AZXブログ

起業準備中のチームを会社化する場合に注意すべきポイントまとめ

2013/10/24

こんにちは。AZX弁護士の雨宮です。このブログへの登場は初めてとなります。

私は、スタートアップの利用規約に関する本を出版(共著)し、スタートアップ向けのセミナーなどを多くやっています。

セミナーでは、「これからなにか始めようかな」「とりあえずチームでプロダクトは作りはじめたけど、これからどうしようかな」という、まだ会社化していないステージの方達が聞きに来てくれることもよくあります。これは、アクセラレーターの方がまだ会社化していないチームの受け皿となってくれていることも大きく、日本の起業環境が底上げされてきたなと大変うれしく思っています。

そこで、今回は「チームで作ってきたプロダクトが上手くいきそうなので会社化したい」という段階になったときに注意すべきポイントをまとめてみました。

チームで作ったプロダクトは誰のもの?

プロダクトの「デザイン」や「プログラム」については、著作権が主に問題となりますが、この著作権は「発生主義」といって、登録などを要せず、創作をした人に帰属します。したがって、特に合意をしていなければ、デザイナーやプログラマー個人に、著作権が帰属することになります。

チームを会社化する場合は、「このプロダクトは会社のもの」と言える必要があるので、プロダクトの著作権等の権利を会社に移転させる手続が必要になります。 具体的には、プロダクトの制作に関わったデザイナー、プログラマーから著作権等の権利を移転又は譲渡してもらう必要があります。その際の契約書に必要な条項は以下のようなものになります。

X(デザイナー)及びY(プログラマー)は、★プロダクトに関する著作権その他一切の権利(著作権については、著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)をA社(※新設する会社)に移転することに同意する。X及びYは★プロダクトについて、著作者人格権を行使しないものとする。

この条項のポイントは、2つあります。

ポイント1:著作権の移転又は譲渡は、「著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む」と記載しないと契約として完全でない!

著作権を譲渡する際、単に「著作権を譲渡する」とだけ記載するのでは、不完全です。著作権法第61条第2項に、著作権法第27条の権利と第28条の権利は、これらの権利を譲渡すると明記していないと移転していないと推定されることになっているためです。これについて詳しくみていきましょう。

この第27条の権利とは、翻訳、翻案権という権利です。また、第28条の権利とは、二次的著作物に対する原著作者の権利です。これらの権利はどういう権利かについては、「ノルウェイの森」を例に説明しましょう。

「ノルウェイの森」は、村上春樹氏の代表作のひとつであり、各国で翻訳され、映画にもなりましたよね。この各国で翻訳したり、映画化したりすることができる権利が第27条の権利です。また、第27条の権利に基づき制作された「映画」という「二次著作物」をさらに複製したり、公衆送信したり、その他利用する行為について、ノルウェイの森の原作者が本来持っている権利が第28条の「二次的著作物についての原著作者の権利」です。これらの権利は強い権利ですので、明記していないと譲渡の対象ではないと推定されてしまいます。

ポイント2:著作者人格権は「移転又は譲渡」できないから、「行使できない」ことを約束してもらうう必要がある!

次に、「著作者人格権は行使しない」と記載されているのはなぜでしょうか。著作者人格権とは、(i)まだ公表されていないものを、いつ公表するかを決める権利、(ii)氏名を表示し、又は表示しないことを決める権利、(iii)著作物の同一性を保持するという権利、の3つの権利からなっており、これらは著作者が精神的に傷つけられないようにするための権利であり、創作者としての感情を守るためのものであることから,これを譲渡したり,相続したりすることはできないこととされています。したがって、著作者人格権は「移転又は譲渡」の対象とすることができず、「行使しない」ということを約束してもらわざるを得ないのです。

これらの条項を踏まえた権利移転手続がきちんとなされているか否かは、その後設立した会社で、M&Aで売却したり、IPOをするときにおいて、重要な審査ポイントとなるので、きちんと整備しておくようにしてください。増資による資金調達においてもこれらが問われるケースもあります。

チームで作ったプロダクトはいくらで会社に譲渡する?

チームで作ったプロダクトの譲渡価格は、チームのメンバーと会社の間の合意により定めることになります。民法上は、「私的自治の原則」により、当事者間で合意できたのであれば、どのような価格でも原則有効ですが、客観的にみて価値のあるものを「タダ」で譲渡してもらう場合は税務上の問題が生じる可能性もあるので、事前に税理士に相談しておいた方がよいでしょう。

また、対価を払って設立後の会社に譲渡した場合は、「事後設立」という手続にも注意する必要があります。これは、会社の設立後2年以内に、その設立前から存在する財産であって、その事業のために継続して使用するものを、会社の純資産の5分の1以上の対価を支払って取得するような場合に適用があります。といっても、この譲渡について株主総会の承認を得ておけば足り、それ以外に複雑な手続が必要なわけではありません。

まだ会社化は先である場合は、何もしなくていいの?

