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育児介護休業法の改正

~ AZX Coffee Break Vol.20 〜

育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律。以下「法」という。)が一部改正され、平成22年6月30日より施行される。少子化対策の観点から、労働者の仕事と子育ての両立支援等を一層進めるため、男女ともに子育てをしながら働き続けることができる雇用環境の整備を目的とする改正である。本改正に伴い各企業において規程の改定や整備が必要になることも考えられることから、主な改正事項について本稿で概要を解説することとした。

(1)子育て期間中の働き方の見直し  育児休業復帰後の働き方について、仕事と子育ての両立を支援することを目的として以下のような改正が行われた。
①短時間勤務制度の義務化  現行法においては3歳に満たない子を養育する労働者について、短時間勤務制度、所定外労働免除制度、時差出勤制度などから1つを選択して、制度を設ければ良いことになっているが、本改正により、事業主は3歳に満たない子を養育する労働者について、労働者が希望すれば利用できる短時間勤務制度を設けることが義務付けられた。当該制度は原則として1日の所定労働時間を6時間に短縮する措置となる。一定範囲の労働者について、労使協定により当該制度の適用を除外することができ、その範囲は(ア)当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者、(イ)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者、(ウ)業務の性質又は業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を適用することが困難と認められる業務に従事する労働者とされている。なお、1日の所定労働時間を6時間に短縮する措置を設けた上で、そのほかに労働者の希望に基づき、1日の所定労働時間を6時間以上に設定できる措置や、隔日勤務等の所定労働日数を短縮する措置等を併せて設けることも可能であり、労働者の選択肢を増やす趣旨からこうした措置も含めることは望ましいものと考えられる。
②所定外労働(残業)免除の義務化  本改正により、事業主は3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合には、その労働者を所定労働時間を超えて労働させてはならないことが義務付けられた。当該制度の対象労働者から請求があった場合には、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、残業を命じることができず、また「事業の正常な運営を妨げる」に該当するか否かは、その労働者の所属する事業所を基準として、その労働者の担当する作業の内容、作業の繁閑、代替要員の配置の難易等諸般の事情を考慮して客観的に判断されるものであり、単に所定外労働が事業の運営上必要であるとの理由だけでは残業を命じることはできない点に留意が必要である。一定範囲の労働者について、労使協定により当該制度の適用を除外することができ、その範囲は(ア)当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者、(イ)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者とされている。なお、当該制度の請求期間と重複しない範囲で、小学校就学前の子を養育する労働者が請求した場合に認められる時間外労働の制限(1ヶ月24時間、1年150時間を超えて時間外労働を延長させてはならない)の制度は、従前どおり維持される。
③看護休暇の拡充  現行法においては小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が申し出た場合、1年度において5労働日を限度として、負傷し、又は疾病にかかった子の世話を行うための看護休暇を取得することができるものとされている。本改正により、養育する子が2人以上の場合は年10労働日を限度として看護休暇を取得することが可能となった。また、当該養育する子が負傷、疾病にかかった場合以外に、子に予防接種や健康診断を受診させる場合についても、看護休暇の取得事由として追加された。

