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優先株式設計の留意点(2)

2004/03/12

~ AZX Coffee Break Vol.4 〜

本稿は2003年12月に発行したAZX Coffee Break Vol.3の「優先株式設計の留意点(1)」の続きである。

(4)議決権制限株式 優先株式等の種類株式であっても1株につき1議決権が与えられるのが通常であり、種類株式を発行する際にはこの点を確認的に定款に明記しておくことが多い。なお、旧商法においては、無議決権株式は配当優先株式でなければならないという規定があり、そこから優先株式=無議決権株式であるとの誤解が生じていた面があるが、以前から議決権を有する優先株式の発行は可能であった。

商法第222条第1項第5号より会社は「株主総会において議決権を行使することを得べき事項」についても内容が異なる株式(議決権制限株式)を発行することが可能である。この議決権制限株式については、帳簿閲覧権などの一定の株主の権利や簡易合併等を拒否する権利等を有しない旨を定めることが可能であるため(商法第222条第4項)、議決権を制限する場合にはこれらの権利の制限も定めることを検討する必要がある。優先配当が行われなかった場合などには制限された議決権が復活する旨の規定を定款において定めることも可能であると解釈されている。議決権制限株式は発行済株式総数の2分の1を超えて発行することができない(商法第222条第5項)。なお、現在の日本のベンチャー業界では、優先株式を要請するのはVC等の投資家であることが通常であるため、議決権制限株式とされることはまれである。

(5)種類株主総会決議事項 種類株式を発行している会社は、法令又は定款における株主総会又は取締役会の決議事項の全部又は一部についてその決議のほか特定の種類の株主の総会の決議を要する旨を定めることができる(商法第222条第9項)。これは、従来の投資契約等において投資家の拒否権として規定されていたものにつき、商法上株式の内容として認めて実効性を高めたものである。投資契約等は「契約」に過ぎないため投資家の拒否権を無視されて取締役会決議等が行われてしまえば、契約違反としての責任が発生するものの、当該決議自体は商法上有効となるが、定款で種類株主総会決議事項とすれば、種類株主総会決議なく決定された事項は商法上無効となる。また、種類株主総会決議事項について、会社の財務状況が一定の基準を下回った場合など、一定の事由が発生した場合にのみ、種類株主総会決議事項となるように条件を設定したり、そのような場合に種類株主総会決議事項を定めた種類株式に転換できるようにしたりするなどの方法も理論上考えられる。

他方、あまりに細かい事項について種類株主総会決議事項とすると、本来は取締役会で機動的に決議して迅速に対応するべき事項について、逐一種類株主総会を開催する必要があり、会社の意思決定の迅速性に支障が生じる可能性がある。特に、株式公開直前での修正作業等、迅速性を要求される場合に種類株主総会の開催が支障になる可能性も否定できない。また、リード・インベスターとしての投資家にとっても、投資契約等での拒否権であれば自己のみが拒否権を保有できるところを、種類株主総会決議事項とすると、持株比率の極めて低い投資家についても理論上は意思決定に参加させる必要があることになる。さらに、ベンチャー企業の場合、資金調達のラウンドを重ねていくことが多く、投資時点では種類株主総会での議決権の過半数をおさえていたとしても、その後の新株発行で持株比率が下がり、実質上拒否権を失ってしまうことも考えられる。投資契約等で拒否権を定めた場合には契約を修正しない限りこのような事態は生じない。また、現実的には、投資契約の違反については、経営者による株式買取義務などの大きなペナルティーがあり、投資家の拒否権を明確に無視して強行するという事態は想定しにくく、投資契約の拘束力は必ずしも弱いとはいえない。

従って、種類株主総会決議事項の定めは会社の迅速な意思決定を阻害する可能性があること、種類株主総会決議事項とすることによってかえって他の持株比率の低い株主に無用な権利を与えてしまう可能性があること、その後の持株比率の低下で実質上拒否権を失ってしまう可能性があることを考慮して、どの事項を種類株主総会決議事項とするべきかを慎重に検討する必要がある。なお、株式の譲渡制限については、商法が認めた取締役会の承認という規制を上回る規制を設けること(例えば、株主総会決議事項とすること)は、株主にとって重要な投下資本回収の手段を不当に制限するものとして認められないと解されてきた関係から、株式譲渡の承認を種類株主総会決議事項とすることは無効であると判断される可能性が高いので注意を要する。

また、取締役の選任又は解任など重要事項について、種類株主総会決議事項となっており、当該種類株主総会で否決されるなどしていわゆるデッドロックの状態に陥ることも想定され、その場合に強制的に普通株式への転換を認めるなどしてその状態を解消するということもあるが、他方で安易にこれを認める場合には種類株主総会決議事項とした意味が薄れてしまうため、その導入には慎重な検討が必要である。

(6)役員選任権 商法第222条第1項第6号より、各種類株主が取締役及び監査役を一定の人数選任することを定めることが可能である。会社がかかる定めをする場合には、全ての種類の株式について定款をもって、各種類の株主が取締役等を選任することの可否及び可とする場合の選任可能人数、その他一定の事項を定める必要がある(商法第222条第7項)。取締役等の解任についても、その取締役等を選任した種類株主の特別決議で行うことができる(商法第257条ノ3)。また、留意するべき点として、商法第257条ノ5において、法令又は定款に定めた取締役の員数を欠きその員数に足るべき数の取締役を選任するべき株主が存しない場合においては、取締役の選任に関する定款の定めは廃止したものとみなされる(監査役についても準用されている)ため、具体的な規定を定める場合には、かかる事態が生じないように特定の種類の株主が存在しなくなった場合の措置等を規定しておく必要がある。

ベンチャー業界においては、かかる商法の規定(商法第222条第1項第6号)ができる以前から投資契約において取締役等の指名権を規定し、投資先企業に取締役を派遣してきた。この規定で定める種類株主の役員選任権はこのような取締役の指名権を商法上の権利として定めることを可能としたものである。種類株主総会決議事項に関して述べたように、会社の財務状況が一定の基準を下回った場合など、一定の事由が発生した場合にのみ、役員選任権が発生するように条件を設定したり、そのような場合に役員選任権を定めた種類株式に転換できるようにするなどの方法も理論上考えられる。

しかし、役員選任権については、種類株主総会決議事項と同様の問題がある。すなわち、投資契約であれば特定の投資家にのみ指名権を与えることが可能であるが、種類株式の役員選任権を利用する場合には、本来役員指名権など全く有しない持株比率の低い株主に対しても投資家の指名する取締役候補の適否について理論上意思決定に参加させる必要があることになる。さらに、投資時点では役員選任の株主総会での議決権の過半数をおさえていたとしても、ベンチャー企業が資金調達のラウンドを重ねていく過程で持株比率が下がり、実質上役員の選任権を失ってしまうことも考えられる。また、投資契約においては取締役の指名権だけを確保しておいて、実際にはいざというときまで指名権を行使しないという取り扱いが可能であるが、優先株式の内容として役員選任権を定めた場合には、他の優先株主との関係上、このような柔軟な運用ができるか疑問の面もある。従って、役員選任権を規定するか否かについては慎重に検討する必要がある。なお、この役員選任権を定めた場合に、取締役等の選任が上記(5)記載の種類株主総会決議事項とされていた場合の効力及び取扱いについては、不明確な面があるため設計にあたってはこの点も注意する必要がある。

(次号へ続く)

(文責:弁護士 後藤勝也)

 

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