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スタートアップのための、今すぐ誰でも使える契約書レビューのコツとテクニック

2013/11/01

最近非常にショックなことがありました・・・肩に痛みがあったので、整骨院に行ったところ、四十肩だと診断されました・・・僕は現在30歳ですので、10年くらい時代を先取りした感じになります・・・デスクワークが一因のようですので、年のせいではなく、仕事を頑張っていることの証左だと思うしかありません・・・

誰もが契約書レビューをできるようになるために

気を取り直して本題に入ると、弁護士としてベンチャー支援を行うに当たって、一番多い相談は契約書関係です。取引に先立って締結されるNDAから、M&Aの際の株式譲渡契約など、契約書とビジネスは切っても切れない関係にあります。

契約書を締結する際のリスクを正確に判断するためには、法律の専門的な知識が必要なことは言うまでもありませんが、とは言ってもベンチャー企業、特にスタートアップが、契約書のレビューを常に弁護士に依頼することが予算的にも現実的ではないことは、僕らも良く分かっています。そこで、今回は、今すぐ誰でも使える契約書のレビューのコツやテクニックを書いてみようと思います。

①リスクが大きい条項を知る

契約書には色々な内容が定められますが、下記の条項は特にあなたの会社(以下便宜上「あなた」といいます)にとってリスクが大きいものですので、目を皿にしてこれらの条項が入っていないか確認しましょう!なお、以下の契約書の記載例において、「甲」はあなたの取引先を、「乙」はあなたを意味します。

(1) 競業禁止規定

「乙は、本契約が存続する間および本契約の終了後1年間は、甲の事前の書面による承諾を得ることなく、自ら又は第三者をして、本契約に基づく業務提携と競合する事業を行ってはならない。」

競業禁止(競業避止という言葉も良く使われます。)規定は、読んで字のごとく、競業する事業を禁止する規定です。大企業との業務提携などの場合には、上記のような規定がドラフトに入れられてきたりします。

競業禁止規定は、ビジネスを大きく制約するものですので、このような規定が定められているとIPO審査やM&Aのデューデリジェンスの際に問題視される場合があります。ですので、このような規定が定められている場合には、まず削除を交渉しましょう!

とは言っても、向こうもそれなりに資金を投入しているような場合には、受け入れざるを得ないケースもあります。このような場合には、例えば、

「乙は、本契約が存続する間および本契約の終了後1年間は、甲の事前の書面による承諾を得ることなく、自ら又は第三者をして、本契約に基づく業務提携と競合する事業(●を意味する。)を行ってはならない。」

として、行ってはいけない「競合する事業」の範囲を明確にすることで、影響を最小限に留めることが考えられます。例えば、●に「インターネットオークションのプラットフォーム事業」などと記載することで、単なるECのモールサイトは競業の範囲に含まれないことを明確にすることが考えられます。

(2) 任意解除規定

「甲及び乙は、相手方に対し、1ヶ月までに書面で通知することにより、本契約を解除することができる。」

競業禁止規定よりも良く見かける規定ですが、場合によっては競業禁止規定よりも大きなリスクとなるケースもあります。例えば、あなたが行っているメインのサービスが他の会社からライセンスを受けているソフトウェアを使用している場合において、ライセンス契約に上記の規定が入っていれば、あなたのサービスは甲の通知から1ヶ月後に終了しなければならないリスクに常に晒され続けていることになります。

ですので、あなたのビジネス上存続することが必要な契約の場合には、上記の規定は削除しましょう!

折角解除されないようにしても、そもそも契約の期間が短ければ期間満了で終了してしまう可能性があるので、契約期間が問題ないかについては慎重に検討する必要があります。

ちょっと上級編になってしまいますが、特に海外の会社との契約においては、Change of Controlの条項(=会社の支配権が変わった場合には、契約を解除されてしまう条項)が定められているケースも多いので、M&Aも考慮に入れているベンチャーでは、このような規定がないかについても確認しておきましょう。

②今すぐ使える契約修正のテクニック

「この規定、こっちに不利だから修正したいけど・・・」と思っても、契約書に慣れていないと、どんな感じで修正したら良いのか分からないという話は良く聞きます。そこで、簡単に出来て、それなりに効果のある契約書修正のテクニックを披露します!

(1) 賠償額に上限を定める

「乙が、乙の故意又は過失により、甲に損害を及ぼした場合には、乙はその損害を賠償する責任を負う。」

故意又は過失によって相手方に損害を与えた場合には、損害を賠償しなければならないという規定で、これ自体不合理なものではありませんね。しかし、実際問題として、資金に余裕のないベンチャーとしては、青天井で賠償義務を負うのは難しいので、下記のような形でリスクヘッジを試みましょう!

