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AI利用で損害が発生したら?経産省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」のポイント

弁護士の平井です。

生成AIをはじめとするAI技術の進化と社会実装は目覚ましく、今やあらゆるビジネスシーンでAIが活用されています。一方で、「AIの出力ミス等によって第三者に損害を与えてしまった場合、誰がどのように責任を負うのか」という民事上の責任関係については、裁判例の蓄積や統一的な見解がなく、多くの企業にとって「見えないリーガルリスク」となっていました。

このような背景から、2026年(令和8年)4月9日、経済産業省から「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」(以下「本手引き」といいます。)が公表されました。

今回は、AIの利用により生じた損害に対する責任について、AI開発者、AI提供者、AI利用者のそれぞれの立場において整理しておくべきポイントを、本手引きを用いて解説いたします。

1.本手引きの目的と対象とする範囲

本手引きの目的は、「AIの開発・提供・利用に関わる当事者の法的予測可能性を高め、AI利活用の推進及び損害発生時の円滑な解決に資すること」にあるとされています(本手引き 2頁)。

AIの利活用に関係する当事者間の法律関係については、下記図のとおりとなりますが、本手引きが主に焦点を当てているのは、契約関係にない第三者との間で発生する「不法行為責任(民法第709条など)」や「製造物責任(製造物責任法第3条)」であり、企業間の契約(利用規約や開発委託契約など)等で責任をあらかじめ規定できない場面において、現行法がどのように解釈適用されるかの方向性が示されています。契約上の責任(債務不履行責任)については、当事者間の合意(契約書)が優先されるため、基本的には本手引きの対象外(検討の対象外)とされている点に留意が必要です。

【出典】『AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き[第1.0版]』(経済産業省)5頁

民法上の不法行為に基づく責任(民法第709条)が認められるための要件については、議論があるところではありますが、本手引きにおいては以下のように整理されています。

要件 概要
①過失 行為者が損害の発生を予見し得たこと(予見可能性)を前提として、損害の発生を回避する規範的な義務(結果回避義務)の違反が存在したこと
②保護法益の侵害 行為者が損害の発生を予見し得たこと(予見可能性)を前提として、損害の発生を回避する規範的な義務(結果回避義務)の違反が存在したこと
③損害の発生 被害者に損害が生じていること
④因果関係 ①と②との間に事実的因果関係(「あれなければこれなし」の関係)及び相当因果関係(その行為から通常、その結果が生じるといえる関係。民法416条の類推適用と共に用いられることが多い)があること

【出典】『AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き[第1.0版]』(経済産業省)6頁

上記①~④の要件のうち、過失(①)は、予見可能性を前提とした結果回避義務違反(注意義務違反)であるところ、注意義務違反が認められるか否かについては、「人」の判断や行動に着目して従来議論されてきました。そのため、本手引きにおいても、AIの「自律性」(一定の範囲で人間の介入なく動作する能力を有すること)との関係で、特に人が自ら判断や行動を行っているわけではない場面において、AI開発者・AI提供者・AI利用者の過失をそれぞれどのように判断するかが重要な論点になるとされています(本手引き 5頁~6頁)。

2.AIの利用形態を分ける「2つの類型」

本手引きでは、AIの利用に関する責任を評価するにあたり、AIの利用形態を機能や人の関与度合いに応じて以下の2つの類型に分類し、整理して検討することが有益であるとしています(本手引き9頁)。どちらの類型に該当するかによって、過失(注意義務違反)の具体的な判断基準が異なってきます。

(1) 補助/支援型 AI

(a) 概要

補助/支援型AI は、AIの出力が利用者の判断の「補助」や「支援」としてのみ用いられ、最終的に人の判断や行動を介在させることが予定されている類型です(本手引き 9頁)。

補助/支援型AIの具体例として、本手引きでは、配送ルート最適化AI、弁護士業務支援AI、画像生成AI、取引審査AIが挙げられており、各AIに関する想定事例について、AI利用者及びAI開発者・AI提供者の責任について検討がされています(本手引き 19頁~47頁)。

(b) AI利用者の責任

補助/支援型AIにおけるAI利用者の責任について、本手引きは、AI利用者はあくまで自らの判断の補助や支援としてAIを用いるべきこととなり、その責任はAIの利用如何にかかわらず、個々の局面においてAI利用者が本来払うべき注意の下で適切な判断や行動を取ったか否かにより判断される。AIの出⼒を援用したことは、原則として、AI利用者が求められる注意義務の水準を引き上げることも引き下げることもないとしています(本手引き 10頁)。またAIの出⼒を一見するだけではリスクの所在が不明瞭であり、AI利用者において検証・是正することが必ずしも容易でないユースケースのような場合には、最終的にAIの判断を利用するに際して第三者に対する権利侵害や損害を生じないよう、AI利用者において事前に一定の情報収集を行うことや必要な利用上の措置を講ずることが注意義務の内容となり得るとしています(本手引き 10頁)。

