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販売代理店契約の留意点(1)

2004/01/30

~ AZX Coffee Break Vol.4 〜

ベンチャー企業にとって、自社の商品やサービスをいかに販売していくかという問題は極めて重要である。素晴らしい製品等を開発していながら、販売力の欠如により売上が伸び悩んでいるケースも多い。十分な営業体制を構築するための資金力等が十分とはいえないベンチャー企業においては、販売代理店の利用により販売力を強化することは重要であり、販売代理店契約はベンチャー企業の成長にとって重要な契約の一つであるといえる。そこで、本稿においては、ベンチャー企業が販売代理店を利用する場合の販売代理店契約について解説する。

(1)形態の明確化 販売代理店契約においては、まずその形態を明確にすることが大切である。この形態を誤ると、取引の実態や会計処理と契約の内容にずれが生じ株式公開において支障となる場合もある。ベンチャー企業の販売代理店契約を多数見てきた経験上、形態の明確化という基本的な部分が不明確になっている契約も多いため、念のため解説することとする。

販売代理店契約は、大きく分けて①売買型と②仲介型に区別される。売買型とは、供給者が販売代理店に対して商品等を販売し、販売代理店がその購入した商品等を顧客に販売するという形態である。商品等の代金は、理論上は顧客から販売代理店に支払われ、販売代理店から供給者に支払われる。この場合、販売代理店は供給者との関係では買主となり、顧客との間では売主となる。従って、この形態においては、販売代理店は売買契約の当事者であり、「代理」をしているわけではないため、「代理店」というより「販売店」という表現の方が適切であるが、取引慣行上は「販売代理店」又は「代理店」と呼ばれることも多い。仲介型とは、販売代理店が開拓した顧客を供給者に紹介し、供給者が顧客と契約を締結して商品等を販売し、販売代理店に対して手数料を支払うものである。この場合、販売代理店は顧客を紹介するだけであり、商品等の販売の当事者となるわけではない。そのため、商品等の代金は直接顧客から供給者に支払われ、販売代理店は供給者から手数料を取得するだけである。場合により、販売代理店が顧客から商品等の代金を受領することがあるが、契約関係としては、販売代理店が供給者に代わって顧客から代金を受領しているだけであり、顧客に対する債権を有しているのは販売代理店ではなく、供給者である。なお、仲介型において、販売代理店が顧客から代金を回収する場合には、預り金についての出資法の規定や、弁護士以外の者による債権回収を禁止していると解釈されている弁護士法第72条の規定に抵触しないように注意する必要がある。

販売代理店契約の基本型は以上の通りであるが、取引の実態としてはこの区別が曖昧となっていることがある。これは、売上等の計上の仕方に起因する場合が多い。売買型の場合において、供給者が商品等を90万円で販売代理店に販売し、これを販売代理店が顧客に対して100万円で販売する場合、販売代理店の売上は100万円、粗利益は10万円となる。他方、仲介型において、供給者が商品等を100万円で顧客に販売し、10万円を販売代理店に対して手数料として支払う場合、販売代理店の売上は10万円、粗利益は10万円となる。いずれのケースでも、販売代理店の粗利益は同じである。ところが、日本の取引慣行においては、「売上」が重視される傾向にあり、上記ケースで販売代理店が売上として100万円を計上したいと考えることが多く、他方で販売代理店としては商品等の売主としての顧客に対する責任を負いたくないため、契約関係としては仲介型を要請することが多い。販売代理店として100万円の売上を計上したいのであれば、自己が商品等の販売者とならなければならないはずなのに、なぜか商品等の販売者ではないものの顧客から商品等の代金を自己の債権として徴収し、売上計上している場合がある。このようなねじれた現象が生じている場合、株式公開との関係で、会計処理が適切であったか否か、契約書と取引の実態がずれていないかという点が問題となる可能性があるため、株式公開を目指すベンチャー企業にとっては、この点をきっちりと整備しておく必要がある。

本稿においては、販売代理店契約の上記基本的な分類に基づき、「売買型」においてベンチャー企業が供給者として、販売代理店を利用する場合の契約の留意点について解説する。なお、売買型の場合、代理店というよりも「販売店」という名称の方が契約関係に沿っているため、以下は「販売店」という用語を使用することにする。

(2)対象物、テリトリー等の明確化 ライセンス契約の解説でも述べたが契約において対象物を特定することは重要である。例えば、ソフトウェア製品の場合、どのバージョンの製品について対象としているのか等を明確にしておく必要がある。また、販売店としての活動の場所的な範囲としての「テリトリー」を定めることがあり、ベンチャー企業の販売戦略において各販売店のテリトリーの明確化は重要となる場合がある。ただし、テリトリーの設定に関しては、独占禁止法との関係で公正取引委員会が定めている「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」において、販売地域に関する制限について一定の指針が規定されているため、この指針との整合性を検討しておくのが安全である。

(3)独占/非独占の明確化 販売代理店契約においては、独占と非独占を明確にする必要がある。また、「独占」といっても、供給者自身も当該商品等を販売できないという場合と、他の販売店を設定しないだけであり供給者自身はエンド・ユーザーへの販売は可能であるという形態があるため、「独占」とする場合にはいずれの形態であるのかを明確にする必要がある。また、独占については、一定範囲の商品や一定範囲のテリトリーに関してのみ独占とする場合のように部分的な独占権を与える場合があり、また、一定購入量の定めを遵守する限りにおいて独占とし、その購入量を下回った場合には独占性を喪失させる等の定めも可能である。供給者にとって、独占的な販売権を販売店に付与するということは、当該商品等の販売についてその販売店に全面的に依存することとなり、その範囲で自己の事業活動が制約されることにもなるため、独占権の付与の条件については慎重に検討するのが賢明である。

(4)仕切価格の設定 仕切価格(販売店への販売価格)は供給者の売上を決定するものであり、販売代理店契約において最も重要な要素の一つである。仕切価格については、通常契約締結時において契約の対象となっている商品について特定の金額が定められるのが通常であるが、契約期間が長い場合には、経済情勢や競業の状況等によって仕切価格の見直しの必要が生じる可能性があるため、仕切価格の変更についての規定を設けることを検討しておくのが賢明である。

仕切価格の設定に関連して、供給者において一定の売上を確保するため、最低購入量を契約において定めることがある。ベンチャー企業においては、力関係から相手方に最低購入量の設定を受け入れさせることが難しい場合があるが、販売店に独占権を与える場合には、当該販売店が適切に販売努力をしない限りこちらの売上が拡大せず、売上の拡大について完全に依存してしまうことになるため、最低購入量の定めを設定しないと危険である。最低購入量の定めを受け入れてもらえない場合には、独占権を与えない方が安全である。最低購入量を設定した場合、実際の購入量がその最低購入量に満たなかった場合の効果を明確にしておく必要がある。典型的な定め方としては、①最低購入量を強制的に購入させる、②最低購入量に満たなかった部分に相当するこちらの利益相当額を違約金として徴収する、③独占性を消滅させる、④契約を解除するなどの規定が考えられる。

また、仕切価格の設定とともに、販売店の顧客に対する販売価格を規定する契約が見受けられる。しかし、再販売価格の拘束は、書籍等の一定の商品を除き、独占禁止法に定める不公正な取引方法に該当し違法となるとされている。そのため、販売店による再販売価格については、供給者の提示価格を参考にしてもらうという程度を超えて、完全な拘束をすることは独占禁止法違反となる可能性があることに注意を要する。

(次号へ続く)

(文責:弁護士 後藤勝也)

 

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