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職務発明

2003/11/04

~ AZX Coffee Break Vol.1 〜

ベンチャー企業にとって、自己の技術を守るため、又はライセンス等で収益を獲得するために、特許権を適切に確保することは極めて重要である。特許権の確保については、対外的な問題として取引先との関係があり、対内的な問題として自己の役員及び従業員との関係がある。ベンチャー企業の場合、社内における特許権等の管理体制については、整備が進んでいない場合も多く、特許権の帰属について、資金調達の際や株式公開の際に問題となることも多い。そこで、今回は会社の役員及び従業員がなした発明の帰属関係等についてその概要を解説する。

特許法第35条は、職務発明について規定している。この「職務発明」という言葉が一人歩きして、社員がなした発明は会社に当然に帰属するものと誤解されている場合があるが、何らの契約等もない場合には、会社の指示に基づき会社の費用で発明がなされても当然には会社に帰属しない。「職務発明」とは、会社の場合、その役員又は従業員がその性質上会社の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその会社における当該役員又は従業員の現在又は過去の職務に属する発明を意味する。特許法第35条第2項は、従業員等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、予め会社に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は会社のために専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則、その他の条項は無効とすると定めている。これは反対解釈すると、職務発明であれば、契約や勤務規則等で予め会社に承継されるべきことを定めても良いという意味であり、それはすなわち、職務発明であっても、契約や勤務規則等の定めない以上は、会社は当然には承継しないということを前提としている。他方で、特許法第35条第1項は、職務発明につき特許が成立した場合には会社が通常実施権(非独占的な利用ライセンス)を有する旨を規定している。そのため、非独占的ではあっても会社において自由に利用できれば良いではないかという考えも生じるかもしれないが、単なる通常実施権を有する者は、特許侵害が行われた場合に差止請求等の権利行使を自らなし得ないこと、特許権者が第三者にライセンスを許諾したり特許権を譲渡したりすることを防ぐことができず、重要な特許権が競合企業に流出する危険もある。従って、重要な特許については通常実施権の取得だけでは足りず、やはり特許権そのものを確保しておく必要がある。

上述の通り、会社が役員や従業員が行った発明に関する特許権を承継するためには、役員や従業員との間で契約等を締結しておく必要があるが、ベンチャー企業の場合この点の整備が適切に行われていないことが多い。通常は、就業規則又はその派生規程である発明規程等において職務発明が会社に帰属する旨が規定されることが多いが、この点が明記されていない就業規則も多いので注意が必要である。就業規則は社会保険労務士にその作成を依頼することが多いが、社会保険労務士の場合は、知的財産権の取扱い等についてはその職務の対象外であるため、この点が手薄になってしまっているものと推測される。また、仮に就業規則に職務発明の会社への承継が規定されていたとしても、役員は就業規則の対象外となっているため、何も手当てをしないと役員の発明は会社に帰属しないことになる。会社にとって極めて重要な発明をしている者が役員になっているベンチャー企業も多いため、この点が問題となることがある。役員との間では、確認書等を締結するなどの対応をする必要がある。

株式公開の引受審査にあたり、役員又は従業員の発明に関する特許権が適切に会社に帰属していないことが判明した場合には、将来への対応策として、就業規則の修正や役員との確認書の締結などが要請され、過去の問題への対応策として、出願済みの特許において発明者として記載されている全ての人から特許を受ける権利を会社に譲渡した旨の確認書を取得することが要請されることがある。当該従業員等がその時点で会社に在籍している場合にはかかる確認書等の取得は通常容易であるが、既に退社している場合には確認書等の取得が極めて困難となることがある。従って、この点の整備は事前に対応しておくのが賢明である。

なお、職務発明以外の発明についても従業員等が発明を行った場合には会社に届け出るべき義務を課すことや、当該従業員等がかかる発明につき第三者と取引に入る前に会社と優先的に協議する義務を課すことについては、特許法はこれを禁止しているものではないと解釈されているようであり、発明が特段重要である開発型ベンチャー企業ではかかる規定を就業規則等に入れることも検討に値する。

次に、職務発明に関して注意するべき点としては、「相当の対価の支払」の問題がある。特許法第35条第3項は、従業員等が職務発明につき会社への譲渡又は専用実施権の設定を行った場合には、相当の対価の支払を受ける権利を有するとしており、これは会社と従業員等の合意では排除できない強行規定であると解釈されている。この相当の対価の決定方法については、特許法第35条第4項は、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がなされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」と規定するのみであり、具体的な基準は不明確であると言わざるを得ない。この点に関する訴訟としては、青色発行ダイオードを発明した米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授と日亜化学工業の訴訟が著名であり、また、オリンパス光学工業の件について平成15年4月22日に出された最高裁判決が相当な対価の不足額の請求権を認め200万円強の支払を命じたことが注目される。近年この種の訴訟が増加傾向にあり、各企業においても発明規程における報奨金制度の見直しの動きが強まってきている。この点については、基準の設定が難しい面があるが、そもそも何の対価も支払っていないベンチャー企業もあるため、ある程度の報奨金の基準を制定し、それに基づいて発明者に支払を行った方が安全である。

近年、産学連携が脚光を浴び、大学発ベンチャー企業の数が急上昇しているが、大学発ベンチャー企業においてもこの職務発明は一つの重要な問題となる。例えば、A大学に所属するX教授が個人としてB社と共同研究契約を締結し、その成果物に関する特許権は全てB社に帰属すると定められ、B社が特許を出願したとする。他方で、X教授の発明はA大学の研究室で行われており、この発明はA大学の内規において職務発明としてA大学に帰属されるべきものとされている場合に、権利の帰属関係が問題となる。この場合、X教授の特許を受ける権利がA大学とB社に二重譲渡されているが、特許法第34条第1項より、特許を受ける権利の承継はその承継人が特許出願しなければ第三者に対抗できないとされていることから、原則として特許出願をしたB社が特許権を取得することになる。但し、A大学には特許法第35条第1項より職務発明に関する通常実施権が残る。B社にとっては、特許権を取得できれば問題ないかというと必ずしもそうではない。この場合X教授は大学の内規違反を犯しており、理論的には大学との関係で債務不履行責任を負い、場合によっては解雇事由となり得る。このような事態からX教授の今後の協力を得られなくなることはB社に重大な影響を与える可能性もある。そのため、大学の教授と契約を締結する場合には、当該大学の内規等における発明の取扱いについて十分に注意する必要がある。また、兼業規制の問題等から、教授個人ではなく大学と共同研究契約を締結することがあり、今後はこの形態が増加することが予想されるが、その場合において、契約上企業側に特許権等が帰属することになっていたとしても、大学の内規において教授の発明が教授個人に帰属することとなっている場合には、結局企業側は特許権等を取得できない可能性があるため、やはり大学の内規等は調査しておくべきである。さらに、大学発ベンチャー企業では、大学に所属している教授がベンチャー企業の役員等になることがある。この場合、企業側で職務発明の取扱いに関して就業規則や確認書等で対応したとしても、教授の具体的な研究活動が、当該企業の職務と所属大学の職務のいずれであるかが明確でない場合には、企業側は職務発明として特許権等を確保できない可能性がある。従って、かかる場合には、教授との契約において、企業側の役員等としての職務の範囲を対象事項、勤務場所、勤務時間等により明確にするとともに、実際の運営上も可能な限り大学の活動と区別するのが賢明である。実際問題としてはこのような区別が難しい場合もあるが、その場合には、発明が発生するたびに、その帰属について慎重に検討し、必要な確認手続等を行っておくのが安全である。

(文責:弁護士 後藤勝也)

 
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