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不正競争防止法(改正)

2004/03/12

~ AZX Coffee Break Vol.4 〜

不正競争防止法が一部改正され、平成16年1月1日に施行された。不正競争防止法は、特許法、著作権法、商標法等で保護し切れない知的財産権を保護することを主目的とした、企業にとって存在意義の大きな法律であるが、今回の改正は営業秘密の保護を中心に、更なる保護の強化を図ったものである。昨今の情報のデジタル化や社会のネットワーク化、人材の流動化等に伴い、企業の営業秘密が国内外の競争他社に流失し、企業の競争力を損なう等営業秘密をめぐるトラブルが増大していることから、企業の経済活動における営業秘密の重要性は一層の高まりをみせている。本改正の背景には、このような状況下で多くの企業が不正競争防止法の刑事的保護及び民事的保護が不十分であると認識し、経済社会のネットワーク化の進展に対応した営業秘密の保護の明確化が必要とされていたことがある。

今回の改正の主たる内容は、①刑事罰による営業秘密の保護強化、②不正競争行為に対する民事的保護の強化(損害賠償の立証負担軽減)、③情報化の進展に沿った規定の整備の3点である。

(1)刑事罰による営業秘密の保護強化 周知のとおり、本法は、商品表示、商品形態、ドメイン名等に関する権利及び利益を保護するとともに、営業秘密を保護の対象としている。「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(本法第2条第4項)を意味し、出願公開前の特許出願に関する情報を始めとして、かかる要件を満たすものであれば、技術的なデータ、顧客名簿、販売マニュアル等もこれに含まれる。営業秘密について、従前から本法は、正当な保有者からの営業秘密の不正取得、不正取得が介在したことを知った上での営業秘密の使用、開示などの行為を複数の類型に分けて「不正競争行為」と定義し、かかる不正競争行為について民事上の差止請求及び損害賠償請求等をなし得る旨定めていたものであるが、かかる営業秘密の侵害行為に対して刑事罰は規定されていなかった。今回、営業秘密の保護強化のため、営業秘密侵害行為のうち一定の類型について、刑事罰が規定されたものである。いかなる場合に刑事罰の対象となるかを把握しておくことは、企業のコンプライアンス上重要と思われるため、以下に説明する。

① 詐欺等行為(詐欺、強迫等の行為)又は管理侵害行為(記録媒体の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為等)により取得した営業秘密を、不正の競争の目的で、使用し、又は開示すること(本法第14条第3号): 何ら取得、使用等の権限のない者が、不正な行為によって営業秘密を取得した上で、これを不正な競争の目的で利用する行為が主として想定されている。

② ①の使用又は開示の用に供する目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為により、営業秘密を記録媒体の取得、又は記録媒体の複製の作成の方法で取得すること(同条第4号): ①は営業秘密の利用行為を罰するものであるが、②はその準備行為としての情報の取得行為を罰するものであり、大容量の情報伝達を可能とし得るという意味で被害拡大の可能性の高い、記録媒体の取得又は複製による取得行為に限定してこれを罰することにしたものである。

③ 営業秘密を保有者から示された者が、不正の競争の目的で、詐欺等行為若しくは管理侵害行為により、又は横領その他の営業秘密記録媒体の管理に関する任務に背く行為により、営業秘密の記録媒体の領得又はその複製を行った上で、その営業秘密を使用又は開示すること(同条第5号): 従業員等で保有者から一旦正当に営業秘密を開示された後の一定の営業秘密の利用行為を処罰するものである。①と類似する面もあるが、全くの無権限者でなく一旦情報の開示を受けた者の行為であることに照らし、営業秘密の記録媒体の領得又は複製の行為を経由した場合に限定されている。

④ 営業秘密を保有者から示された保有者の役員、従業員等が、不正の競争の目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、その営業秘密を使用し又は開示すること(同条第6号): 営業秘密の保有者の役員、従業員等に該当する者についての③に準じた処罰類型である。組織内の人間として営業秘密に接する機会が多く、かつ定型的に守秘義務を負っていることが多いことを踏まえ、③のような取得態様の限定(営業秘密の記録媒体の領得又は複製)をせずに処罰対象とするものである。なお、「役員」とは、「理事、取締役、執行役、業務を執行する無限責任社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。」とされる。「従業者」については明確に定義されていないが、従業員のほか、派遣労働者を含むと解され、請負労働者等の類型については、守秘義務の存否等の観点からケース毎に判断されるものと解されている。

上記違反行為に対する刑事罰は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金となっている。従業員等の行為について法人を罰する両罰規定は適用されないこととされた。また、営業秘密に関するこれらの犯罪行為については、親告罪とされ、被害者たる営業秘密の主体の告訴がなければ処罰されないものとされている。

営業秘密侵害行為に対する刑罰の新設は、営業秘密の保護に大きく資するものと考えられる。企業は自社の営業秘密保護という観点からも、また従業員等による第三者の営業秘密の侵害を防止する意味からも、従業員等に対してかかる規制強化について周知徹底することが重要と考えられる。

(2)不正競争行為に対する民事的保護の強化(損害賠償の立証負担軽減) 知的財産権の侵害を理由とする損害賠償請求においては、民事訴訟の場において損害額の立証が容易でないことが多く、その立証負担の軽減が重要問題となってきた。不正競争防止法においても、権利侵害者の得た利益の額を損害額と推定する旨の規定や使用料相当額を損害額として請求できる旨の規定があったが、今回、一定の不正競争行為について、当該行為に伴って権利侵害者が譲渡した物の数量に、被侵害者がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額をもって損害額とすることができる旨の規定が追加された。これに相当する規定は、特許法や著作権法などにおいても定められているものであり、不正競争防止法においても同様の民事的保護が図られたものである。その他、裁判手続における損害額立証容易化のための規定が新設されている。

(3)情報化の進展に沿った規定の整備 インターネットの発展に伴い、インターネット経由のダウンロードなど、ネットワークを通じた流通が発展している現状において、他人の商品表示と類似する商品等を譲渡、展示等する不正競争行為につき、ネットワークを通じた商品等の提供が不正競争行為に含まれるのかどうか、条文の文言上明確となっていなかった。このため今回の改正において、電気通信回線を通じた提供行為が不正競争行為に該当することが明確にされた。また、本法においては、侵害差止の手段としての侵害を組成する物の廃棄、損害額算定基準としての物の譲渡数量といった形で、「物」という用語が用いられているが、これが有体物のみならずプログラムを含むことが、今回あわせて明記された。いずれも、情報化の進展に沿った明確化のための法改正である。

不正競争防止法は、既存の企業の知的財産権やノウハウの保護にとって重要な法律であり、また、新規に事業を開始するベンチャービジネスにとっても、他の事業者等が有するノウハウ等を利用することが本法違反にならないかどうか、慎重な検討が必要なものである。今回の改正に伴って営業秘密を中心に規制が厳格になり、今後はより一層の注意が必要と考えられる。

(文責:弁護士 林 賢治)

 

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