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ベンチャー企業のファイナンス

2009/02/25

~ AZX Coffee Break Vol.15 〜

本稿では、ベンチャー企業のファイナンス手法とその留意点について、解説する。現代のファイナンス手法は、多様化・複雑化の傾向を見せているが、分類すれば、負債(Debt)を増加させる方法、資本(Equity)を増加させる方法、資産(Asset)を現金化する方法のいずれかとなる。本稿では、まず、ファイナンス手法にはどのようなものがあるか俯瞰し、各手法の特徴や留意点を述べる。なお、下記以外にもファイナンス手法は存在するが、現時点では、一般のベンチャー企業にとって、馴染みが薄く、利用される可能性も低いため、今回は割愛する。

(1)ファイナンス手法 企業が資金を調達する手法には、負債を増加させる方法として、借入、社債の発行等があり、資本を増加させる方法として、株式の発行、新株予約権の発行等がある。資産の売却についても、売却の対象となる資産が物か債権か等の違いがある他、売却方法として証券化等の手法がある。また、これらの手法のほか、子会社を設立してその子会社の株式を引き受けてもらう方法や、匿名組合を組成してその組合に出資してもらう方法が事実上のファイナンスとして意味を持つ場合もある。ベンチャー企業では株式を発行するケースが多いが、常に借入より株式の発行の方がメリットがあるわけではなく、企業の成長段階、資金使途、資本構成に応じて、適切なファイナンス手法を選択する必要がある。以下、これらの手法を検討する。

①負債を増加させる方法 借入には、担保が付されている場合と付されていない場合に分けることができ、担保についても、人的担保(連帯保証)や物的担保(抵当権、質権、譲渡担保等)の他、最近では知的財産権を担保とする手法も見られる。借り入れた資金で買収した資産を担保にする場合はLBOと呼ばれ、企業の買収の際に利用されることがある。
  社債には、普通社債と新株予約権付社債があり、また、社債に担保や種々の条件を付すことも少なくない(社債に担保を付す場合は、担保付社債信託法の適用を受ける点に注意する必要がある。)。新株予約権付社債は、当初は社債であるものの、株式への転換が権利又は義務になっているものを意味し、一般には、新株予約権付社債権者(投資家)側が、行使の意思決定の有無やタイミングを決められるように設計されているため、投資家にとって他のファイナンス手法と比較して有利であることが多く、主に信用力の低い段階や再生案件において利用される。留意点として、金融商品取引法上の有価証券の募集に該当しないようにするため、同法及び関連法令を満たす形で設計する必要がある(プロ私募と少人数私募の要件が異なる点、社債券の発行の有無によっても要件が異なる点や人数以外の留意点に留意。)。有価証券の募集に該当すると原則として有価証券届出書を提出する義務を負うことになる。また、社債管理者の設置要件を満たすと社債管理者を定めなければならないため(会社法第702条)、かかる要件に該当しないように設計する必要がある。さらに、転換社債型新株予約権付社債は新株予約権の行使時に社債を現物出資するため、会社法第284条が適用され、原則として検査役の調査が必要とされるので、同条第9項各号の例外に該当するように設計又は運用すべきである。

②資本を増加させる方法 株式の発行については、種類株式か普通株式の選択の他、第三者割当又は株主割当(株主全員に持株比率に応じて割り当てる方法)という割当先による分類があり、会社法上行うべき手続が異なる点に留意する必要がある。割当先の選択は重要であり、特に、ベンチャー企業が株式をベンチャーキャピタルに割り当てる場合は、投資契約や種類株式の内容を検討するのは勿論のこと、割当先のファンドの性格や満期、担当者との相性等を慎重に見極める必要がある。ベンチャーキャピタルファンドは、出資者に対して、満期までに現金化する責務を負っており、ベンチャー企業が出資を要請する場合にはファンドの性格や背景事情を十分に理解する必要がある。事業会社に割り当てる場合は、業務提携と同時に行うことも多いが、現実に投資実行後に業務提携が上手く進まないケースも散見されるため、実際にどの程度シナジー効果等があるのかを慎重に見極める必要がある。
  新株予約権はストックオプション目的で無償で発行されることが多いが、投資家や事業会社に有償又は無償で発行されることも少なくない。ベンチャー企業が新株予約権を発行する場合として、発行会社がマイルストーンを達成した場合に新株予約権者が当該新株予約権を行使する義務を規定することで、マイルストーンに応じた投資を実現するケースがある。株式や新株予約権の発行に関する法律上の留意点として、社債と同様、金融商品取引法上の有価証券の募集に該当しないようにすることが非常に重要である。

