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スタートアップが押さえるべき下請法のポイント【その2】親事業者の書面交付義務とは?3条書面のポイントを解説

2025/03/07

弁護士の平井です。

前回は、スタートアップにおける下請法対応について、その第1弾として、下請法の概要について解説しましたが、今回は、下請法上の親事業者の義務について解説したいと思います。

1.はじめに

自らが発注する業務が下請法の適用対象となる場合には、業務を発注する親事業者は、①書面の交付義務、②支払期日を定める義務、③書面の作成・保存義務、④遅延利息の支払義務の4つの義務が生じることになります。(どのような場合に下請法の適用対象となるかについては、「スタートアップが押さえるべき下請法のポイント【その1】下請法の概要」をご覧ください。)

今回は、親事業者の義務のうち、①書面の交付義務について解説したいと思います。

2.3条書面の記載事項

親事業者は、発注に際して、下記の事項を具体的に記載した書面を下請事業者に対して直ちに交付しなければなりません(下請法第3条)。かかる義務は下請法第3条に規定されていることから、当該書面を「3条書面」と呼ぶことが多いです(下請法第3条に規定された事項を具体的に記載した発注書ということになります。)。口頭での発注は、発注内容が不明確になるなど、親事業者と下請事業者との間でのトラブルの原因となるため、このようなトラブルを未然に防止し、下請事業者を保護するために、3条書面の交付義務が定められています。

3条書面に記載すべき事項は以下のとおりです。

① 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
② 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
③ 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう、明確に記載する。)
④ 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
⑤ 下請事業者の給付を受領する場所
⑥ 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
⑦ 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが、算定方法による記載も可)
⑧ 下請代金の支払期日
⑨ 手形を交付する場合は、手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
⑩ 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
⑪ 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
⑫ 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法

【出典】『親事業者の義務』(公正取引委員会)

3条書面のサンプルについては、公正取引委員会が『下請取引適正化推進講習会テキスト(令和6年11月)』(97頁)において公開しています。

3.発注時に記載できない場合の対応

例えば、ソフトウェア作成委託の場合において、エンドユーザーが求める仕様が確定しておらず、発注時には正確な委託内容を決定することができない場合があります。このように、発注時に3条書面に記載すべき事項のうち、「その内容が定められない正当な理由があるもの」については、その事項を記載せずに発注書面(当初書面)を交付することが認められています(下請法第3条第1項但書き)。この場合には、記載しなかった事項について、内容が定められない理由内容を定めることとなる予定期日を当初書面に記載する必要があります(下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則(以下「3条規則」といいます。)第1条第3項)。

また、当初書面に記載されていない事項について、その内容が確定した後には、直ちに、その事項を記載した書面(補充書面)を交付する必要があります(下請法第3条第1項但書き)。

4.書面性

3条書面については、一定の留意事項はありますが、電磁的方法によって提供することも認められています(下請法第3条第2項)。主な留意事項は、①電磁的方法により提供することについての下請事業者の事前承諾が必要であることと、②電磁的方法の対象が限定されていることです。

(1) 下請事業者の承諾

親事業者は、下請法が適用される取引において、3条書面に記載すべき事項を電磁的方法によって提供する場合には、あらかじめ、下請事業者に対して、使用する電磁的方法の種類(電子メール、ウェブ等)及び内容(PDFなどのファイルへの記録方法)を示して、書面又は電磁的方法による承諾を得る必要があります。当該承諾の取得においては、書面ではなく、電磁的方法により取得することも認められています(下請法施行令第2条第1項、3条規則第3条)。

 

(2) 電磁的方法の限定

3条書面について、書面の交付に代えて提供することができる電磁的方法は、以下のいずれかの方法による必要があります(3条規則第2条第1項、『下請取引適正化推進講習会テキスト(令和6年11月)』(116頁~117頁))。

○ 電気通信回線を通じて送信し、下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法(例えば、電子メール、EDI等)

○ 電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し、当該下請事業者のファイルに記録する方法(例えば、ウェブの利用等)

○ 下請事業者に電磁的記録媒体(電磁的記録に係る記録媒体をいう。)を交付する方法

電子メールにより提供する場合には、下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならないとされています。例えば、通常の電子メールであれば、少なくとも、下請事業者が当該メールを受信していることが必要となります。また、携帯電話に電子メールを送信する方法は、電子メールを記録する機能のない携帯電話端末への送付は認められないものの、携帯電話端末にメモリー機能が備わっており、下請事業者が所有 する特定の携帯電話端末のメールアドレスに必要事項を電子メールで送付することがあらかじめ合意されているなど、下請事業者のファイルに記録する方法と認められる場合には、下請法が認める「電磁的方法」に該当します(『下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項』第1の2(1))。

また、書面の交付に代えてウェブのホームペ―ジを閲覧させる場合は、下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録したことにはならず、下請事業者が閲覧した事項について、別途、電子メールで送信するか、ホームペ―ジにダウンロード機能を持たせるなどして下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となります(『下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項』第1の2(2))。

5.罰則

3条書面を交付しなかった場合には、刑事罰の対象となり、違反した親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者とともに、法人自身も50万円以下の罰金が科せられますので、注意が必要です(下請法第10条第1号、第12条)。

6.まとめ

今回は、スタートアップにおいてもよく問題となる下請法について、その第2弾として、親事業者の義務のうち書面の交付義務について解説しました。

下請法については、違反した場合には公表を伴う勧告や罰金が科される可能性もあるため、レピュテーションリスクやIPO審査で問題となるリスクも踏まえて、慎重に対応する必要があります。

次回は、書面の交付義務以外の親事業者の義務について解説したいと思います。

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執筆者
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弁護士 パートナー
平井 宏典
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