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著作権法改正(違法コンテンツ対策強化等)

2020/07/13

弁護士の林です。しばらくぶりのブログ投稿となります。

年始に軽く腰を痛めて水泳を休んでいたら、コロナ自粛に入ってしまい、今年前半はすっかり運動不足になってしまいました。ゴルフは再開しましたので、自粛していた分も頑張ってスコアアップしたいと思っています。

今回説明する著作権法は、世の中の趨勢にキャッチアップするように近時頻繁に改正されていますが、今回の改正には興味深い内容も含まれるため、現状のルールのおさらいを兼ねてテーマに選びました。改正法が施行されるのは、内容によって、今年の10月又は来年の1月になりますが、早めに知っておかれるのも有益と思います。

今回の改正の全体像と条文解説は、文化庁の資料にも丁寧に記載されています。必要によりこちらもご確認頂きつつ、本ブログの主な読者層に関係しそうなポイントを解説します。

https://www.mext.go.jp/content/20200306-mxt_hourei-000005016_01.pdf
https://www.mext.go.jp/content/20200306-mxt_hourei-000005016_02.pdf

1.改正の概要

今回の改正は、2020年6月に国会で承認された「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」によるもので、その内容と施行予定日は以下になります。本稿では、このうち下線を引いた項目を解説します。

(1) インターネット上の海賊版対策の強化

リーチサイト対策【施行日:2020年10月1日】
侵害コンテンツのダウンロード違法化【施行日:2021年1月1日】

(2) 著作物の円滑な利用を図るための措置 【施行日:2020年10月1日】

写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大
②行政手続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法関係)
著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入

(3) 著作権の適切な保護を図るための措置 【施行日:2021年1月1日】

①著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化
②アクセスコントロールに関する保護の強化

(4) プログラムの著作物に係る登録制度の整備(プログラム登録特例法) 【施行日:規定により、公布日から1年以内で政令で定める日又は2021年1月1日】

2.違法コンテンツ(海賊版)対策の現行法の規定と改正の趣旨

今回の改正の柱である「インターネット上の海賊版対策」は、コンテンツの無断配信の問題に対応する一連の法規制を、拡充しようとするものです。理解の前提として、改正前の現行法の規制概要は以下のようになっています。

1.著作権者の許可なく著作物をインターネット上にアップロードすることは違法

  • 無許可でアップロードされている著作物へのリンクを貼るだけの行為は、基本的に著作権侵害にならない(濱本弁護士の過去のブログご参照)。
  • ユーザーにコンテンツのアップロードの場を提供する投稿サイトや、コンテンツのリンク情報を掲載するサイトの運営主体は、無断掲載コンテンツが含まれていたとしても、直ちに自身が著作権侵害に問われる訳ではなく、関与や運営の状況により個別に判断される。

2.違法にアップロードされた音楽又は映像の著作物を、違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードすることは違法

  • 導入時に議論を呼んだ、ユーザー側への規制。音楽と映像に限定されている。
  • 正規版が有償提供されている著作物の場合、違反に対しては刑事罰もあり。

近時、「漫画村」や「はるか夢の址」のような、まんがや雑誌を無断アップロードしたURLへのリンク集を掲載するサイトによる、コンテンツの不正利用拡大が顕著な問題となりました。今回の改正は、音楽、映像以外の著作物を含めて、このようなタイプのサイトやアプリ(いわゆる「リーチサイト」、「リーチアプリ」)を効果的に規制することを主眼に、以下の規制を追加するものです。

  1. リンク情報を集約するリーチサイト、リーチアプリについて、その運営行為とリンク提供行為を規制する
  2. 音楽、映像以外の著作物についても、一定の要件の下でダウンロードを違法とする。

なお、「はるか夢の址」は、現行法下の裁判において運営者に民事、刑事での責任が認められていますが、これは運営者に現行法の著作権(複製権や自動公衆送信権)の侵害行為があったとの事実認定のもとでの結論と推察されます。改正後は、[a]によりリーチサイトの運営行為自体が違法になるため、より責任を追及しやすくなります。

また、[b]のダウンロード規制強化は、もともとダウンロード元にかかわらず適用される規制ですので、リーチサイト、リーチアプリからのダウンロードだけでなく、それらに該当しない一般的な投稿サイトからのダウンロードや、SNSからのダウンロードなどにも適用されます。リーチサイト等の規制に関連する規制強化ですが、改正の影響範囲はより広いものとなります。

3.リーチサイトの規制内容

(1) リーチサイト、リーチアプリの定義(改正法第113条2項1、2号)

改正法のリーチサイト、リーチアプリの定義は、大要以下のようなサイト、アプリとなります。説明の便宜上、著作権者の許可なく違法にアップロード等がされた状態のコンテンツを「侵害コンテンツ」と記します。

