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【2024年3月末までに要対応】VCのマネロン対策

今回のブログは、ベンチャーキャピタルのマネロン対策をテーマにしました。
3月末までに対応が必要となるものですので、ぜひご一読ください。

具体的には、当局としては、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「AML/CFTガイドライン」といいます。) に基づく対応について、2024年3月末までに行う必要がある、という形で対応期限を設定しており、今回のブログでは、AML/CFTなどの基本的な事項を改めて確認したうえで、2024年3月末までに必要となるAML/CFTガイドラインに基づいた対応について、解説していきたいと思います。

1.AML/CFTとは?

AML/CFTとは、「Anti-Money Laundering/Counter Financing of Terrorism」の略称であり、マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融(以下「マネロン等」といいます。)を防止する対策を指すものです。
AML/CFTと聞くと、銀行等や暗号資産を取り扱う事業者などが気を付けるべきものであるというイメージがありますが、実は、VCの業務との関係でもマネロン等のリスクは否定できません。
たとえば、ファンドに対する出資の受入れの場面において、万一、LPから受け入れた出資金が、犯罪収益に由来するものであったとすると、犯罪収益が、LPSの出資持分(有価証券)という形に転換され、当局による追跡を困難にするほか、これが持分譲渡や分配という形で更に換金される場合には、マネロン等として機能してしまう可能性があります。
また、VCがスタートアップに投資する場面では、万一、投資先が、テロ組織や反社会的勢力である場合には、これらの組織の活動を助長してしまう懸念もあります。また、例えば、投資先企業が、マネロン等の危険性のある国・地域と取引を行う場合には、ファンドの資金が間接的にマネロン等に寄与してしまう可能性が否定できません。
そのため、VCにおいても、マネロン等の対策を講じることは、非常に重要なものと考えられています。

2.犯収法・AML/CFTガイドラインの位置づけ

AML/CFTに関する法令等及びその背景

日本におけるマネロン等の対策に関連する法令等としては、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」といいます。)、外国為替及び外国貿易法等の関係法令が挙げられるほか、各金融機関(VCを含みます。)においては、AML/CFTガイドライン」[1] も遵守する必要があります。

これらの法令やガイドラインは、近時、頻繁なアップデートを繰り返していますが、その背景には、FATF(Financial Action Task Force)という国際組織が、日本をはじめとした各国のマネロン等の対策が実効的に行われているか等を定期的に審査している、という事情があります。例えば、ある国のマネロン等の規制が緩い場合、犯罪収益はその国を経由すること等により容易にマネロン等の対象になってしまうため、マネロン等の対策においては国際的な協調が不可欠と考えられますが、その中心的な役割をFATFが担っており、日本もFATFによる相互審査を踏まえて、マネロン等の規制を強化してきた、という経緯があります。
以下、この分野の主要な法令である犯収法及びAML/CFTガイドラインについて、簡単に解説したいと思います。

犯収法

犯収法では、AML/CFTが実効的に機能するように、一定の事業者(特定事業者)に対して、取引時に相手方の身元を確認するなどの規制を課しています。VCにおいては、犯収法上、例えば以下の点を遵守する必要があります。

a.「特定取引」の「顧客」(ベンチャーファンドを想定すると、LPや株式譲渡の相手方)
 の身元確認(「取引時確認」)を適切に行うこと
b.上記a.の確認結果やその他の取引を記録化し、保存すること
c.万一、疑わしい取引があれば、それを当局に届け出ること

これらの点については、おそらく、現時点でも、既に対応されているものと考えますので、詳細は割愛させていただきますが、もし、不安な点などがあればご相談いただければと思います。

AML/CFTガイドライン

上記の犯収法等の法令に加えて、金融庁は、2018年にAML/CFTガイドラインを制定しました。このAML/CFTガイドラインでは、上記に定めるような法令上の対策だけではなく、各事業者がマネロン等のリスクを自ら評価し、このリスクに見合った対策を講じるべきこと(リスクベースアプローチ)等が定められています。

「リスクベースアプローチ」というと、あまり聞き慣れない表現かもしれませんが、上記の犯収法のように、国や政府により一定の行為規範が詳細に提示され、それを守っていれば良い(ルールベースアプローチ)、というわけではなく、各事業者ごとに、どのような対応が必要なのかを、そのリスクに応じて自ら検討し、これを実施していくことが求められている、ということです。

これを読むと、一気に対応するのが面倒に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、AML/CFTガイドラインの以下の抜粋部分のとおり、AML/CFTガイドラインの「対応が求められる事項」の対応が不十分である場合、理論上は、監督指針に従って行政処分が行われるリスクがあるので、適切に対応していく必要があります。

【参考:AML/CFTガイドライン5頁】
本ガイドラインにおける「対応が求められる事項」に係る措置が不十分であるなど、マネロン・テロ資金供与リスク管理態勢に問題があると認められる場合には、業態ごとに定められている監督指針等も踏まえながら、必要に応じ、報告徴求・業務改善命令等の法令に基づく行政対応を行い、金融機関等の管理態勢の改善を図る。

また、懸念するべきなのは、行政処分のリスクだけではありません。近時、ファンド組成の際、金融機関などからLP出資を受けるケースでは、VC側のマネロン等への対策が十分かどうかを確認されるケースも多くなってきている印象ですので、この観点からも、AML/CFTガイドラインに基づく対応は必須となっていると言えます。