「甲及び乙は、故意又は過失により、相手方に損害を及ぼした場合には、その損害を賠償する責任を負う。但し、本契約についての乙の賠償責任は、損害賠償の事由が発生した時点から遡って過去●ヶ月間に本契約に基づき乙が甲から現実に受領した対価の総額を上限とする。

但書を加えるだけのシンプルな修正ですが、こうかはばつぐんです!

気をつけなければならないのは、この修正を提案した場合、

「甲及び乙は、故意又は過失により、相手方に損害を及ぼした場合には、その損害を賠償する責任を負う。但し、本契約についての甲及び乙の賠償責任(本条に基づくものを含むがこれに限られない。)は、損害賠償の事由が発生した時点から遡って過去●ヶ月間に本契約に基づき乙が甲から現実に受領した対価の総額を上限とする。」

と、平等な内容で再提案されるケースが多いです。従って、予めそんな感じの再提案が来ても問題ないかを考えておきましょう。例えば、業務委託契約では、受託者側が委託者側に対して賠償義務を負う可能性の方が、委託者側が受託者側に対して賠償義務を負う可能性より高いので(委託者側は基本的にお金を払う以外の義務は負っていないからです。)、あなたが受託者側であれば、平等な内容でも上限を定めた方が良いということになります。

(2) 義務を努力義務に変えるand努力義務を義務に変える

「乙は、エンドユーザーが甲の権利を侵害することを防止しなければならない。」

契約書上は上記のようなあなたの義務を定める規定が多く出てきますが、先方のドラフトには、100%実現をコミットすることが難しい規定が定められることも珍しくありません。こんな場合には、

「乙は、エンドユーザーが甲の権利を侵害することを防止するよう努めなければならない。」又は「乙は、エンドユーザーが甲の権利を侵害することを防止するための努力をしなければならない。」

と修正する方法があります。「努める」又は「努力」という言葉を使うことにより、結果的にエンドユーザーが甲の権利を侵害してしまった場合でも、直ちに契約違反とはならないことになります。ね、簡単でしょう?

反対に甲にやってもらわなければ困る事項に「努める」又は「努力」という言葉が使われていた場合には、「しなければならない。」「するものとする。」などの語尾に変えればOKです。

(3) 「合理的な」という言葉を追加する

「乙は、本契約に基づく業務を履行するにあたっては、甲の指示に従わなければならない。」

業務委託契約等においては、上記のような文言が入っているケースが多く見受けられますが、依頼者とはいえ、無条件に指示に従わなければならない契約書の記載は気持ちが悪いものです。ですので、このような場合には、

「乙は、本契約に基づく業務を履行するにあたっては、甲の合理的な指示に従わなければならない。」

などと追加することが考えられます。「合理的に」ってなんだという問題が残らなくはないのですが、何もないよりはマシですね。

(4) 平等な内容にする

「乙は、甲の秘密情報を、甲の事前の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。」

相手方から提出される契約書の雛型は、基本的には相手方に有利な内容となっています。そのため、上記のように、あなたが一方的に義務を負う内容となっているケースも少なくありません。こんな場合には、

甲及び乙は、相手方の秘密情報を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。」

と直すことが考えられます。「乙」を「甲及び乙」と、「甲」を「相手方」と修正するテクニックは割と汎用性がありますので、是非使ってみて下さい。

(5) 「知る限り」という言葉を挿入する

「乙は、本契約締結日現在、第三者の特許権、実用新案権、商標権、意匠権、著作権その他の知的財産権を侵害していない。」

資金調達の場合に締結する投資契約には、上記のように第三者の知的財産権を侵害していないことについての表明保証条項が定められることが一般的です。一見至極まっとうな内容にも思えますが、あらゆる特許等の内容を確認するのは困難だと思われます。ですので、

「乙は、乙の知る限り、本契約締結日現在、第三者の特許権、実用新案権、商標権、意匠権、著作権その他の知的財産権を侵害していない。」

と修正して、後で権利侵害が判明しても、あなたがそのことを知らなければ表明保証違反とはならないようにしておきましょう!

執筆者

AZX Professionals Group

つらつらと書き綴ってみましたが、いかがだったでしょうか?
少しでも、皆さんの手助けとなれば嬉しく思います。
好評であれば続編を書こうと思います!

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