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2号ファンド組成の論点(第2回)複数ファンドの並行運用時の論点①~コンセプトが共通する承継ファンド~

2026/06/08

AZXの弁護士の杉山です。

「2号ファンド組成の論点」ということで、前回のブログではGPビークルの選択について解説しましたが、今回は第2回「複数ファンドの並行運用時の論点①~コンセプトが共通する承継ファンド~」として、複数のファンドを並行して運用する際の留意点のうち、1号ファンドの後に2号ファンドを組成するというような、コンセプトが基本的に共通するファンドを組成し、並行して運用する場合の留意点をテーマにしています。

特に、投資機会の配分、利益相反管理、キーパーソンのリソース配分、LPへの説明責任といった論点が顕在化しますので、このあたりを概観できればと思います。

(1) 総論

VCファンドは、一般的には投資事業有限責任組合(LPS)をビークルとして選択し、金融商品取引法(金商法)の規制下において運用していくことになります。そのため、承継ファンド[1]を組成する場合においても、金融商品取引法上のルールも念頭に置きつつ、投資事業有限責任組合の組成に関して参照されることが多いモデル契約[2]上の各種規定を踏まえた検討をする必要があります。

そして、モデル契約において、検討を要する規定は、以下の各規定となります。

・キーマンクローズ(第9条)

・承継ファンドの組成の可否に関する条項(第17条第2項及び第3項)

・投資機会の配分に関する条項(第17条第4項)

・諮問委員会に関する条項(第17条第9項及び第10項並びに第18条)

・投資ガイドライン(別紙2)                                                

(2) キーマンクローズ(第9条)

キーマンクローズは、キーマン(主要担当者)の関与がなくなることなどをトリガー(主要担当者事由)として、主要担当者事由が生じた場合は、新規投資ができなくなる等のファンドの運用行為の制限について定める条項です。

通常は、モデル契約と同様に、主要担当者事由として、主要担当者が運用に実質的に関与しなくなったことが定められることが多いです。そして、2号ファンドを組成したとしても、1号ファンドへの関与がなくなることは通常想定しにくいため、かかる規定が問題となるケースは少ないです。但し、ケースによっては、事業に充てることができる時間のうち一定の時間以上をファンドの運営に充てるといった厳しい規律が設けられているケースもあり、このような場合には、2号ファンドの運営を開始することにより主要担当者事由の発生の有無、その影響について検討したほうがよいということになります。

(3) 承継ファンドの組成の可否に関する条項(第17条第2項)

かかる規定は、一定の条件を充足しない限り、承継ファンドを組成してはならないことを定める規定になります。そして、例外的にファンド組成を許容する条件としては、投資組入れ等が一定以上進んでいる、すなわち、「投資総額並びに組合費用及び管理報酬にあてられた額」が一定以上となっていることが例外条件として規定されていることが多いです。

そして、承継ファンドとして2号ファンドを組成する場合は、通常は、上記の投資組入れが進んでいることが多いため、この点が問題となるケースは少ないです。但し、例外条件の充足の有無については、組合費用や管理報酬として支払った額を入れてもよい設計になっているかなど、ファンドごとの具体的な計算ルールも念頭に、慎重に確認いただく必要があるということになります。

(4) 投資機会の配分に関する条項(第17条第4項)

かかる規定は、GPが得た投資機会の配分について定める条項です。1号ファンドの組成時においては、2号ファンドを並行して運用することが具体的に想定されてはいないという事情もあり、1号ファンドの組合契約(LPA)の交渉上、この規定についてLPから厳しく交渉されることは一般論としては少ないです。そのため、モデル契約と同様に、投資機会をGPがその裁量により配分できるとされているケースが多いです。

さらに、2号ファンドの組成時に、1号ファンドにおいて既存の投資先への追加投資のみが想定され、2号ファンドからも1号ファンドの投資先への投資(ファンド跨ぎ)をしないということであれば、実質的にも投資機会の配分に関して、利益相反となり得る状況が想定しにくいと考えられます。

