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会社法における種類株式設計の留意点(3)

2013/02/25

~ AZX Coffee Break Vol.28 ~

本稿は2013年2月14日に発行したAZX Coffee Break Vol.27「会社法における種類株式設計の留意点(2)」の続きである。

(9) 種類株主総会決議事項 種類株式を発行している会社は、株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とすることを定めることができる(会社法第108条第1項第8号)。投資契約等は「契約」に過ぎないため投資家の拒否権を無視されて取締役会決議等が行われてしまえば、契約違反としての責任が発生するものの、当該決議自体は会社法上有効となるが、定款で種類株主総会決議事項とすれば、種類株主総会決議なく決定された事項は会社法上無効となる。

しかし、あまりに細かい事項について種類株主総会決議事項とすると、本来は取締役会で機動的に決議して迅速に対応するべき事項について、逐一種類株主総会を開催する必要があり、会社の意思決定の迅速性に支障が生じる可能性がある。また、リード・インベスターとしての投資家にとっても、投資契約等での拒否権であれば自己のみが拒否権を保有できるところを、種類株主総会決議事項とすると、持株比率の極めて低い投資家についても理論上は意思決定に参加させる必要があることになる。さらに、ベンチャー企業の場合、資金調達のラウンドを重ねていくことが多く、投資時点では種類株主総会での議決権の過半数をおさえていたとしても、その後の新株発行で持株比率が下がり、実質上拒否権を失ってしまうことも考えられる。投資契約等で拒否権を定めた場合には契約を修正しない限りこのような事態は生じない。また、現実的には、投資契約の違反については、経営者による株式買取義務などのペナルティーがあり、投資家の拒否権を明確に無視して強行するという事態は想定しにくく、投資契約の拘束力は必ずしも弱いとはいえない。また、種類株主総会決議事項の定め方が曖昧であると、実際にある事項を決定する際に、種類株主総会決議が必要であるかの判断が困難となり、不要と判断して進めた事項が、後にやはり必要であったとなると、定款違反として無効となる可能性もあるため、種類株主総会決議事項の明確性には特に注意をした方がよいと考えられる。

従って、種類株主総会決議事項の定めは会社の迅速な意思決定を阻害する可能性があること、種類株主総会決議事項とすることによってかえって他の持株比率の低い株主に無用な権利を与えてしまう可能性があること、その後の持株比率の低下で実質上拒否権を失ってしまう可能性があること等を考慮して、どの事項を種類株主総会決議事項とするべきかを慎重に検討する必要がある。

(10) 役員選任権 会社法第108条第1項第9号より、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することを定めることが可能である。取締役等の解任についても、その取締役等を選任した種類株主総会の特別決議で行うことができる(会社法第347条、第339条)。また、留意するべき点として、会社法第112条において、法令又は定款に定めた取締役の員数を欠きその員数に足るべき数の取締役を選任するべき株主が存しない場合においては、取締役の選任権に関する定款の定めは廃止したものとみなされる(監査役についても準用されている)ため、注意が必要である。

ベンチャー業界においては、かかる会社法及び旧商法の規定ができる以前から投資契約において取締役等の指名権を規定し、投資先企業に取締役を派遣してきた。この規定で定める種類株主の役員選任権はこのような取締役の指名権を会社法上の権利として定めることを可能としたものである。しかし、役員選任権についても、種類株主総会決議事項と同様の問題がある。すなわち、投資契約であれば特定の投資家にのみ指名権を与えることが可能であるが、種類株式の役員選任権を利用する場合には、本来役員指名権など全く有しない持株比率の低い株主に対しても投資家の指名する取締役候補の適否について理論上意思決定に参加させる必要があることになる。さらに、投資時点では役員選任の株主総会での議決権の過半数をおさえていたとしても、ベンチャー企業が資金調達のラウンドを重ねていく過程で持株比率が下がり、実質上役員の選任権を失ってしまうことも考えられる。また、投資契約においては取締役の指名権だけを確保しておいて、実際にはいざというときまで指名権を行使しないという取扱いが可能であるが、優先株式の内容として役員選任権を定めた場合には、他の優先株主との関係上、このような柔軟な運用ができるか疑問の面もある。従って、役員選任権を規定するか否かについては慎重に検討する必要がある。なお、この役員選任権を定めた場合には、取締役等の選任が上記(7)記載の種類株主総会決議事項とすることができず、普通株主による取締役の選任について会社法上の拒否権を定めることができなくなる点注意が必要である。

(11) みなし清算条項/優先分配規定 株式譲渡、合併その他のM&Aが生じた場合、その対価の分配において、清算したものと仮定して、清算時の残余財産の分配と同様に種類株主が優先的な分配を受ける旨を定款又は投資契約に定める場合がある。これは、種類株式の優先残余財産分配権と同じ効果を解散以外のExit(主としてM&A)の場合にも実質的に確保するものである。このような規定は米国型の種類株式では極めて一般的なものとして規定されているものであるが、日本においても、Exitの一つとしてのM&Aの重要度が高まってくるとともに、投資家にとって重要な権利として認識され始めてきているものである。かかるみなし清算条項を定める場合には、同じ普通株式でありながら、M&Aにおける対価の金額に差を設けることは税務上説明が困難となるため、必然的に種類株式を発行して、その種類株式毎に通常は優先残余財産分配額に連動する形で、M&Aにおける対価の金額を分配するという形式を取ることになる。そして、税務上のリスクをできるだけ低減するには、同じ種類の株主は同じ単価の対価を取得する形にする必要があり、例えば、A種優先株主のうち一部のみみなし清算条項に基づく優先的な分配を受け、他のA種優先株主はそのような優先分配を受けないなどの形となってしまうと、一物二価の状況となり、税務上のリスクが高まってしまうため、全株主を拘束して、株式の種類ごとに均一の取り扱いとする必要がある。

