投資契約(6)会社の運営に関する事項

投稿日:2015/11/20

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GK

投資契約における会社の運営に関する事項について解説します。これは、投資家として、会社の経営の健全性を維持して投資の成功確率を高めること、投資先の状況を把握して、ファンドの運営者として適切な対応を行う機会を確保することを主な目的として定められるものです。

AZXにてHP上で開示しているタームシートに記載されている順に解説します。

1.上場努力義務

VC等の投資家が、ベンチャー企業に投資する場合には、投資の前提として、いつまでのIPOを目標としているのか、その目標のために経営チームが全力で頑張ることができるのかを確認し、ベンチャー企業側と投資家の意識をすりあわせることが重要です。

特にファンドという形で資金を預かっているVCにとっては明確なExitの目標なく投資をすることは困難と言えます。

そこで、投資契約において、このようなIPOの目標時期及びそれに向けてのベンチャー企業及び経営者の努力義務を定めることが重要となります。

通常は「努力義務」という形で定めますが、その努力を怠れば投資契約違反となるものであり、ベンチャー企業及び経営者においてこの約束の達成に向けて誠実に努力するべきこととなります。

また、このIPOの目標時期が、種類株式の取得請求権(対価を金銭とするもの)の発動時期やドラッグ・アロング・ライト(この点の解説はAZXブログ第44回を参照)の発動時期に連動することもあります。

もちろん、当初からM&Aを目指している場合には、まれにこのような上場努力義務を定めないケースもあります。

また、「上場」にこだわらず、上場とM&Aの両方を含んだ「Exit時期」のコミットと努力義務という形で規定することもあります。

2.資金使途

ベンチャー企業において、資金調達をする場合には、開発費用、営業費用等の特定の資金的な需要があるのが通常であり、VC等の投資家も、その資金使途と必要性及びその必要性から考えられる調達必要金額を検討の上、投資をすることになります。資金使途の特定性については、例えば、特定のソフトウェアの開発などと明確に限定されている場合もあれば、もっとざっくりと必要な人材の確保を含めた運転資金全般などと広い場合もあります。

仮に運転資金全般という広い資金使途を定めたとしても、投資金額を借入金の返済に充てることは想定しないとして、このようなものを除外するケースもあります。

このような資金使途について、投資家としてベンチャー企業側と確認して、それを投資契約において明記するのが一般的です。

3.取締役及びオブザーバーの派遣

取締役の派遣については、AZXブログ第35回を参照していただければ幸いです。

VC等の投資家において、取締役の派遣までは求めないとしても、オブザーバーを派遣して、投資先企業の取締役会等の重要会議に出席させて、その状況を把握するケースがよくあります。

オブザーバーは、会議での議決権を有せず、意見を言うことができるにとどまる形にするのが通常であり、このような形であれば、ベンチャー企業側としても大きな負担ではないので、受け入れるケースが多いです。ベンチャー企業側としては、オブザーバーは企業の重要会議に出席することから、その秘密保持の点に注意して、投資契約に秘密保持条項をきちんと入れるか、別途秘密保持契約を締結するのが安全です。

 

4.誓約事項

投資契約においては、投資先会社の将来のIPO等の支障にならないように適正な企業運営を約束してもらうとともに、投資家として必要な情報収集等を行うことを目的として、各種誓約事項が定められるケースが一般的です。主な誓約事項としては以下のようなものがあります。

①適正な会計帳簿の維持

②役員その他の関連当事者との取引の適正(アームズレングス・ルール)

将来のIPOにおいては、IPO前の一定期間の関連当事者取引は原則として開示対象となり、その取引の適正が特に審査対象となります。そのため、投資契約において、会社と役員その他の関連当事者との取引条件が適正であるべき点を明記するケースが多くあります。

③投資家の質問権・情報開示請求権

投資家から質問や資料の提出要求を受けた場合には、これに応じるという内容の規定です。

VC等の投資家はファンドの出資者等に各種報告を行う必要もあり、ある程度包括的な情報開示の権利を保有しておくことは重要と言えます。

④計算書類、税務申告書等の提出 

⑤最新の事業計画書の提出及び内容の解説

⑥反社会的勢力等との関係遮断

⑦法令、定款、社内規則等の遵守

法令遵守は当然のことではありますが、これを投資契約に定めなかった場合、株主である投資家は、違法行為を行った経営陣に対して会社に生じた損害を賠償するよう求めることはできるとしても、投資契約違反として株式の買取請求等を行うことは困難となります。そのため、あまりに当然のことであって規定することの意味がないと思われてしまいがちですが、投資契約において定めておくことは重要です。

5.重要事項の事前承認及び通知

定款変更、合併等の会社再編行為、新株発行等の資本の変動を生ずる行為、破産等の申立てなど重要度の高い事項について、投資家側が事前承認の権利(=拒否権)を要求し、それを投資契約に定めるケースは一般的と言えます。