したがって、かかる前提であれば、後述の投資ガイドラインにおいて、1号ファンド(既存ファンド)の投資先への投資はしない旨明記する対応をすることで、ファンド間の利害調整について十分に手当てできているといえます。

① ファンド跨ぎ固有のリスク

他方で、上記と異なり、ファンド跨ぎが想定される場合には、その際の規律について検討する必要がありますが、これを検討する前提として、そもそもファンド跨ぎを許容する制度設計にすべきかについては、慎重な検討を要します。

スタートアップ投資では、後に発行される優先株式の方が残余財産の優先順位において優先される設計となるケースが実務上はまだ多いという理解です。

そして、このような優先順位を前提に、ファンド跨ぎをする場合には、承継ファンドの保有する株式が既存ファンドの保有する株式より優先されてしまいます。この場合において、各優先株式の優先分配額の合計額未満の対価を前提とするM&Aによるエグジットを検討せざるを得なくなると、これに応じるべきかどうかの判断が既存ファンドと承継ファンドで異なってしまいます。特に、既存ファンド及び承継ファンドにおいて、いわゆるドラッグアロングライトを行使できる程度の持株比率となっている場合には、当該権利を行使すべきかについて利害が対立する側面が否めないため、金融商品取引法上のファンド間取引[3]の規律の適用可能性も検討の上、かかる規律のもと実施の可否を検討するなど慎重な対応を要することになります。

また、上記のような懸念がない場合であっても、既存ファンドの投資先を承継ファンドからの出資により救済しているのではないかという疑念を持たれてしまう面は否定できません。そのため、結果として、当該投資先の事業成長が期待したものとならなかった場合には、当該投資先への投資にかかる承継ファンドの投資判断について問題視される可能性があります。

そのため、上記のような観点からも、ファンド跨ぎを許容するか、許容していたとしても、これを本当に実行すべきかについては、慎重に判断する必要があります。

② ファンド跨ぎがあり得る場合の手続規律

仮に、このようなファンド跨ぎの可能性があり得る場合は、LPA上で一定の手続規律を定めることを検討することになります。なお、あえて、このような規律を設けず、GPが自由に投資機会を配分できるとすることも理論上はあり得るものの、金融商品取引業者としての善管注意義務や、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(金サ法)第2条で規定される誠実義務が課されていることを踏まえると、何らかの手続規律を定めて透明性のある形でファンド運用の意思決定をした方が安全であるということになります。

そして、例えば、以下のような手続(あるいはこれらを組み合わせる設計)についてLPA上で定めることで手当てすることが考えられます。

(i)   LPへの事前通知+意見陳述権(最も簡素だが、事後的なトラブルリスクは残る)

(ii)  諮問委員会(LPAC)の承認(実務上一般的ではあるが、運営コストがかかる)

(iii) 一定割合のLPの直接承諾(確実ではあるが、機動的な投資判断を阻害する可能性あり)

(iv) ファンドサイズ(出資約束金額の総額)や投資余力に応じたプロラタ(比例)配分(客観的だが、柔軟性に欠ける)

上記について(i)がもっとも簡素な設計ではあるものの、意見陳述がなされなかったケースでは事後的にファンド跨ぎにかかる投資判断について問題視される可能性は否定できません。また、反対の意見陳述があった場合には議論を尽くす必要があり、最終的に賛同が得られない場合においてファンド跨ぎを実施すべきかは慎重な検討を要します。

上記(ii)から(iv)までの設計であれば、最終的な投資判断について、LPA交渉時あるいは投資実行時におけるLPの意向が一定程度反映されることにはなりますので、その意味では望ましい設計ではあります。もっとも、それぞれ手続の履践の難易度や、運用の負荷も異なってくるため、ファンドごとの事情を踏まえて個別に採否を検討する必要があります。