  1. 侵害コンテンツが掲載されるURL(それに準じるものを含む。以下「侵害コンテンツ掲載URL」とします)に殊更に誘導するよう作りこまれているもの
  2. 侵害コンテンツ掲載URLの掲載割合などに照らして、侵害コンテンツの利用を主な目的にしているとみられるもの

意味あいとしては、侵害コンテンツの利用を促す意図で作られたサイト、アプリということになります。法律の正式な文言では、「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」、「侵害著作物等利用容易化プログラム」とされていますが、本稿では両者まとめて、「リーチサイト」といいます。

(2) リンク提供行為(改正法第113条2項)の規制

侵害コンテンツ掲載URLをリーチサイトに掲載する行為は、URLの対象が侵害コンテンツであることを知っていたか、知っていたと認めるに足りる相当の理由がある場合は、著作権侵害行為とみなされます。これは、リーチサイトを運営する行為でなく、そこにリンク(URL情報)を提供する利用者等の行為を規制するものです。

少し細かい点ですが、条文上、二次的著作物(翻訳によるものを除く)に関する著作権法第28条の権利を侵害する侵害コンテンツは、規制の対象外とされています。これは、例えばオリジナル作品の作者の許可なく創作されたパロディ作品を、パロディ作品の作者の許可だけ得てアップロードした場合、オリジナル作者が有するパロディ作品に関する著作権法第28条の権利を侵害する「侵害コンテンツ」になる場合がありますが、リーチサイト規制の適用上は、侵害コンテンツとはしないことにされています。パロディ作品のオリジナル作者の許可が得られているかどうかといった事情まで、リンク提供者やサイト運営者に責任を負わせるのは酷であると考慮されたものと思われます。

上記リンク提供行為は刑事罰の対象にもなります(改正法第120条の2第3号)。発動のためには告訴が必要な親告罪となります。

(3) リーチサイト提供行為の規制(改正法第113条3項)

リーチサイトの提供者は、①掲載されているURLの対象が侵害コンテンツであることを知っていたか、知っていたと認めるに足りる相当の理由がある場合で、②そのURL掲載を削除することが技術的に可能なのに削除せず放置した場合に、著作権侵害行為とみなされます(①と②両方の要件を満たした場合に侵害行為とみなされます。)。

但し、侵害コンテンツのリンクを内包し得る汎用的なウェブサイト(プラットフォーム)への規制の拡大解釈を防ぐため、以下のような要件を満たすサイト、アプリは対象外とされています。

<条文抜粋:改正法第113条第3項括弧書き>
当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等と侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等において、単に当該公衆への提示の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。

文化庁の説明において、Youtubeを運営するGoogleの例が挙げられており、特定のチャンネルがリーチサイトに該当する場合でも、適法なコンテンツも多数掲載し、ユーザーにアップロードのサービスを提供するプラットフォームとしてのYoutubeは、被害者からの削除請求に相当期間応じないなどの事情がなければ、この規制の対象外とされることになります。

リーチサイトを公衆に提示する行為は刑事罰(改正法第119条第2項第4号、第5号)の対象になります(前段落で説明した「プラットフォーム」が除外されることは刑事罰も同様です。)。また、こちらも親告罪になります。

4.侵害コンテンツのダウンロードの規制拡大

2.で述べたとおり、現行法の音楽と映像の著作物については、侵害コンテンツであることを知りながらダウンロードする行為は、複製等の行為が許容される「私的使用」(第30条)の例外規定が適用されず、私的使用の目的であったとしても、著作権侵害行為となります(同条第1項第3号)。また、正規版が有償提供されている著作物の場合、刑事罰(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はその併科)の対象となります。

今回の改正で、ユーザー側の侵害コンテンツのダウンロード行為について、規制対象が音楽と映像以外の著作物にも拡大されます。改正法(第30条第1項第4号)の条文は以下のとおりで、現行法の音楽、映像の著作物に関する規制と異なる点は下線の部分です。

著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この号において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。

  • 1点目は、3(2)でリーチサイト規制について述べたのと同じ内容で、パロディ作品の作者の掲載同意は得ているがオリジナル作品の同意は得ていなかったようなケースを、ダウンロード規制対象から除外するものです。
  • 2点目の「軽微なものを除く」の例としては、数十ページの漫画の1~数コマのダウンロードの場合や、サムネイル画像のダウンロードなどが、文化庁の資料で挙げられています。
  • 3点目の「特別な事情」の例としては、詐欺集団の作成した詐欺マニュアル(=理論上著作物に当たり得る)が被害者救済団体によって告発サイトに無断掲載されている場合に、自己や家族を守る目的でダウンロードすることなどが、文化庁の資料で挙げられています。

