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システム開発契約の留意点

2003/12/05

~ AZX Coffee Break Vol.3 〜

ネットビジネス、ASPサービス、パッケージソフトの販売等を行うIT系企業のみならず、現代の企業においては、その事業活動の至るところでコンピューター・システムを利用している。そしてそのシステム開発を他社に委託することも多く、システム開発契約はほぼ全ての企業において何らかの形で締結されていると言っても過言ではない状況となっている。今回は、システム開発を他社に委託する場合におけるシステム開発契約の留意点について解説する。システム開発契約に関しては、株式公開との関係では、成果物の知的財産権の確保が最も重要となるため、本稿ではこの点に重点をおいて解説する。

(1)基本的条件の明確化 システム開発契約においては、①開発の対象物、②納入物(オブジェクト・コード、ソース・コードの別、仕様書、マニュアル等)、③納期、④委託代金の金額、支払時期及び支払方法を明確にする必要がある。特に、開発の対象物の特定は、納入物がこちらの想定通りのものであるかを確認し、必要に応じて開発企業に修正を依頼し、場合によっては瑕疵担保責任を追及する前提として特に重要であり、この点を巡る紛争も多い。具体的には仕様書の確定という形で特定されるものであり、システム開発契約書に仕様書を添付する形で特定することが多いが、場合によってはシステム開発契約書において独立の条項を設けて仕様書の確定手続について規定したり、仕様書確定作業を別契約にしたりする例もある。

(2)納入及び検収 システム開発契約の場合、完成したシステムの納入を受けることが予定されているため、その納入方法、検収手続、危険負担及び所有権の移転時期について明確に定めておく必要がある。検収手続については、一定期間経過しても何らの合否の通知もしないと合格したものとみなす等の規定が含まれている可能性があるため注意が必要である。

(3)知的財産権の確保 冒頭で述べたように、株式公開との関係では、システム開発の過程で生じた知的財産権の確保は極めて重要である。なお、システム開発にあたっては、特許権が発生する可能性があるとともに、そこで作成されるコンピューター・プログラムは著作権法上「プログラムの著作物」(著作権法第10条第1項第9号)として、著作権の対象となり、著作権の取扱いはシステム開発に関して特に重要である。

まず、たとえ委託企業がシステムの開発を依頼し、開発料金を支払っているからといって、自動的に開発の過程で生じた知的財産権が委託企業に帰属するわけではない。法律上は、特許権は発明者に、著作権は著作者に生じることになるため、契約で何らの定めもなければ、通常は開発企業に特許権等が帰属することになる。従って、委託企業が知的財産権を確保するためには、その旨をシステム開発契約書で明記する必要がある。

著作権以外の知的財産権については、端的に全ての知的財産権が委託企業に帰属する旨を規定すればよいが、著作権については重要な注意点が二つある。まず一点目として、著作権法第61条第2項において、「著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定されている点に注意を要する。第27条の権利とは、翻案権といい、著作物を翻訳、変形等する権利である。第28条の権利とは、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利である。これはシステム開発との関係では、ある会社(A社)が開発したシステムをベースとして、他の会社(B社)が新たな著作物(二次的著作物)と言えるものを開発した場合、その新たな著作物については、それを開発したB社のみならず、もとのシステムを開発したA社もB社と同一の権利を有するというものである。たとえ「全ての著作権を譲渡する」と規定しても、上記二つの権利は、譲渡が明記されていないと対象外と推定されてしまうことに注意を要する。著作権法がこのような規定を定めたのは、著作権の譲渡は、通常著作物の原作のままの形態における利用を前提としており、第27条又は第28条に規定する権利のようなどのような付加価値を生み出すか予想のつかない権利については明白な譲渡の意思があったとは言えない可能性があることを考慮したものであると一般に解されている。

次に、著作権法第59条より、著作者人格権は著作者の一身に専属し譲渡することができないと規定されている。著作者人格権とは、公表権、氏名表示権及び同一性保持権の3つの権利を意味し、そのうち同一性保持権とは、「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」(著作権法第20条第1項)と規定されているものである。上述した著作権法第27条の権利(翻案権)の譲渡を受けたとしても、この同一性保持権を行使されると改変ができなくなるおそれがある。著作者人格権は譲渡ができないことから、システムの委託企業としては、開発企業に対し著作者人格権を行使しないよう誓約させておく必要がある。

以上のとおり、著作権の譲渡に関しては、①著作権法第27条又は第28条に規定する権利の譲渡を特に規定し、②著作者人格権の不行使の特約を規定するという二点の処理を伴って初めて完全な譲渡を受けたと言え、システム開発契約においてはこの点を明記しておく必要がある。株式公開の引受審査にあたり、対象企業の重要なシステム、ソフトウェアの制作を外部に委託しておりそのシステム開発契約書においてこのような手当てがなされておらず、著作権の帰属が不明確になっていた場合には、開発企業との間で上記2点に関する確認書を取得してもらうなどの対応を要請される場合がある。このような対応は相手方のある事項であり、こちらのスケジュールどおり達成できる保証もないため、株式公開のスケジュールとの関係で問題となる可能性も否定できない。従って、自社が委託側であるシステム開発契約書においては、特に上記の著作権の規定については注意する必要がある。

知的財産権の確保については、譲渡に関する登録を受ける必要が生じる場合があるため、特許権等の登録について相手方の協力義務や登録手続の費用の負担などについても規定しておくことが望ましい。なお、著作権の移転については、著作権法第77条第1号より、その登録が第三者対抗要件となっているものの、実務上はかかる登録はほとんど行われていない。但し、極めて重要な著作物については移転にあたり登録も検討するのが安全であると考える。

実務上は、委託企業と受託企業の双方ともに知的財産権を確保しようと試みることからその合理的な折衷案として、知的財産権について共有と定めることも多い。知的財産権が共有となった場合には、特許法第73条、著作権法第65条等により、その権利行使、ライセンス許諾、持分の譲渡等について規定されており、他の共有者の同意が必要となるなどの制約を受ける可能性がある。そのため、自社によるシステムの利用、ライセンス許諾、譲渡等について拘束を受けないように契約上手当てをしておくのが賢明である。また、特許権等その取得について登録手続が必要なものについては、登録費用の負担、共有者間で方針が異なった場合の取扱いなどについても場合によっては規定しておいた方が安全である。

システム開発にあたっては、開発者が当初から保有しているプログラム等が組み込まれることもあり、その部分の著作権は開発企業に留保され、委託企業に譲渡されないこととされることが多い。委託企業としては、納入を受けたシステム全体を自由に使用できるようにしておく必要があるため、開発企業に留保された著作物については委託企業に対する使用許諾をシステム開発契約において規定しておくべきである。

(4)その他 システム開発契約に関するその他の留意点としては、瑕疵担保責任、無償保証期間、開発企業による権利侵害の不存在等の保証、紛争処理、保守に関する規定(保守の点は別契約となることも多い。)などを明確に入れておく必要がある。

(文責:弁護士 後藤勝也)

 

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