ここまで読んでいただいて「うちはまだ会社化しないからいいや」と思われた方がいるかもしれません。しかしながら、時間がたてばたつほど、チームからの離脱者も出てきたりして、あとで権利を移転してもらおうとしても、気まずくてお願いしにくくなってしまう可能性があります。また、プロダクトの価値が高くなってくると、その譲渡の対価も高くなってしまうリスクがあります。

チームといっても、そのパワーバランスはいろいろであり、だれか一人が主導権を握っていて、その人が他のメンバーを集めてきているようなケースと、なんとなくみんなで集まって出来たケースがあります。前者の場合は、会社化する前から、その「主導権を握っている一人」が他のメンバーに参加を依頼する時点で、これから手伝ってもらうプロダクトについて、きちんと権利を自分に移してもらうよう約束しておくのが良いと考えます。すなわち、冒頭に記載した「チームのメンバーと新しく作った会社」の間の契約と同じ内容を、「主導権を握っている一人とチームに参加するメンバー」の間で締結しておくのです。

また、後者の場合だと、なかなか代表者を決めるのが難しく、実際は会社ができたあとに会社にプロダクトの権利を譲渡することとなってしまうケースが多いかもしれませんが、会社化を円滑に進めるためにも、早い段階で代表者を決め、その人を前者の「主導権を握っている一人」と同様の立場として、権利を集約するようにしておいた方がよいでしょう。

会社化したあとは、著作権について気にしなくてよいの?

さて、会社化したあとは、プロダクトの権利については気にしなくてよいのでしょうか。 まず、取締役や従業員が会社の業務として創作した著作物については、「職務上著作」といって、会社に権利が帰属しますので、上記のような権利の移転の契約は不要です。

ただ、スタートアップでは、外部の人に手伝ってもらう場合も多くあり、そのような場合には、会社化する前と同じように、権利の移転についての契約を締結しておく必要があります。「見積書」と「発注書」のやりとりだけで終わってしまっている会社が多くみられますが、それだけでは不十分なのです。

また、「職務なのか、そうでないのかよくわからない」状態で取締役や従業員が作ったプロダクトが、気がつけば魅力的なものになっている場合もあるので、取締役や従業員との間でも、「職務として作っているのか不明確なもの」については、それを会社に権利移転させたい場合はきちんと権利移転についての契約を締結しておいた方がよいでしょう。 なお、特許については「職務上著作」と異なり、職務上の発明であっても「特許を受ける権利」は当然には会社に帰属せず、何も約束していない場合には、通常実施権という使用権を有するのみとなります。この「特許を受ける権利」を会社に帰属させるためには、別途会社に譲渡してもらう必要があります。一般的には、就業規則や職務発明規程等で会社への権利移転を定めるのが安全です(但し、役員には就業規則は原則として適用されないので注意が必要です。)。また、その場合「相当な対価」を会社は当該取締役や従業員に支払う必要があります。

Appleやドメイン管理会社、サーバー管理会社など第三者との契約はどうなるの?

プロダクトをローンチする過程で、Appleなどのプラットフォーマー、ドメイン管理会社、サーバー管理会社などの第三者とチームの代表者個人との間で先に契約を締結している場合があります。

そのような第三者と個人で締結している契約については、契約の相手方たる第三者の同意を得て会社に契約上の地位を移転させる必要があります。いわゆる名義変更です。この契約上の地位を移転させる手続は、契約の相手方次第ですので、契約の相手方に確認して手続を進めていきましょう。

ちなみに、Appleについては、つい最近までは、「名義変更は受け付けない」という方針だったので、名義を変えるには、これまでのAppleとの契約を終了させ、あらたに会社名義で申請しなおす必要がありました。あらたに申請をしなおすとなると、これまでのレイティングを維持できないという致命的な問題があったため、困っていたチームも多かったかもしれません。この点は最近方針が変更されたとのことですが、また、いつ変更になるかわかりません。第三者の方針はこちらでコントロールできるものではないので、チームで第三者と契約をする場合は、将来会社に名義変更できるのかを、あらかじめ確認してから締結しておいた方がよいでしょう。

なお、会社の設立手続自体については、AZXのホームページにも必要書類のひな型が掲載されていますので、是非ご活用ください。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
雨宮 美季
Amemiya, Miki

婚前契約ではないですが、きまりごとは、仲の良い間に結んでおくに限ります。
別れが近くなってからだと、なかなか交渉がすすみません。 別れてからの交渉は、かなり厳しいです。
スタートアップのチームは、よくも悪くも「ひと夏の燃え上がる恋」パターンが多いので、ぜひ、盛り上がっている段階できまりごとを決めておくようにしてください。

そのほかの執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 アソシエイト
小澤 雄輔
Ozawa, Yusuke
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
貝原 怜太
Kaihara, Ryota
執筆者一覧