「新法からビジネスを考える」のシリーズでは、新たなルールの動向を分析し、そこからどのようなビジネスチャンスが生まれ得るのかを実験的に考察しています。
今回は少し大きな目線で、日本のデジタル政策の中心でもあるデータ利活用制度の現在地点を確認し、スタートアップビジネスにとってどんなチャンスとハードルがあるのか検討してみます。
1.データ利活用制度の法制化
AIの性能が、モデルそのものだけでなく「どれだけ質の高いデータを使えるか」に左右される中、国が目指す「AI-フレンドリーな環境の整備[1]」の一環としても、国等が保有する質の高いデータを民間事業者が利活用しやすくすることは重要です。しかし、下の図で示されているように、現在、民間事業者におけるデータ利活用を包括的(分野横断的)に推進するための法制度が存在していません。

2025年2月20日 第九回デジタル行財政改革会議「デジタル行財政改革の進捗と更なる対応について」
そこで、今国会で審議されているデータ利活用制度等に関する法案[2]では、国等が保有するデータを民間事業者が利活用できるようにするための包括的な制度が新しく作られようとしています。もちろん、民間事業者が活用できるデータ整備を行政が行うこと自体は、今までも各領域で進められているのですが[3]、特定分野ごとの制度ではなく「データ活用全体を見据えた制度」として定める点に、今回の法改正の新しさがあります。
また、AI-フレンドリーなデータ活用というと、各方面で注目されている個人情報保護法改正(関連ブログ)と同じ方向性なのですが、個人情報保護法改正がAI時代にマッチしない既存の法制度を部分的に見直すものであるのに対し、データ利活用制度等に関する法案は、データ保護とのバランスをとりつつ積極的なデータ利活用を実現することを目指している点で、「データを守る法制度」から「データを使う法制度」への転換を象徴するものといえます。
新しいデータ利活用制度は、ざっくりまとめると以下のような制度で、事業計画の「認定」を受けなくてはいけない点が特徴です。
①民間事業者は、国等が保有するデータの利活用を行うために、国が策定する「指針」に沿った「事業計画」を作成して申請を行う。
②上記の「事業計画」について、データの安全管理基準への適合性等の観点で審査されて「認定」を受ける。
③上記の認定を受けた民間事業者(=「認定国等データ活用事業者」)は、事業計画を実施するために必要なデータの提供を国等から受けることができる。
④認定国等データ活用事業者は、事業計画の実施状況について報告義務を負う。
2.スタートアップに関係あるの?
データ利活用制度については、既に「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」(2025年6月17日閣議決定)(※改正法案に基づき策定される予定の「指針」とは別物です。)が策定されており、ここでは、医療、金融、教育、モビリティ、産業(サプライチェーン等)といった領域が個別的に注目されています。
これらの公共性の高い領域のスタートアップにとっては、国等が保有するデータを活用して事業を行うことができるようになるチャンスになりそうです(もっとも、現時点で対象領域が厳密に限定されているわけではありません。「データ利活用制度・システム検討会」の議論を見る限り、まずは公共性の高い領域から制度運用が始まる可能性が高そうです。)。
もっとも、1で制度を概観したとおり、新しいデータ利活用制度は、国や自治体が持っているデータを民間事業者が無制約に使えるようになるというものではありません。スタートアップ企業が制度を活用して事業を行おうと思った場合には、以下のような事項が現実的なハードルになりそうです。
①スタートアップが行おうとする事業が、国が策定する「指針」の内容とマッチしているか。
②スタートアップにおいて安全管理基準を満たすための措置を講じることができるか(認定を受けた後も措置を講じ続けること)
③事業計画を作成して、認定を受け、事業の実施計画を報告するといったオペレーションに耐えられるか
上記①~③のうち、①はどうしようもないですが、②と③は企業側の努力で乗り越えられるハードルのはずです(国が策定する「指針」やその運用によっては、スタートアップにとって乗り越えようのないハードルになってしまうかもしれませんが…)。データ利活用制度を利用できるだけの体制作りをすることがスタートアップにとって重要になる可能性があります。
また、データ利活用制度が実装されたとしても、行政側ができるのは、データを標準化し、連携可能な状態に整備するところまでです。どのデータを、どの業務フローに組み込み、どんなUI/UXで利用者に届けるのか、最後の設計部分は、民間事業者側に委ねられています。
国等が保有するデータを上手く利活用できるスタートアップと、それができないスタートアップとで、実現するサービスのクオリティやビジネスのサイズ感が全く異なるという時代が来るかもしれません。「どのAIを使うか」だけでなく、「どのデータにアクセスできるか」が、スタートアップの競争力を左右する時代が始まりつつあるのかもしれません。
【脚注】
[1]「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2025年6月13日閣議決定)参照
[2]「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律及び情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」(令和8年4月7日閣議決定)
[3] 例えば、防災DXの領域では、各機関からの災害関連情報を統合し共有できる「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)」の構築が進められていますし、医療DXの領域では、多様な医療情報を医療機関・薬局・自治体等が共有する「全国医療情報プラットフォーム」の構築が進められています。
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