(2)父親も子育てができる働き方の実現 現状では男性が子育てや家事にあまり関わっておらず、その結果、女性に子育てや家事の負荷がかかり過ぎていることも考えられるため、女性だけでなく男性にも育児休業の取得促進を図る観点から、以下のような改正が行われた。
①父母ともに育児休業を取得する場合の休業可能期間の延長  現行法においては、育児休業を取得できる期間は原則として子が1歳に達するまでの範囲とされている。今回の改正により、母だけでなく父も育児休業を取得することにより、原則として子が1歳2ヶ月に達するまでの範囲で、かつ父母それぞれの休業期間が1年以内(母の場合、出産当日及び産後8週間も含めて1年間)の範囲で取得できることとなった。これにより、例えば、母親が出産後引き続いて子が1歳に達するまで育児休業を取得し、その後1歳2ヶ月に達するまでは父親が育児休業を取得することも可能となる。
②労使協定による専業主婦(夫)除外規定の廃止  現行法においては労使協定を定めることにより、配偶者が専業主婦(夫)や育児休業中である場合に労働者からの育児休業申出を拒めることになっている。本改正により当該労使協定による除外対象者の規定が廃止され、配偶者が専業主婦(夫)や育児休業中であっても育児休業を取得することが可能とされた。各企業においては、労使協定において当該除外対象者の定めを設けていることが多いものと考えられることから、本改正に伴い労使協定の当該規定を削除する必要がある点に留意されたい。
③育児休業再取得の特例  現行法においては育児休業を取得して職場復帰した場合、配偶者の死亡等の特別な事情がない限り、再度の育児休業取得はできないものとされている。本改正により、出産後8週間以内に初回の育児休業を取得し、かつ同期間内に終了した場合には、特別な事情がなくても再度の取得が可能とされた。これによって、父親が配偶者の出産直後の期間に、初回の育児休業をとりやすくなる効果が期待されている。

(3)仕事と介護の両立支援 現行法においては(1)③で述べた、子を養育するための看護休暇制度はあるものの、家族介護等を行う労働者に対しての休暇制度は設けられていない。本改正により、要介護状態にある対象家族の介護その他の世話を行う労働者は、事業主に申し出ることにより、要介護状態にある対象家族が1人の場合は年5労働日、2人以上の場合は年10労働日を限度として、介護休暇を取得することができることとされた。

(4)実行性の確保 現状では法違反の事業主に対して、行政における助言・指導等により解決を図っているに留まっていることから、本改正により以下の仕組みが創設された。なお、(1)~(3)の法改正施行に先立ち、以下①のうち紛争解決援助制度及び②については平成21年9月30日より、①のうち調停制度については平成22年4月1日より施行されている。
①紛争解決援助及び調停の仕組み等の創設  法に定める事項についての紛争の当事者である労働者、事業主の双方又は一方からその解決について援助を求められた場合、都道府県労働局長が助言、指導又は勧告を行うことによってその紛争解決の援助を行う仕組みが設けられた。また、法に定める事項についての紛争の当事者である労働者、事業主の双方又は一方から申請があった場合で都道府県労働局長がその紛争の解決に必要であると認めた場合、個別労働紛争のあっせん機関として現在活用されている紛争調整委員会に調停を行わせる仕組みが新たに追加された。なお、事業主は、労働者が紛争解決の援助を求めたこと、調停の申請を行ったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されている点に留意されたい。
②公表制度及び過料の創設  法の規定に違反している事業主に対して、厚生労働大臣が法違反の是正についての勧告をした場合に、その勧告を受けた事業主がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができることとされた。また、厚生労働大臣は法施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して報告を求めることができるとされているが、この報告の求めに対して、報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する制度が設けられた。

(5)適用猶予  本改正の施行(平成22年6月30日)時点で常時100人以下の労働者を雇用する事業主については、(1)で述べた①短時間勤務制度②所定外労働免除制度及び(3)で述べた介護休暇制度についてのみ、当分の間(平成24年6月30日までの予定)適用が猶予されている。ただし、その他の改正点については、従業員数に関わらず適用される点にご留意いただきたい。

今回の改正では仕事と子育て及び家族介護の両立が図られるように、労働者の雇用環境に配慮した規定が追加されているため、法制度の対象となる労働者を雇用している事業主の負担は少なからず増大する可能性がある。なお、本改正の適用が一部猶予されている事業主であっても、その他の改正事項は適用されることから、改正法に対応した社内整備を進めることが望ましい。また、仕事と家庭の両立支援を行うことは、企業にとって優秀な人材の確保・育成・定着につながるメリットもあることから、各企業において本改正により各種規程の整備・見直しを図り、運用方法についても慎重に検討すべきと考えられる。

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