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商法改正(株券普通不発行制度等)

~ AZX Coffee Break Vol.7 〜

平成16年の会社法改正として、「電子公告制度の導入のための商法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第87号)及び「株式等の取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律等の一部を改正する法律」(同年法律第88号)が成立した。前者は、商法上の公告手続の合理化を図るものであり、来年2月の施行が予定されている。後者は、商法における株券等の不発行制度の導入と、社債、株式等の振替に関する法律(社債等振替法)におけるペーパーレスの株式等の導入を柱としており、商法の改正は本年10月1日に施行され、社債等振替法は約5年後の施行が予定されているものである。本稿では、上記法律第88号に基づき10月1日より施行されている株券等の不発行制度に関連する商法改正について概説する。なお、多くのベンチャー企業が未上場の会社であることから、紙面の都合上、非公開会社に関連する部分を中心に説明させて頂く。また、同時に有限会社法も一部改正されているが本稿では割愛する。

(1)株券不発行に関する制度改正の概観  従前の商法においては、原則として全ての株式について株券が発行され、その譲渡について株券の交付を要する建前となっている。公開会社においては株券の保管振替制度が適用され、口座振替の方法による簡易な株式の流通が図られているが、この制度も商法に基づく株券の存在と振替機関に対する預託が前提となっていた。今回の改正は、従前から問題視されてきた株券の存在に伴う株券の発行、流通、管理等のリスクやコストを削減するために、商法上株券を発行しないことを可能とし、また振替制度についても株券不発行の株式(ペーパーレス株式)に対応できるよう改正が行われたものである。なお、現行の株券の保管振替制度は「株券等の保管及び振替に関する法律」に基づくものであるが、今回の改正により、社債等の振替制度を定めた「社債等の振替に関する法律」に合体され、後者の法律が「社債、株式等の振替に関する法律」と改称して改正される形になっている(「株券等の保管及び振替に関する法律」は改正法の施行に伴い廃止となる。)。また、後述するとおり、公開会社においては、社債等振替法改正の施行と同時に自動的に株券廃止会社となってペーパーレス株式の振替制度が適用されることが予定されているものである。

(2)株券の不発行制度  
①株券廃止会社制度  定款に定めを設けることによって、株券を発行しない株券廃止会社になることができる。この場合一切株券が発行されなくなるので、株式の譲渡は意思表示のみで可能となり、株主名簿の名義書換が会社及び第三者に対する対抗要件ということになる。従前より株主名簿の名義書換が会社に対する対抗要件である旨が規定されているが、今回の改正により、株券廃止会社においては株主名簿の名義書換が第三者対抗要件となる旨の規定が追加され、同時に株券廃止会社における名義書換に関するルール(原則として譲渡当事者双方の共同請求を要する等)が規定されている。株券廃止会社となるための定款変更を行う場合には、その旨及び既存の株券が無効となる旨の公示(公告及び通知。後述の準株券廃止会社が株券廃止会社となる場合は通知のみ。)を行う必要があり、当該公示において指定された一定の日に既存株券が無効となると同時に定款変更の効力が生じることになる。なお、改正法の附則により、公開会社は約5年後に予定される社債等振替法改正の施行と同時に、この定款変更を行ったものとみなされ、当然にペーパーレス株式の振替制度の適用を受けることになる。公開会社が社債等振替法改正の施行前に自ら株券廃止会社となるための定款変更を行うことも法律上は可能であるが、公開会社は同改正施行までは株券の存在を前提とした既存の振替制度により株式の流通を図る必要があるため、公開継続を前提とする限り事実上この定款変更を行うことはないと考えられる。なお本稿ではペーパーレス株式の振替制度の適用を受ける場合の詳細については説明を割愛する。
②譲渡制限会社の株券発行時期の特例  譲渡制限会社の場合、株券廃止会社への定款変更をしなくても、株主が株券の発行を請求しない限り、株券を発行することを要しなくなる。従前は、株式発行時には株券を発行することを前提として、株主が株券不所持の申出をした場合にのみ株券不発行の措置を講じることができたが、今後発行される譲渡制限会社の株式については、逆に株券の発行が請求された場合にだけ株券を発行すれば足りることとなる。従前の株券不所持制度については存続するが、今回の改正で従前認められていた不所持株券の銀行又は信託会社への寄託の方法は廃止されている。なお、この特例は株券廃止会社のように株券の存在を否定するものではないので、株式の譲渡については従前どおり株主において株券の発行を受けてこれを譲受人に交付する必要がある。
③株券廃止会社等についての特例  株券廃止会社と、②に記載した特例又は株券不所持制度により発行済株式について全く株券が発行されていない会社(準株券廃止会社)において、株券の存在を前提とした規定の適用を除外し、又は修正する措置が講じられた。制度上株券が存在しなくなる株券廃止会社については、株式の譲渡に株券の交付を要する旨の規定や、株券発行義務、株券不所持制度等の株券の存在を前提とした規定が適用除外となる。また、株券廃止会社と準株券廃止会社の共通の特例として、株式消却、株式併合、強制転換条項付株式の転換等において要求されている株券提供公告につきこれに代えて効力発生日等の公告をなすべきこと、株式交換、株式移転及び合併で要求されいる株券提供の公告が不要であること、商法上の株主宛の公告(上記効力発生日の公告等、詳細は商法第228条ノ2参照)について通知で代用することが許容されることといった、合理化の措置が講じられている。

