モデルは避けるのが一般的な考え方と思われます。

(2)仮想通貨交換業の規制

今年施行された改正資金決済法(資金決済に関する法律)において、同法に定義される「仮想通貨」の売買、交換、それらの媒介等の業務が、「仮想通貨交換業」として、仮想通貨交換業者の登録を要するものとされています。このため、ICOによってトークンを発行する企業は、仮想通貨の売買を業とするものとして、仮想通貨交換業の登録をしなければならないかが論点となります。

細かい説明に入る前に、実務的な考え方としては以下の二通りあると思われます。

  1. ICO時点では「仮想通貨」に該当しないスキームとすることで、仮想通貨交換業に該当しないようにする。
  2. ICO時点から「仮想通貨」に該当させる前提で、仮想通貨交換業を登録する。

「仮想通貨」とは、大要、(1)不特定の者との商品等の代金決済に使用でき、不特定の者との間で売買できる、通貨・通貨建資算以外の財産的価値で、電子的に記録され、電子的に移転できるもの(1号仮想通貨。典型例はビットコイン)、及び(2)不特定の者との間で1号仮想通貨と相互交換できる財産的価値で、電子的に記録され、電子的に移転できるもの(2号仮想通貨)と定義されます。

2017年10月12日現在の公表資料(下記URL)で、マネーパートナーズ者など11社が仮想通貨交換業者として登録されており、取扱い仮想通貨として、ビットコインのほか、ETH(イーサリアム)、LTC(ライトコイン)、MONA(モナコイン)など有名なものが挙がっています。

現状登録されているこれらの業者は、いわゆる仮想通貨取引所を運営する事業者であり、相当程度の取扱実績と業務管理体制を具備している企業として、審査を通過して登録認可されています。また、登録を受けるにあたり、各業者は取り扱う仮想通貨を特定する必要があり、取扱い仮想通貨として記載されたものは、いずれも一定の流通実績(又はその蓋然性)を有して上記の1号仮想通貨又は2号仮想通貨の要件を満たすものと当局が認めたものとなります。

言い方をかえると、ICOによって新たなトークンを発行しようとする企業が、将来の普及見込みも不明なトークンを「仮想通貨」として、その売買等を取り扱う仮想通貨交換業者として登録を受けるということ(上記②のスキーム)は、かなりハードルが高いと思われます。このため、多くのICOでは、上記①のスキームをとることになると思われます。ただし、前述のとおり、トークンに投機的な魅力を具備させる必要があるため、将来的には仮想通貨の要件を満たし、仮想通貨交換所で取引されるシナリオを、ホワイトペーパー等に記載するケースが多いと思われます。

これについては、そのようなシナリオの書きぶり(約束するような書き方は問題ではないか)、どの時点で「仮想通貨」になるのか、仮想通貨になった時点でICO企業自体が仮想通貨交換業を取得する必要はないか、などの考慮点はありますが、今後議論が成熟していくと思われます。

(3)前払式支払手段発行業の規制

資金決済法上、「前払式支払手段」の発行者は、原則として登録又は届出を要し、保証金の供託等の義務を負います。「前払式支払手段」は、以下の要件を満たすもので、典型的な例はプリペイドカードや、有償のオンラインゲーム内ポイントなどです。

  1. 金額等の財産的価値が記載・記録されること
  2. 金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等、番号、記号その他のものであること
  3. 代価の弁済等に使用されること

先述のとおり、多くのICOトークンは、ICO企業がローンチするサービスを受けることのできるユーティリティトークンの性質を有していると思われるため、ICOにおいて出資する金銭や仮想通貨をICO企業が預かり、預り額に応じてサービスを受けられるトークンを発行しているものと評価されると、上記要件に該当し得ることになります。前払式支払手段発行業者は、預かっている金額の50%相当額を供託所に供託する義務があり、ICO企業にとって現実的な選択肢ではないため、当該要件に該当しないスキームを組む必要があります。

上記②のとおり、ユーザーが預託する金額や数量に応じて発行されることが前払式支払手段の要件となっているため、トークン保有者が受けられるサービスや便益を、トークンの価値と数量的に対応させないようにすることや、サービスや便益の受領に応じてトークン数量が消費されないような条件にすることなど、前払式支払手段該当性をヘッジするスキームを検討すべきことになります。実際のICO事例でも、サービスや便益の内容についてはこのあたりに配慮した記載ぶりにしているケースが多いのではないかと思われます。

5. 税務上の問題

上記のとおり典型的なICOでは、ICO企業のサービスに利用できる権利を伴うトークンを発行することが想定されるため、調達した金額全額が、ICOを行った年度の売上として計上され、課税対象になることが懸念されています。ICO企業は、調達した金額を原資として、ホワイトペーパーで公表したサービスを一定の開発期間をかけて構築していくことが想定されますが、売上のみ第1期に全額売上計上され、それに見合う支出の計上は翌期以降にかけて計上されることになると、課税上不利になります。

このため、調達額を預り金計上できないかなどの検討がされているようですが、前項に述べた法的性質との兼ね合いなどもあり(預り金計上すると前払式支払手段のように見えないかなど)、難しい問題があるようです。税務専門家による議論の成熟が期待されます。

執筆者によるコメント

AZX Professionals Group
AZX総合法律事務所
弁護士 林 賢治

現状の理解を前提に、ICOについて説明を試みましたが、如何でしたでしょうか。未解決の論点が多く、明確な整理ができていない点もありますが、今後適宜情報をアップデートしていきたいと思います。なお、仮想通貨に投資するファンドの組成の法的問題点など、他にもテーマがありますので、今後執筆していきたいと考えております。


投稿日:2017/11/16