少し専門的な条文構造の話ですが、上記第30条第1項第4号の規定は「私的使用の目的であっても、私的使用という著作権侵害の例外カテゴリー(いわゆる権利制限規定)を使えない場合」を定めるものです。したがって、同号にあてはまってしまう場合でも、著作権法上の他の権利制限規定に該当すれば、著作権侵害にはならなくなります。例えば、侵害コンテンツを、その問題点を指摘する論文等に適法に「引用」(著作権法第32条)するためにダウンロードすることや、SNSの投稿をスクリーンショットで保存する際にそこに含まれる違法コンテンツ画像が「写り込み」(後述の改正法第30条の2条)の限度で複製されることは、侵害コンテンツであることを知っていたとしても、著作権侵害とはなりません。

改正法第30条第1項第4号に該当する行為で、他の権利制限規定にも該当せず著作権侵害となる場合、現行法の音楽、映像の著作物と同様に刑事罰の対象となります。正規版が有償提供されている著作物の場合に限られるのは、音楽、映像の著作物の場合と同様ですが、こちらについては「継続的に又は反復して行った」場合のみ刑事罰の対象とされており、音楽、映像の著作物の場合よりも緩やかな規制になっています。

なお、ダウンロード規制は個人を含むエンドユーザー側への規制となるため、過度な萎縮効果をもたらさないよう、改正法第30条1項第3号、第4号の規定(従前の音楽、映像と、今回追加されたその他著作物に関するダウンロード規制)は、侵害コンテンツであることを「重大な過失」により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない(「故意」である場合に限る)旨の確認規定も今回新設されました(改正法第30条第2項)。

5.写り込みの許容範囲の拡大

著作権法には、前述の私的使用のほかにも、一定の要件を満たせば著作物の複製等をしても著作権侵害とはならない旨の、いわゆる権利制限規定が複数あります。そのひとつとして、写真撮影、録音又は録画の方法で著作物を創作する際に、その対象物に含まれる他の付随的な著作物の複製が生じても、一定要件を満たせばこれを許容するという、いわゆる写り込みの権利制限規定があります(第30条の2)。典型的な例として、写真を撮影する際に、本来意図した撮影対象以外に、小さく絵画などが映り込む場合が挙げられます。

今回の改正で、この権利制限規定の適用範囲が拡大され、その具体的なポイントは以下のとおりです。

  1. 写真撮影、録音又は録画だけでなく、映像又は音の複製又は伝達行為全般に拡大された。例えば、スクリーンショットをとる場合や、生配信の場合も対象となった。
  2. 「著作物を創作する」場合である必要がなくなった。撮影行為が創作的な活動であるかどうか、等の検討をする必要はなくなった。
  3. 付随著作物が、本来の撮影等の対象物から「分離困難」なものである必要はなくなった。例えば、被写体の背後に絵画がかかっていて物理的に取り外しができる場合に、「分離困難だからNGではないか」という心配の必要はなくなった。
  4. 一方で、利益を得る目的の有無、分離困難性の程度、不随著作物の役割等の要素に照らして「正当な範囲」に限られるものとされた。

この改正は、一般に許容されてよいと考えられる行為まで、権利制限規定を拡大する、いわば社会実態にキャッチアップする方向の改正と考えられます。また上述のとおり、ダウンロード規制が画像等にも拡大されましたが、SNSの投稿をスクリーンショットで保存する際に違法にアップロードされた画像が入り込むことなど、広く一般的に行われている行為は、この写り込みの改正によって許容されるものと、文化庁の資料で説明されています。

6.著作物の利用権の対抗力

やや地味な点ですが、弁護士の視点では大きな制度変更と思われるのが、この改正です。

著作物のライセンシーの権利(利用権)は、そのライセンスを許諾した著作権者に対しては主張可能であるが、そのライセンサーが当該著作権を第三者に売却してしまった場合には、新しい著作権者には利用権を主張できず(=対抗力がない)、ライセンスが失効してしまうというのが、従前の法的なルールでした。このため、ソフトウェアなどの著作物のライセンスを受ける場合には、契約にライセンサーの権利譲渡禁止を定めたり、対抗力がないことをリスクとして認識した上で取引したりするなどの検討が必要でした。

今回の改正で、以下のような規定が新設されました(改正法第63条の2)。

利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

※ 「利用権」は著作物の利用許諾に基づく利用権である旨、別の条文で定義されています。

この改正によって、著作物のライセンシーは、ライセンスを登録機関などに登録したり、公示したりすることも特に必要なく、著作権が譲渡されても譲受人に対して利用権を継続して保有できることになります。これによって、ライセンシー側は安心して著作物を利用できるようになり、一方で、事業譲渡等で重要な著作物を譲り受けるような場合は、買収デューディリジェンスにおいて当該著作物に関するライセンス契約の有無や内容を確認することが、これまで以上に重要になったと言えます。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー Founder
林 賢治
Hayashi, Kenji

今回の改正は、プラットフォーム型のサービスを提供する事業者にも、それを通じてコンテンツを利用する利用者にも関係がある内容となります。著作権法は改正の頻度が高く、複雑になってきているため、継続して改正をウォッチしていくことをおすすめいたします。

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濱本 健一
Hamamoto, Kenichi
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平井 宏典
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