このみなし清算条項を定款で定めるべきか、契約で定めるべきかは一つの論点である。そもそも定款で定めることができるかという点が問題となるが、かかるみなし清算条項は会社法が定める種類株式の内容には含まれないものの、合併等の対価を株式の種類ごとに異なる形で定めることは会社法において予定されており、それを予め定款で定めることを制限するべき理由はなく、会社法上かかる制限に関する規定もないことから、定款で定めること自体は可能であると考えられる。かかるみなし清算条項を定款で定めた場合には、自動的に全株主に強制的に適用されるが、契約で定める場合には、全株主との間で契約を締結する必要があり、株主が多い場合はそれが困難な場合もある。しかし、定款で定めることは自動的に全株主を強制できるという利点はあるものの、定款で規定できるのは合併、株式交換、株式移転等の会社を主体とする会社再編行為に関するものであり、純粋な株式譲渡型のM&Aについては、単に株主間の問題であり、会社法上の手続としては、会社は譲渡承認と株主名簿の名義書換以外の点で関わる場面がないため、会社の行為を規律する定款で定めた場合の有効性には疑問があり、純粋な株式譲渡型のM&Aについてのみなし清算条項については、別途全株主と契約を締結する必要があると考えられる。また、みなし清算条項を定款で定めた場合、当該条項に違反した分配を定めた合併は定款違反として無効となる懸念があるが、例えば、優先残余財産の金額が1株100万円であり、合併対価が株式であった場合、100万円分の株式が何株であるかの計算を客観的に確定できるかという問題があり、この計算が間違っていた場合には合併自体の無効原因となる可能性がある。定款違反の場合は、全株主に異議がなかったとしても、やはり無効であると解される可能性が高い。また、みなし清算条項を定款で定めたとしても、実際にその定款通りの分配に反対の株主は、会社法上の反対株主の買取請求権を行使することが考えられ、この点を定款で有効に排除できるかは疑問の面がある。契約であれば、株主間の合意として、かかる反対株主の買取請求を行使せずM&Aに応じるという合意は基本的には有効と考えられる。但し、定款に定めた場合は違反行為は定款違反として原則として無効となるのに対して、契約については、違反行為は直ちに無効とならないため、契約で定めた規定の実効性を確保するため、違反した場合のペナルティーについて検討する必要がある。このようにみなし清算条項を定款で定めることは、自動的に全株主に強制的に適用され、違反行為は無効と考えられるというメリットがあるものの、上記のようないくつかの懸念点もあり、また、純粋な株式譲渡型のM&Aとの関係ではいずれにしても契約が必要となることから、原則としては、みなし清算条項は契約で定めることし、株主が多数であり、全株主との契約締結が困難である場合には、定款で定めるという方針も一つの合理的な考え方であると考える。

なお、このみなし清算条項との関係で、M&Aに対して一定の株主が請求した場合には、経営陣をはじめ他の全株主がM&Aに応じるべき旨を定める強制売却権も合わせて規定されることが多いが、強制売却権は定款での規定事項ではなく、投資契約や株主間契約の問題であるため本稿では説明を割愛する。

(12) Pay to Play条項 種類株式に関連して、日本においてもPay to Play条項を定めることができるかという議論がある。Pay to Play条項とは、主にダウンラウンド(直前の資金調達時の株価よりも低い株価の資金調達ラウンド)において、既存の種類株主が追加出資をしない場合に、希薄化防止条項の発動を停止したり、種類株式を普通株式又はグレードの低い他の種類株式に強制転換したりする規定である。すなわち、投資先の株主として優先権のついた投資を維持する(“Play”)には、追加出資(“Pay”)するべきであるという規定であり、ダウンラウンドでの追加投資における既存投資家と新規投資家(追加投資を行う投資家を含む。)の利害調整を図るものである。Pay to Play条項については、株式は譲渡により流通していくことが想定されているため、同じA種優先株式でありながら、ある条件の発動で、希薄化防止条項が適用されていない株式と、希薄化防止条項が適用されている株式が混在することは認められないと考えられるため、同じ種類の株式の中で複数の種類が生じてしまうような設計は難しいと考えられるが、追加投資に応じないなどの特定の条件が生じた種類株主の株式を会社が取得して、別の種類の株式を交付できる取得条項を定めるなどの対応で、理論上は設計できるものと考える。但し、当該「別の種類の株式」をどのような内容で予め定めることができるかという点は一つの検討課題であり、また、登記の可否については法務局と事前に相談した方が安全である。なお、日本のベンチャー投資の実務においては、各投資家が追加投資に応じるか否かはその時の状況次第であり、一般的なVCの場合には原則として新たに投資委員会の決定が必要になることから、予めPay to Play条項を定めてしまうと自己に不利な結果になってしまう可能性も十分にある得ることから、Pay to Play条項を定めるケースはかなり少ないようである。

以上

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