(3)新株予約権証券等の不発行制度  株券廃止会社が発行する新株予約権については、新株予約権証券を発行できない。この場合、株式と同様、譲渡は意思表示により行い、新株予約権原簿への記載が第三者対抗要件となる。但し、株券廃止会社となる前に発行された既存の新株予約権証券の効力には影響を及ぼさず、これについては新株予約権の譲渡のためには証券の交付が必要となる。新株予約権付社債については商法上不発行の制度は採用されず、従前どおり全て新株予約権付社債券の発行を要するものとされている。なお、公開会社で振替制度が適用される場合には社債等振替法による特例が適用されるが、その詳細は割愛する。

(4)その他の改正事項  株券等の不発行制度とは別に、主に以下のような改正事項がある。
①株主名簿の閉鎖期間制度の廃止  会社が株主として権利を行使すべき者を確定するための手段として、従前株主名簿の閉鎖期間と基準日の制度が認められていたが、株券廃止会社において株主名簿を閉鎖することによって長期間株式譲渡の対抗要件の取得が不能になるという不都合性や、制度としての必要性の低下を理由として、株主名簿の閉鎖期間制度は廃止された。非公開会社では定款で決算期後一定期間の名簿閉鎖を定めている例が多いと思われるが、経過措置として、定款の名簿閉鎖の定めは、閉鎖期間初日の前日を基準日として指定する旨の定款変更があったものとみなすこととされている。但し、基準日については何の権利行使に対する基準日かを本来定める必要があるため、取締役会でその点を定めるべきものとされた。また、改正施行日をまたがる閉鎖期間中に限り会社は名義書換をしなくて良い等の経過措置も規定されている。
②新株発行の効力発生時期  従前、払込を行った新株引受人は払込期日の翌日から株主となる旨定められていたが、今回の改正により払込期日の当日から株主となるものとされた。なお、経過措置として、施行日の前日である平成16年9月30日を払込期日として新株発行(又は自己株式の処分)をした場合には、その引受人は10月1日から株主となる旨が規定された。この経過規定からは、既に新株発行の手続が施行日前に開始されていた場合でも、払込期日が施行日以降であれば改正法の適用を受ける趣旨であると解釈される。

今回の改正は、株券の不発行制度を軸に大幅に制度の合理化を図ったものであり、ベンチャー企業の会社法務に大きな影響を及ぼすものと考えられる。今後多くの会社が株券廃止会社となることも予想されるが、新法の規制を正確に把握して慎重に良否を検討すべきである。株券の発行や交付の懈怠が多く見られたベンチャー企業にとっては、株券不発行制度は歓迎すべき制度と言えるが、制度が複雑になった面もあり、会社法上の諸手続に幅広く影響を及ぼすものであるため、専門家に相談しつつ慎重な対応を心掛けるべきである。

(文責:弁護士 林 賢治)

 

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