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ライセンス契約の留意点

2003/11/04

~ AZX Coffee Break Vol.2 〜

ライセンス契約はベンチャー企業にとって最も基本的な契約書の一つである。IT系企業では、自社のシステム開発に必要な技術のライセンスを受け、開発したシステムを販売する過程でライセンスを許諾する。ほとんどのバイオ系企業では、ライセンス契約が事業活動の根幹となっていると言っても過言ではない。また、飲食系企業において商標権のライセンスが重要となることがある。従って、ライセンス契約について学んでおくことは、ベンチャー企業の経営者及びベンチャー企業をサポートするアドバイザー等にとって重要である。ライセンスの許諾を受ける場合とライセンスを許諾する場合では留意するべき点も異なるが、今回は自社がライセンスを受ける場合のライセンス契約の留意点について解説する。紙面の関係上、ライセンス契約にほぼ共通する事項につき、特に株式公開との関係で留意するべき点について解説する。

(1)対象物の特定 まず、ライセンスの対象物を適切に特定することが重要である。これは当り前のことではあるが、対象物がさらに改良された場合にその改良物もライセンスの対象に当然に含まれるのか否か、対象物について異なる形態が想定される場合(例えば、オブジェクト・コードとソース・コード等)にどの形態についてライセンスが許諾されているのかを明確にしておく必要がある。株式公開にあたり、ライセンス契約を重要な契約として開示する場合に、契約の対象物が不特定であると問題となることがある。

(2)利用態様の特定 単にライセンスといっても、あらゆる利用が許される場合と利用形態や利用目的が制限されている場合がある。特に英文のライセンス契約では、利用態様が細かく列記されているが、その場合には、自社が予定している利用態様が全て包摂されているかを慎重にチェックする必要がある。たまに、再許諾権の有無が明記されていないライセンス契約があるが、再許諾権の有無はその後の事業展開に大きな影響を及ぼす可能性があるため、明確にしておくのが賢明である。また、利用に関してテリトリーが設定される場合もあるため、その点も慎重にチェックする必要がある。

(3)独占/非独占の明確化 ベンチャー企業のライセンス交渉においては「独占」か否かが重要な交渉テーマとなることが多いが、この「独占」という用語はそれだけでは不明確な要素を含んでいる。特許法や商標法においては「専用実施権」という概念があり、専用実施権が設定されると、特許権者や商標権者自身もその権利を使用することができず、ライセンスの許諾を受けた者は文字通りその権利を専用することができる(但し、専用実施権の設定には登録が必要なのでこの点注意が必要である。)。しかし、独占という用語自体は法律で規定されている概念ではないため、これだけでは権利者自身が利用することが許容されているか否かが明確ではない。著作権については専用実施権という概念がなく、独占という用語を使用せざるを得ないため、この点を特に明確にしておく必要がある。また、「独占」に関し、特定の製品、利用目的、テリトリーなどについて、例外が定められている場合がある。独占権に例外が設定されている場合、当該契約が株式公開時に重要な契約として開示対象となる場合には、単に「独占」とだけ記載すると虚偽表示等になってしまう可能性もあるため、その独占権の例外については何らかの開示を行わなければならない可能性が高い。ビジネス上独占権の例外として許容できることと、それが一般的に開示対象になってよいこととは多少異なる考慮が働くため、重要なライセンス契約において独占権の例外が設定される場合にはこの点も考慮するのが賢明である。