なお、当局としては、このガイドラインに基づく対応について、2024年3月末まで[2]に行う必要がある、という形で対応期限を設定しており、現時点で対応が全く未着手の場合は、具体的にどのように対応を進めればよいのか、我々含む専門家等にご相談いただく方が良いかもしれません。

具体的にAML/CFTガイドラインで何が求められているのか、については、以下の3で項目を分けて言及したいと思います。

3.AML/CFTガイドラインの概要

それでは、AML/CFTガイドラインに基づいて、どのような対応が必要になるのでしょうか。AML/CFTガイドラインのうち、「対応が求められる事項」の内容をかなり簡潔にまとめると、以下のとおりです。

(1)リスクの特定・評価、これらのリスクに応じたリスク低減措置

●リスクの特定・評価
各事業者は、「犯罪収益移転危険度調査書」[3] の記載、金融庁の開示する「疑わしい取引の参考事例」、「疑わしい取引」の届出状況等も考慮し、自らの事業において、どのようなマネロン等のリスクがあるのか、それがどの程度存在するのかといった分析結果を、「リスク評価書」の形で書面化し、これを定期的に見直す必要がある。


●リスク低減措置
① 各事業者において、各顧客の属性等を踏まえたマネロン等のリスクの大小に応じ、適切に顧客管理(取引開始時の確認やその後の継続的な情報管理など)を行う必要がある。また、これを実現するため、顧客の受入方針含め、社内規程等の形で態勢を整備し、適切に運用する必要がある。
② 各事業者は、取引開始時の確認結果だけでなく、取引の記録を幅広く保管しておく必要がある。
③ 各事業者は、万一、マネロン等の観点から「疑わしい取引」がある場合は、「疑わしい取引」の届出を当局に対して適切に実行可能な態勢を整備するため、そのプロセスや責任者等を社内規程の中で明確化する必要がある。

 

(2)管理態勢の整備・見直し

●各事業者において、その営業部門、コンプライアンス部門、内部監査部門の3つの部門が、以下のような役割を果たすことにより、リスクの評価・特定や、リスク低減措置を継続的に実現するような態勢を整備する必要がある(3つの防衛線)。
① 直接に顧客と接する営業部門が、社内規程等含めてマネロン等の対策についてきちんと理解する。
② コンプラ部門が営業部門を必要に応じてサポートするとともに、営業部門をけん制する。
③ 内部監査部門が独立した立場からマネロン等の対策の実効性等について定期的に検証し、必要に応じて見直しを提言する。


●各事業者において、適切な社内研修を継続的に行うなどにより、マネロン等の対策に必要な人員を確保・教育していくとともに、経営陣自らがAML/CFT関連の措置に主導的に関与する必要がある。

ガイドラインに記載している内容としては、他にも諸々あるのですが、ざっくりとまとめると、上記のように、自社の事業に関するマネロン等のリスクを分析し、「リスク評価書」や社内規程の作成等の策定などを通じて社内態勢を整備した上で、その社内態勢について、PDCAのサイクルが適切に回るように運用する必要がある、ということです。

4.VC特有の実務上の対応の難しさ

上記のとおり、AML/CFTガイドラインによれば、一定の態勢整備が求められているのですが、特にこの分野におけるVCの立場はやや特殊かもしれません。

というのも、VCの場合、金商法に基づく適格機関投資家等特例業務としてファンドの組成・運用を行っているケースが多いと考えますが、この場合、当局に対して届出を実施すれば、理論上、個人1人でもVCとして活動することができ、その際に、法令遵守やリスク管理等の態勢を審査されることもありません。そのため、法令に基づくライセンス取得時に一定の態勢整備が求められる他の事業者(銀行、保険会社、暗号資産交換業者…)とは事情が異なり、マネロン等対策に向けた態勢整備に関してどのような対応を講じれば良いのか、社内の知見が無いケースも珍しくありませんし、そもそも、上記の「3つの防衛線」と呼ばれるような部門の切り分けが明確にできないケースも多いものと考えております。実際、AML/CFTガイドラインの多くの記載は、典型的には、組織や事業の規模の大きな金融機関を念頭においているようにも読めます。

そのため、VCの皆様の中には対応に苦慮されている方も多いのではないかと思いますが、AML/CFTガイドラインに基づく対応が求められている以上、VCとしても、自社における個別の状況に応じて、AML/CFTガイドラインの趣旨も踏まえながら、(少なくとも同ガイドラインのうち「対応が求められる事項」に関しては、)自社としてどのような対応を講じているのか、外部に説明できるように準備していく必要があるものと考えます。

まとめ

以上のとおり、VCとしても、2024年3月末までに、AML/CFTガイドラインに基づく対応が必要になりますが、上記4のような事情も相まって、現時点でも、対応方針を検討中の方も多いのではないかと推測します。
AML/CFTガイドラインは、犯収法のような詳細な「ルール」が明確に提示されているわけではないこともあり、我々としても「これだけやっていればよい」というものを明確に示すことが難しいのですが、例えば「リスク評価書」や各社内規程の策定など、当方側でサポートできる部分はあると思いますので、是非お気軽にご相談ください。

【脚注】

[1] 金融庁 令和3年11月22日付「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策 に関するガイドライン」https://www.fsa.go.jp/common/law/amlcft/211122_amlcft_guidelines.pdf

[2] 金融庁 令和3年4月28日付「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る 態勢整備の期限設定について」https://www.fsa.go.jp/news/r2/20210531_amlcft/2021_amlcft_yousei.pdf

[3] 国家公安委員会 令和5年12月 「犯罪収益移転危険度調査書」https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk051207.pdf

執筆者
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