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労働基準法の管理監督者について

2008/06/20

~ AZX Coffee Break Vol.12 〜

本年1月28日、大手ファーストフードチェーン店の店長が管理監督者かどうか争われた事件で、東京地裁は管理監督者とは認められないと判断し、未払の割増賃金と付加金の支払を命じた。過去の裁判例においても同様に、管理監督者の範囲を広げ過ぎる不適切な取扱いにより、支払うべき割増賃金を支払わず、また過重な長時間労働を行わせていたものと判断された事例が少なからずある。ベンチャー企業においても社内における基準のみをもって、「管理職」であれば残業代は不要と理解しているケースが見受けられるが、必ずしも労働基準法(以下「法」という。)に定める管理監督者の要件を満たしていない事が多いようである。また、割増賃金、労働時間に関する労務問題はIPO審査上も重要であるため、今回は法で定める管理監督者について解説する。

(1)管理監督者の定義 法第41条第2号は「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」という。)には、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しないと定めている。このため、企業によっては一定の役職又は資格等級以上の者を一律に管理監督者として位置づけ、残業代、休日出勤手当等の支払を抑制している場合がある。しかし法で定める管理監督者の範囲は、世間一般で認識されているものより狭く限定されたものである点に留意する必要がある。以下、これらの要件についてもう少し詳しく解説する。

(2)通達による解釈 管理監督者の範囲については、法律上特段の定義はなく解釈に委ねられているものの、実務上通達の内容は重要視されているため、まず通達について解説する。通達では「法第41条第2号に定める『監督若しくは管理の地位にある者』とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである」とされている。本通達は具体的な判断の考え方についても触れており、重要な通達であるため以下のとおりその内容を紹介する(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号)。

①原則  法に規定する労働時間、休憩、休日等の労働条件は、最低基準を定めたものであるから、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではないこと。
②適用除外の趣旨  職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法第41条による適用除外が認められる趣旨であること。従って、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。
③実態に基づく判断  一般に、企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」という。)と、経験、能力等に基づく格付(以下「資格」という。)によって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。
④待遇に対する留意  管理監督者であるかの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。
⑤スタッフ職の取扱い  法制定当時には、あまり見られなかったいわゆるスタッフ職(直接業務執行を行う指揮命令ライン上の管理職に対して、企画調査を担当してライン管理職に助言、助力する管理職)が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、同法第41条第2号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること。

(3)管理監督者についての裁判例 通達は重要な解釈の指針となるが、あらゆるケースに対応する詳細な判断基準を提示しているものではなく、また個別の事例において管理監督者の該当性を最終的に判断するのは裁判所となる。そこで、上記の通達の内容を踏まえて頂きつつ、管理監督者の該当性に関するいくつかの裁判例を以下に紹介する。

①管理監督者に該当しないと判断された裁判例
i) 銀行本店の調査役補について、出勤簿の提出が義務付けられ、正当な事由のない遅刻及び早退については人事考課に反映され、自らの労働時間を自分の意のままに行いうる状態など全く存じないこと、部下の人事考課の仕事に関与しておらず、上司の手足となって部下を指導及び育成したに過ぎず、経営者と一体となって銀行経営を左右するような仕事には全く携わっていないこと等の事実を認定して該当性を否定したもの(静岡銀行事件。昭和53年3月28日静岡地裁判決)。
ii) 従業員40人の工場の課長について、決定権限を有する工場長代理を補佐するが、自ら重要事項を決定することはなく、給与面でも、役職手当は支給されるが従来の時間外手当よりも少なく、また、タイムカードを打刻し、時間外勤務には工場長代理の許可が必要であったこと等の事実を認定して該当性を否定したもの(サンド事件。昭和58年7月12日大阪地裁判決)。
iii) ファミリーレストランの店長について、コック等の従業員6〜7名を統轄し、ウエイターの採用にも一部関与し、材料の仕入れ、売上金の管理等を任せられ、店長手当月額2〜3万円を受けていたとしても、営業時間である午前11時から午後10時までは完全に拘束されて出退勤の自由はなく、仕事の内容はコック、ウエイター、レジ係、掃除等の全般に及んでおり、採用に関与したウエイターの労働条件も最終的には会社で決定している等の事実を認定して該当性を否定したもの(レストラン・ビュッフェ事件。昭和61年7月30日大阪地裁判決)。
iv) 書籍販売会社の支店販売主任について、タイムカードにより厳格な勤怠管理を受け、自己の勤務時間について自由裁量を有していなかったこと、売上集計や支店長不在時の会議のとりまとめ、支店長会議への出席、朝礼時に支店長からの指示事項を伝えることはあっても、支店の営業方針の決定権限や販売計画等に関し独自に課長に対し指揮命令を行う権限がなかったこと等の事実を認定して該当性を否定したもの(ほるぷ事件。平成9年8月1日東京地裁判決)。

②管理監督者に該当すると判断された裁判例
i) 医療法人の人事課長について、給与面で課長職として責任手当、特別調整手当が支給されており、職務内容は看護婦の募集業務全般で、責任者として自己の判断で求人、募集計画、出張等の行動計画を立案し実施する権限があったこと、出退勤はタイムカード刻印義務があったが、これは給与計算上の便宜にすぎず、実際の労働時間は自らの責任と判断により自由裁量で決定できたこと等の事実を認定して該当性を認めたもの(徳洲会事件。昭和62年3月31日大阪地裁判決)。
ii) 会員制クラブの総務局次長について、経理、人事、庶務全般の事務の管掌を委ねられ、その地位に相応した職務手当及び役職手当をうけていたこと等の事実を認定して該当性を認めたもの(月額給与330,400円のうち、年令給150,800円、職能給79,600円、役職手当30,000円、職務手当50,000円、家族手当20,000円を支給)(日本プレジデントクラブ事件。昭和63年4月27日東京地裁判決)。

以上から、従業員を管理監督者として運用する際には、実態として①重要な職務と権限を有し、経営管理を行う立場にあり、②勤務態様について制限を受けず自己裁量権があり、③地位にふさわしい賃金優遇を受けている事等を中心に、専門家に相談しつつ慎重に検討する必要がある。なお、本年4月1日に「管理監督者の範囲の適正化について(平成20年4月1日基監発第0401001号)」という行政通達が出された事に伴い、今後労働基準監督署においては管理監督者の範囲等について積極的な監督・是正指導が行われる可能性があるため注意が必要である。また、管理監督者であっても年次有給休暇の付与や深夜時間帯の割増賃金支払義務に関する規定は適用除外されていない点にご留意いただいた上、ベンチャー企業の急速な企業成長に伴い、管理監督者に過重な負担がかかり過ぎないよう健康管理の面においても配慮を講じた運用を心掛けるべきである。

以 上

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