③資産を現金化する方法 資産の売却については、不動産を売却し、賃借にする等のいわゆるオフバランス化の他、手形の割引やファクタリング等が挙げられる。また、事業そのものを売却することが資金調達に繋がるケースもある。自社で100%リスクをとって遂行することの難しい事業であっても、成功する可能性があれば担当従業員等を中心として独立させるスピンアウト等はこれの一種と言える。この場合、元の会社は株主として残ることとなり、残りの持分はファンドや従業員に売却されるため、元の会社に資金が入ることになる。少し本論とは離れるが、スピンアウトされた側の会社は、元の会社とは切り離して独自に事業を進めることとなるが、スピンアウト後も親会社と取引したり、親会社から新規の資金調達を行う場合も多い。このような取引や資金調達において、契約書が整備されていなかったり、対価や発行価額がいずれかに有利になっているケースが見受けられるが、税法上の問題が生じる可能性がある上、将来的にIPOを目指す場合は、引受審査の中で問題視される可能性が高く、解消を求められる場合もある。従って、これらの契約については、通常の契約以上に、契約書を整備し、客観的に適切な対価や発行価額で行うよう留意しておく必要がある。

④その他の方法 子会社を設立してその子会社の株式を引き受けてもらう方法や、匿名組合を組成してその組合に出資してもらう方法は、事実上のファイナンス機能を果たすことがある。ベンチャー企業に見られる手法の一つとしては、新規事業の一部に特化して匿名組合を組成し、出資者を募る方法がある。この方法では、金融商品取引法上、第二種金融商品取引業に該当する可能性があるため、同業務の登録を行っていない会社については、適格機関投資家等特例業務に該当する手法やみなし有価証券に該当しないようにする手法を用いなければならない点に留意する必要がある。

(2)ファイナンス手法の選択 負債を増加させる方法と資本を増加させる方法の最大の違いは、法律上の返還義務を負うか否かにある。借入と社債の発行では、会社は返済期日に資金を返済する法的義務を負うが、株式発行では、原則として調達した資金を出資者に返済する法的義務は負わない。投資家にとっては、貸付は、元利金の債権が確保され、相対的にリスクが低いものの、リターンは利息のみである(利息制限法に基づく上限がある。)。一方、株式は、基本的に債券としての回収が難しく、相対的にリスクが高いものの、配当の他、キャピタルゲインが得られる可能性がある(法律による上限はない。)。株式を通じて資金を調達する発行会社は、投資家がキャピタルゲインを得ることを目的として投資していることをよく理解する必要があり、具体的には、IPO(株式上場)やM&A(買収・合併)等により、投資家の投下資本回収の途を図ることになる。

実務上、ベンチャー企業では、(i)現金の返還義務を負わない、(ii)投資家の高い期待収益率に応えられるビジネスモデルを有している、(iii)価値のある担保がない等の理由から、株式発行による資金調達が多く見られる。ビジネスモデルとの関係では、研究開発や賃金の支払等が主たる資金使途であるような事業(IT、バイオ等)は、株式発行が多く、借入はあまり見られない。一方、担保となる資産を取得する事業(製造業等)や安定的な売上が見込める事業(飲食業、流通業等)は、借入による資金調達も多く見られる。いずれにせよ、どの時点で、どのようなファイナンス手法を利用するかは、会社の資金調達面における重要な経営事項であり、通常は、資本政策という形で予め計画を立てる。資本政策を立案する際には、事業計画が順調に推移するとどの時点でどの程度の資金需要があるか、事業用現金が確保できているか、創業者等の持株比率が満足できる内容となっているか、上場後の安定株主が確保されているか、最終的に投資家の期待に応えられる内容となっているか等の観点が必要であり、非常に重要である。企業の経営者にとっては、売上の拡大や利益率の上昇、保有する経営資源の効率的な活用が主要な関心事であるが、適切な資金調達を行うことも重要な使命であることに留意する必要がある。

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