大学発ベンチャーにおける法的注意点

投稿日:2016/03/25

Golden Metallic Cogwheels with New Technologies Concept.

 

HK画像こんにちは。弁護士(弁理士)の林です。

ここのところAZXブログでは、ジョン佐々木弁護士のシリコンバレー連載ブログの日本語版を担当していますが、オリジナル記事では久しぶりの投稿になります。

昨今、自動運転や機械学習が重要トピックになっていますが、私もだいぶ前からその動向に関心を寄せています。他方で、私生活ではマニュアル車で手足を駆使したoldな運転を楽しんでおり、自分の言動ギャップを感じる日々です(笑)。

そんな時代背景もあり、以前はバイオ分野等で注目を集めることの多かった大学発ベンチャーが、今後またIoT分野を含め多方面で重要になってくると思われます。今回は、産学双方の参考となるよう、大学発ベンチャーにおいて問題になりやすい基本的な法的論点をまとめてみることにしました。

この記事のおおまかな構成は以下のとおりです。

1 知的財産権の帰属関係

2 大学教員に対する規律

3 株式・新株予約権の付与の問題

大学発ベンチャーには、大学教員が自ら起業して役員となり事業化するもの、企業との共同研究の成果を企業が事業化するもの、教員等が企業に対して技術指導を行い事業化するものなどがありますが、いずれのケースでも上記の点は問題になり得ます。

 

1 知的財産権の帰属関係

(1) 大学における知的財産権帰属のルールへの注意

研究開発成果に関する知的財産権の帰属は、大学発ベンチャーにとっての最重要事項のひとつです。例えば大学と企業が共同研究開発契約を締結する場合、双方が知的財産権を共有する旨規定する例が多いです。大学教員と企業が顧問契約などの形で技術指導等の契約を締結する場合、技術成果の知的財産権は企業側に帰属する旨定めるケースもあると思います。

特許や著作権といった知的財産権は、実際にその創作に携わった当事者に権利が発生します。上記の顧問契約の例で、大学教員が技術成果の創作の大半を行った場合、理論的には、一旦大学教員側に知的財産権が発生し、その上で契約に基づいて企業側に権利が移転するということになります。このケースで、もし大学の内規上、このような教員の活動により生じた知的財産権が大学(教員個人でなく)に帰属するものと規定されていたら、どうなるでしょう。内規の内容等にもよりますが、権利が教員から大学と企業に二重に譲渡されたような形となり、企業は想定していた権利を取得できないリスクを負うことになります。

したがって、知的財産権の帰属に関する大学の内規を確認しておくことは重要です。一般的には、大学の研究活動に関して生じた知的財産権は大学に帰属するルールになっていることが多いため、企業が大学との間で共同研究開発契約を締結する場合は問題になりにくいですが、企業が大学教員個人と顧問契約などを締結する場合は注意が必要です。

 

(2) 共同研究開発契約における共有関係の規律

上記のとおり、共同研究開発契約では、成果に関する知的財産権を共有とする例が多いのですが、共有することを決めるだけで良いのでしょうか。

特許法第73条は、共有特許についての各共有者の権利について、①共有相手の同意なしに持分の譲渡や担保設定をしてはならない、②共有相手の同意なしに発明を実施(自己実施)できる、③共有相手の同意なしに専用実施権又は通常実施権を付与できない、という3つのルールを定めています。単に「共有」と規定するだけだと、これらのルールが適用されますが、それで不都合がないか、契約書で違うルールを定めておく必要がないかを検討すべきです。

典型的には、企業側として、第三者への実施許諾に③のような大学の同意を毎回とることは避けたいと考える場合があります。また大学側として、②のようなルールがあっても大学自身で商業的に活用する予定はなく、実際に収益を得るのは企業側であることから、企業側の実施収益に対して一定のロイヤリティーを請求したいと考える場合があります。

他にも、共有となる特許の出願の役割分担や費用負担、一方当事者が費用負担を継続できなくなった場合の取扱いなど、取り決めておくべき事項があります。共同研究開発契約は、大学側で標準的なモデルが用意されているケースが多く、上記のような事項まで配慮されているのが通常ですが、雛型を鵜呑みにせず、上記のようなポイントを理解しつつ契約書を検討することが両当事者にとって重要だと思います。

 

2 大学教員に対する規律

大学教員が企業とかかわる場合、教員としての職責との関係で、大学の内規による規律や国立大学職員に対する法令上の規制が問題となります。主なものは以下のとおりです。

(1) 兼業に関する内規

大学教員が個人として企業と技術指導等のために顧問契約などを締結する場合、その業務に従事することが兼業規程等の違反とならないかに注意が必要です。規制対象となる場合には、大学への報告や許可の取得など、各大学における内規に従った手続を行うことが必要です。

(2) 利益提供に関する内規

各大学は、倫理規程等の内規により利害関係者等から教職員が利益の提供を受けることについて一定の規制を設けています。例えば大学教員に対して会社の株式やストックオプションを付与しようとする場合、倫理規程等による規制対象とならないかを確認した方が良いと考えられます。