(4)ライセンス料の設定 ライセンス料の設定については、契約締結時の一括払いの実施料などの定額ライセンス料と、ライセンスの使用に伴い売上高等に連動して継続的に支払うべきランニング・ロイヤルティの形態に大別でき、実務上は両者が組み合わされることが多い。ライセンス料の設計は基本的にはビジネス事項であり、当該ライセンスに関するビジネスの収益見込みに基づき判断されるべきものであるが、株式公開との関係で特に問題となるのは、当該ライセンス料の定めが会社にとってリスクとして開示するべき性質のものとなっているかという点である。例えば、バイオベンチャーの場合、創薬開発段階等に応じてマイルストーンが設定される場合がある。このマイルストーンの設定自体は不合理ではないが、創薬が開発され、適切な認可を取得し、売上が発生する前の段階で、マイルストーンに基づく巨額のライセンス料を支払うことは、まだ資金的な余力がないベンチャー企業にとってはリスクとなる。また、売上げに連動しないミニマム・ロイヤルティの設定も場合によっては、リスクとなる場合がある。このようなマイルストーンやミニマム・ロイヤルティの存在については株式公開にあたり開示することになる可能性が高いため、将来多額のライセンス料の発生が予定されている場合には、特に株式公開時の開示の可能性も考慮した方がよいと考える。

(5)競業禁止規定の回避 自社がライセンスの許諾を受ける場合には、類似品の取扱い等を禁止する競業禁止規定を要求される場合がある。特に、独占権の付与を受ける場合には、ライセンサーにとっては、他のライセンス収入の途が閉ざされるので競業禁止を要請する動機が強くなる。契約書において、競業禁止という題名がなく、よく読むと競業が禁止されていることもあるため、この点は特に気をつけた方がよい。また、ビジネス上、競業禁止規定を受け入れざるを得ない場合もあるが、競業禁止規定は会社の事業活動を制約するものであるため、株式公開にあたり、その解消を指導されたり、その存在を開示する必要が生じたりする可能性がある。また、株式公開の審査にあたり、会社の利益計画の基礎となっている現在又は将来の事業がその競業禁止規定に抵触していないかがチェックされるのが通常である。株式公開の審査にあたり、競業禁止規定に抵触しているものの、ライセンサー側もその点は了解しているので問題ないという主張がなされる場合がたまにあるが、その場合には、基本的には、競業禁止規定を修正するか、そのライセンサー側から当該競業行為を認める旨の確認書を取得することが必要となる。このような対応が不可能であると、株式公開の審査にあたり重大な影響を及ぼしてしまう可能性もある。このような対応は会社側だけで完結するものではなく、相手方の行為が必要であるため公開スケジュールとの関係で難しい場合もある。従って、株式公開を視野に入れているベンチャー企業としては、可能な限り競業禁止規定を排除し、仮にビジネス上これを受け入れる場合には競業禁止規定に抵触しないように十分留意する必要がある。

(6)ライセンス期間の確保 会社のビジネスの根幹となっているライセンスについて、その有効期間の確保は当該会社の事業戦略上重要であるのみならず、株式公開との関係でも極めて重要である。そのようなライセンスに関する契約書は、株式公開にあたり開示される可能性があり、その際に契約期間は必須の記載事項となる。この期間が短い場合には、会社の将来の業績に重大な影響を及ぼす可能性があるため、リスクとしての開示も必要となる可能性がある。また、契約期間が長期間確保されていたとしても、容易に相手方から解除され得る規定が含まれている場合には、それもリスクとなるため、開示対象となる可能性がある。特にライセンサー側から提示された契約書においては、ライセンサーからの一定期間前の書面通知によりいつでも解除されるというような規定が含まれている場合が多いので、この点注意が必要である。

(7)ライセンス終了時の取扱い 契約というものはいつかは終了するため、その前提で終了時の手当てを入れておくことは重要である。特に、ライセンスに基づき製品を製造して大量の在庫をかかえる可能性がある場合には、ライセンス終了時の在庫の取扱いについて明確にしておくのが望ましい。また、サブライセンスを行なっている場合には、何の手当てもないとライセンス終了時にそのサブライセンスも実行できなくなってしまうため、サブライセンスの取扱いも明確化しておくのが安全である。

以上は、あらゆるライセンス契約にほぼ共通する問題点の概要を解説したものであるが、実際の契約にあたっては、対象物の特殊性やその後の事業展開などを考慮してライセンス交渉を行い、適切な契約が締結される必要がある。

(文責:弁護士 後藤勝也)

 

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