しかし、ベンチャー企業側にとっては、経営の自由度を制約されることになるため、できるだけ、合理的な範囲に限定することを要請することになります。この場合の論点としては、①拒否権を発動できる投資家の範囲を限定すること(例えば、一定以上の持株比率を保有する投資家のみとする、一定の種類の株式を保有する投資家全体の過半数とする)、②一定範囲のストックオプションの発行など例外事由を設けることなど考えられます。

また、交渉によって、投資家側が要求する事前承諾事項のうち、一部を協議事項や通知事項にするケースもあります。なお、VC等の投資家にとっては、「協議事項」とした場合は、それは事前承諾事項ではない以上、誠実に協議した結果同意に至らなくてもベンチャー企業側がその対象事項を実行できることになること、従って協議事項は性質上は通知事項に近いことをよく理解しておくことが重要です。

VC等の投資家にとって、この事前承認事項の設定について留意しておく点があります。それはあまりに細かい事項まで事前承認事項にしてしまうと、ベンチャー企業側の意思決定のスピードを奪ってしまいその企業の発展にとって阻害要因となってしまうということだけではなく、VC等がその細かい対象事項についても、逐一賛否を明示する必要があり、何か問題が生じた場合には、ファンドの出資者に対して、なぜ賛成又は反対したのかを明確に説明する必要が生じ、VC等自身にとってもリスクとなる可能性があることです。また、細かい事項まで承認事項にしたが故に、事前承諾の手続がなおざりになってしまい、実際は手続をせずに黙認状態が続くと、重要なときに事前承諾がない点を主張した際に、黙示の承諾や権利濫用を認定されやすくなるとともに、そのような手続を行っていたことについてファンドの出資者に対する責任が発生する可能性もあります。従って、事前承諾事項は、重要なものに限定した上で、きちんと運用していくことが重要と言えます。

なお、投資契約の事前承諾事項と種類株式における拒否権(種類株主総会決議とすること)の大きな違いは、違反が生じた場合、前者は違反行為自体は有効であるが契約違反となり投資契約に定めるペナルティー(株式買取請求、損害賠償請求等)の対象となるのに対して、後者の場合は、定款違反として行為自体が無効となる点です。

6.事後通知

投資先であるベンチャー企業において、訴訟等の紛争が発生した場合、破産等の申立てがなされた場合、監督官庁から営業停止等がなされた場合、災害により重大な損害が発生した場合などにおいては、投資家は状況を把握しておく必要があるため、投資契約において、このような事項についての事後通知の規定を設けておくことは重要です。特に、適時開示ルールが適用される上場会社と違って、非上場の会社は、上記のような事態が生じても法令上の開示義務がないケースも多く、投資契約において、契約上の義務として定めておくべき意義が大きいと言えます。また、M&Aの提案を受けたような場合にも、投資家として把握しておく必要性が高いものと考えます。

7.経営株主の専念義務

VC等の投資家にとって、投資判断にあたって、経営者が誰であるかは極めて重要であり、ベンチャー投資においては、当該経営者に投資をしているという側面が強いのが一般的です。従って、VC等が経営者に対して、投資対象会社の経営に専念することを要請するのが通常であり、また、経営者側としても、VC等からの投資を受ける以上、その期待に応えて、当該会社の経営に専念する覚悟が必要です。

投資契約においても、この点は明記されるが一般的であり、具体的には以下の3点が規定されるのが通常です。

①投資家の承諾なく、取締役を辞任したり、再選を拒否したりしないこと

②兼任及び兼職の禁止

③在任中及び退任後一定期間(通常は1年から3年程度)の競業避止義務

上記③の競業避止義務については、その期間及び競業の範囲が交渉上の論点となるケースが多いと言えます。

上記は、一般的に投資契約に定められることが多い、会社の運営に関する事項を解説したものであり、案件毎にこれと異なる規定が定められるケースももちろんあります。これらの事項については、投資家にとっての必要性と、ベンチャー企業側にとっての経営の自由度の確保とのバランスを考えて、合理的な形にすることが重要です。投資家側において、取れる権利は何度でも取るという姿勢ではなく、明確な必要性に基づき、その必要性を満たす範囲で、ベンチャー企業側の経営の自由度も尊重して、相互にフェアーな条件を検討していただければ幸いです。

執筆者によるコメント

執筆者

AZX Professionals Group
AZX総合法律事務所
弁護士 後藤 勝也

いかがでしたでしょうか。
ベンチャー企業側からすると、投資側から要求される規定を見ると、「うわー、なんかいろいろ縛ってきて厄介だな。。。」と思うかもしれません。しかし、投資家がなぜこのような規定を要求するのか理由が分かれば、それを受け入れるべきか否か、どの点を交渉するべきか分かってくるものと思います。
本稿が、ベンチャー企業側と投資家側の投資契約に関するフェアーな交渉の一助になれば幸いです。

 


投稿日:2015/11/20