(3) 利益相反に関する内規

大学教職員が企業との関係で一定の義務や利益を有する場合に、それによって大学教職員としての職責違反が生じないよう、各大学は利益相反ポリシーなどの内規を定めています。一般に、教育研究等の大学教職員としての義務よりも自己又は第三者の利益を優先させる行為が利益相反行為とされ、共同研究開発により生じた権利などを不当に自己が関連している企業に帰属させたりすることは、利益相反行為に該当します。また利益相反のチェックのため、教職員に対して企業等にかかわる活動状況、企業の株式取得の状況などについて大学に対する報告義務を課しているケースが多いです。

(4) 国立大学の教員と賄賂罪

国立大学の法人化により、国立大学の役職員は「公務員」ではなくなりましたが、「みなし公務員」として刑法その他の罰則について公務員と同様に取り扱うものとされています(国立大学法人法第19条)。したがって、国立大学の教員も刑法の収賄罪の主体となり得ます。

国立大学の教員が、企業の依頼により研究活動に従事して個人として報酬を受領する場合、理論的には、刑法第197条第1項にいう「職務に関して(職務関連性)」「賄賂を収受(賄賂性)」の要件を満たしてしまうのではないかが問題となりますが、この点に関する一般的な考え方は以下のとおりです。

① 受託した研究活動の内容が国立大学の職務として研究中の課題の一部をなし又は密接な関係を有する場合や、国立大学の人的・物的施設を使用して行われる場合には、職務関連性は否定しづらい。

② 学問的に正当な内容・方法の調査・研究に対して、合理的な範囲の報酬を受領する場合には、不法な報酬と言えず賄賂性が否定される。

したがって、国立大学の教員が上記のような活動を行う場合、上記のような論点があることに留意して、大学側にきちんと情報を開示して、大学の規程や方針を遵守する形で適切な対応を行うよう注意すべきと思われます。

 

3 株式・新株予約権の付与の問題

企業が共同研究開発契約の相手方である大学や大学教員に対して、自社の株式や新株予約権を発行するケースがありますが、これにもいくつか注意点があります。

(1) 教員への付与と内規

大学教員個人に新株予約権などを付与する場合、既に述べた利益提供、利益相反などの内規の違反が生じないように、注意することが必要です。

(2) 国立大学における保有の制約

国立大学法人法により、国立大学は承認TLOの株式取得が認められていますが、それ以外の法人の株式等の取得の可否については直接規定されていません。この点については、文科省の通知(下記リンク先参照)があり、大要、①国立大学が寄付として株式・新株予約権を取得することは可能、②ライセンスの対価として取得することは現金で支払うことが困難なベンチャー企業等を対象とする場合は可能、③株式保有比率が過半数を占めないように留意すること、④取得した株式は換金可能な状態になり次第速やかに売却すべきこと、⑤議決権の行使などの共益権行使は原則として認められないことが通達されています。国立大学への株式等の付与について、このような制約があることを認識しておくことは重要です。

(文科省通知)

国立大学法人及び大学共同利用機関法人が寄附及びライセンス対価として株式を取得する場合の取扱いについて(通知)

国立大学法人等が寄附及びライセンス対価として新株予約権を取得する場合の取扱いについて(通知)

また上述のとおり、国立大学については新株予約権等の付与が賄賂罪に該当しないように注意が必要です。

(3) インサイダー取引規制への注意

大学や教員が上場企業の株式を保有する場合、インサイダー取引規制に注意する必要があります。上場企業の役職員、契約先など、上場企業と一定の関係にある者が、金融商品取引法に定められる当該企業の「重要事実」を知った場合、当該事実の公表前に株式を取引するとインサイダー取引として処罰対象となります。

典型的には、上場企業と共同研究開発契約を締結し、当該企業の株式を保有している大学が、共同研究の過程で当該企業の有力な新製品候補の重大な欠陥を知り、株価下落をおそれて市場で売却した場合や、逆に新製品の完成が間近である状況を認識し、株価が上昇する前に市場で株式を買い増した場合には、インサイダー取引が問題となります。上場企業の重要な事実を知り得る立場にある大学による株式の売買は、このような疑いを持たれないよう注意が必要であり、インサイダー取引規程等の内規の整備、それを遵守するための体制整備などが重要になります。

(4) 新株予約権の行使の問題

新株予約権を行使するためには行使価額を払い込むことが必要です。一般に大学は予算が厳しく管理されているため、予算の関係で、大学が取得した新株予約権を、発行会社が上場した際にタイミング良く権利行使できないことも考えられます。この点は大学側でも認識して予算確保などの対応をしておく必要があると考えられます。

 

執筆者によるコメント

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AZX Professionals Group
AZX総合法律事務所
弁護士 林 賢治

いかがでしたでしょうか?今回説明した内容は基本的なトピックですが、まとめて解説したものが見当たらなかったので、筆者なりに整理してみました。皆さんの頭の整理のお役に立てば幸いです。


投稿日:2016/03/25