(c) AI開発者・AI提供者の責任

AI開発者・AI提供者の責任については、本手引きは、AIが不適切な出⼒をした場合であっても、最終的にAI利用者においてAIの出⼒の適切性が検証・是正されることが前提となるため、補助/支援型AIを販売又は提供するAI開発者・AI提供者が第三者との関係で責任を負う場面は限定的となるとしています(本手引き 10頁)。

そのうえで、AI開発者・AI提供者の責任については、具体的に①利用者が製品を適切に用いるため重要な事項について説明を行わなかったことにより誤使用が生じた場合の責任(説明上の責任)と②利用過程における権利侵害の高度の危険性が見込まれたにもかかわらず、適切な権利侵害防止措置を講じることなく製品を提供した場合の責任(設計上の責任)が問題となり得るところ、補助/支援型AI との関係で相対的に重要となるのは、上記①の説明上の責任であると本手引きでは整理しています。また、説明上の責任について、AIの機能や性能の限界、使用方法、重要なリスク等について説明を行っている限り、AIに不適切な出力があったとしても、AI開発者やAI提供者には原則として過失は認められないとしています(本手引き 11頁~12頁)。

(2) 依拠/代替型 AI

(a) 概要

依拠/代替型AIは、人の判断や行動の全部又は一部を代替する前提で提供され、AIの判断に依拠しながら用いることが予定されている類型です(本手引き 9頁)。

依拠/代替型AIの具体例として、本手引きでは、製造ラインの自動外観検査AI、工場内の自律走行ロボット(AMR)が挙げられており、各AIに関する想定事例について、AI利用者及びAI開発者・AI提供者の責任について検討がされています(本手引き 48頁~69頁)。

(b) AI利用者の責任

依拠/代替型AIにおけるAI利用者の責任について、本手引きは、AI利用者には、①AIシステムを組み入れた業務プロセスを適正に「構築」するとともに、②リスクを可能な限り低減しながら「運用」を行う注意義務があり、これらの注意義務に違反していた場合にAI利用者の過失が認められる(換言すれば、当該①②について適切な措置を講じていればAI利用者の過失は認められない)としています(本手引き 15頁~16頁)。

(c) AI開発者・AI提供者の責任

依拠/代替型AIにおけるAI開発者・AI提供者の責任について、本手引きでは、責任判断の視点自体は補助/支援型AIと異ならず、求められる設計上・説明上の措置を行っていたかが論点となるものの、その水準は補助/支援型AIよりも高まるとしています(本手引き 17頁)。

具体的には、依拠/代替型AIでは最終的な人の判断や行動が介在せず、AIの出⼒が直接的に権利侵害や損害に結びつき得ることを前提に、上記(b)で述べた注意義務の水準や安全性を発揮・維持するため合理的に可能な設計上の措置やアップデートを講じていたかが問題となり(設計上の注意義務)、例えば、開発上合理的に可能な範囲でAIの精度や安全性を向上させていたか、一定の範囲で望ましくない出⼒が生ずることを前提に合理的なセーフガードの構築を検討したか等が論点となり得るとしています(本手引き 17頁)。

また、依拠/代替型AIでは業務プロセスの中でどのように用いるべきかという観点も重要となるところ、リスクコントロールの上で重要な情報(例えば、AIの機能や性能の限界、使用方法、重要なリスク等に加え、AIシステム単体では対応し難い外的な危険源や、どのような状況下でリスクが増加し得るか、どのような範囲で人が関与することが望ましいか等)を、AI開発者・AI提供者が合理的に予見可能な範囲において必要に応じて分析し、AI利用者に対し説明すること等が求められるとしています(説明上の注意義務)(本手引き 17頁)。

 (3) 小括

補助/支援型AIと依拠/代替型AIにおける責任判断の方向性について、本手引きでは、以下のようにまとめられています。

【出典】『AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き[第1.0版]』(経済産業省)18頁

3.まとめ

経済産業省が公表した本手引きは、現行法下におけるAI利用の場面での責任判断の羅針盤となり得るものであると考えます。AI開発者・AI提供者及びAI利用者のいずれにとっても、責任を負うリスクを低減するための対応を事前に検討し、自身の注意義務をきちんと果たしていると説明できるように整理しておくことが重要であると考えます。

本手引きでは、AIの活用場面に応じた複数の想定事例を題材にして、AI開発者・AI提供者及びAI利用者の責任判断の方向性について、参考となり得る裁判例も交えて具体的に検討されていますので、ご自身に関連しそうな想定事例の検討内容については是非一読してみてください。

当事務所では、AIサービスに関する契約書や利用規約のドラフトはもちろんのこと、具体的な利用場面を想定したうえでどのような設計にした方が法的な観点でリスクを低減できるかといったアドバイスも行っておりますので、そのようなご相談がありましたら是非お問い合わせください。

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執筆者
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平井 宏典
Hirai, Kosuke
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