③ 既存ファンド側の対応

上記は、新たに組成する承継ファンドのLPAをどのように設計するかという承継ファンド側の観点からの検討ですが、ファンド跨ぎの場合においては、既存ファンドである1号ファンドにおける利益相反についても問題になります。すなわち、既存の投資先の投資の枠を承継ファンドが消化することで、実質的に既存ファンドの投資が制限されてしまう(あるいは結果として制限されたように見える)という側面がありますので、この点についての対応を検討する必要があります。

承継ファンドのLPAと平仄を併せて、上記②と同様の規律を既存ファンドのLPAを変更する形で定めるということも考えられます。もっとも、通常は、相当程度の投資組入れが行われている段階にある1号ファンドについて、交渉上の負荷が一定生じてしまうLPA変更をあえて提案すべきかは個別的に検討する必要があると考えます。

また、LPAを変更することが難しそうである場合は、変更までは実施しないにしても、手続の透明性を確保する観点から、承継ファンド側でも採用している手続と同等程度の手続を、任意に、既存ファンド側でも実施する方が安全であると考えます。

(5) 諮問委員会に関する条項(第17条第9項及び第10項並びに第18条)

諮問委員会の具体的な設計については、テーマから離れてしまうため詳細な言及は避けますが、諮問委員会は、出資額が一定以上のLPが指名する諮問委員により構成される会議体であり、ファンドの利益と相反する可能性のあるGPの行為や取引等について、その承認や、意見陳述又は助言をすることを目的とした機関として設計されることが一般的です。

上記(4)においても言及したとおり、複数ファンドを並行して運用する場合は、ファンド跨ぎなどの利益相反行為も想定されるため、LPから諮問委員会の設置を要請されることがあります。

但し、諮問委員会という会議体を運営する必要が生じ、一定の運用コストが生じることは否定できないため、このような機関を設置する必要があるかについては、上記(4)の手続規律の設計も念頭に、検討いただくことになります。

そして、仮に諮問委員会を設置する場合には、諮問委員会の承認があった場合には、GPが特定の行為が実行できる旨までLPA上に明記し、諮問委員会の決議等の効果を明確にしておくことが重要です。

(6) 投資ガイドライン(別紙2)

投資ガイドラインは、ファンドの運用方針について規定するものです。

記載すべき内容に法律上のルールがあるわけではないものの、並行して運用するファンド間の投資範囲が重ならないということをもって、ファンドの利益相反を解消することを企図する場合には、各ファンドの投資ガイドラインの内容が重ならないように、明確に記述することが必要となります。

また、既存ファンドの投資先への投資をしない場合は、上記(4)のとおり、これについて投資ガイドラインに記述しておいた方が良いと考えます。

(7) まとめ

モデル契約の条項を参考に、2号ファンドを組成する場合の論点について概観してきました。

複数ファンドの並行運用においては、単に契約上の裁量の問題として処理するのではなく、金商法や金サ法上の善管注意義務・誠実義務を前提とした利益相反管理の枠組みとして整理することが不可欠です。特に、ファンド間で投資対象が重複し得る場合には、投資ガイドラインによる事前のすみ分け、案件配分ルールの明確化、さらには諮問委員会やLP関与手続の設計等により、意思決定プロセスの透明性を確保しておくことが重要となります。

機関投資家を中心に、2号ファンド組成時における1号ファンドとの利益相反管理体制を厳しくチェックする傾向にありますので、2号ファンドを組成される際にご参考いただければ幸いです。

【注釈】

[1] 1号ファンドから見た、2号ファンドやコンセプトの異なる別ファンドなど、あるファンドの組成後に運用を開始した別ファンド。

[2] いくつかのバージョンが存在しますが、VCを想定したモデル契約としては2018年版を参照することが多いです。

[3] 金融商品取引法第42条の2第2号。(i)取引説明を行い、(ii)全てのLPから承諾を得たうえで、かつ(iii)公正な価額での取引であること、といった例外要件を充足しない限り、運用するファンド間において取引をすることが原則として禁止される規律。


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執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
杉山 友朔
Sugiyama, Yusaku
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