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未収金に悩むスタートアップ経営者必見!「支払督促」で素早く・安く売掛金を回収する実践法

2026/09/17

筋肉系ワイン弁護士の小澤です。

売上金の回収は、スタートアップのキャッシュフローにおいて死活問題です。

「サービスを提供したのに代金が支払われない」「督促メールを送っても引き延ばされる」といった悩みを抱えていませんか?

内容証明郵便を送っても効果がなく、かといって通常裁判を起こすとコストや時間がかかりすぎてしまう——そんなときに強力な選択肢となるのが、簡易裁判所の「支払督促」という手続です(実際に簡易裁判所が扱う民事事件の約3割を支払督促が占めています。)。

今回は、支払督促の基本構造から、他の裁判手続との比較、具体的なステップ、スタートアップが知っておくべき実務上の注意点まで詳しく解説します。

1.支払督促とは?

支払督促とは、金銭などの支払いを求める債権者(自社)の申立てに基づき、簡易裁判所の裁判所書記官が相手方(債務者)に対して支払いを命じる制度です。

最大の特徴は、「裁判所に出頭する必要がなく、書面審査のみで完結する」という点です。相手方が異議を申し立てなければ、確定判決と同じ効力(債務名義)を得ることができます。

※債務名義取得後の財産開示手続についてはこちらのブログをご参照ください。

簡易裁判所における通常の民事訴訟と支払督促手続の対比は以下の通りです。

 

簡裁の民事通常訴訟

支払督促

対象となる紛争

民事紛争全般(給付、確認、形成)

金銭・代替物等の給付請求[1]

判断機関

受訴裁判所(裁判官)

簡易裁判所の裁判所書記官

管轄・申立先

土地管轄は地裁民事通常訴訟と同じ

債務者の普通裁判籍[2]、事務所・営業所の所在地、及び手形・小切手の支払地の簡易裁判所書記官

当事者の呼称

原告、被告

債権者、債務者

請求金額の制限

140万円以下

制限なし

手数料額(印紙代)

通常の訴え提起手数料

(民訴費用法3条1項別表第一の1)

訴え提起手数料の2分の1の額

(民訴費用法3条1項別表第一の10)

請求原因の記載

紛争の要点でも可

訴訟物の特定(+不服の有無の判断に必要な事項)

審理(審査)方法

口頭弁論及び証拠調べ

書面審査のみ(法廷出頭不要)

不服申立て方法

控訴

・督促異議(債務者)
・却下処分に対する異議申立(債権者)

単純執行文の要否[3]

必要

不要

2.スタートアップにとっての4大メリット

上記表の通り、スタートアップにとっては以下のメリットがあります。

①手続費用が格安
裁判所に納める申立手数料(収入印紙代)が、通常の裁判を起こす場合よりも低額となります。

②社内リソースを消費しない(裁判所に行く必要なし)
法廷での審理(口頭弁論)や証拠調べが行われないため、経営者や担当者が裁判所に足を運ぶ必要はありません。郵送やオンラインで手続を進められます。

③請求金額に上限がない
少額訴訟のような「60万円まで」といった上限がありません。数百万円〜数千万円規模の売掛金や受託開発費の回収にも利用可能です。

3.実務の流れ

支払督促は、以下の2段階のステップで進みます。

(1)支払督促の申立て

相手方(債務者)の本社所在地や住所地を管轄する簡易裁判所に申立書を提出します(オンライン申立も可)。申立書のフォーマットは裁判所ウェブサイトからダウンロードできます。

注意点
手形や小切手、売掛金などの「金銭債権」で、かつすでに支払期日が過ぎている(弁済期が到来している)ものに限られます。[4]「将来支払うべきお金」や「建物の立ち退き」などは対象外です。

(2)仮執行宣言の申立て

支払督促が相手方に届いてから2週間以内に相手から異議が出なかった場合、申立人は「2週間が経過した翌日から30日以内」に「仮執行宣言申立書」を提出しなければなりません。 この手続を行って初めて「強制執行ができる権利」(債務名義)が得られます。

30日の期限を1日でも過ぎると支払督促自体が失効してしまうため、スケジュール管理が極めて重要です。

支払督促手続の流れについては以下の通りです。

段階

主体

手続・処理内容

期限

1. 申立て

債権者

支払督促申立書を作成し、管轄の簡易裁判所書記官へ提出する[5]

2. 発付・送達

裁判所書記官

申立書を審査し、支払督促を発付する[6]

・債務者へ:支払督促正本を送達

・債権者へ:支払督促の発付通知

 

3. 異議の確認
(仮宣前)

債務者

支払督促正本の送達後、異議がある場合は督促異議を申し立てる[7]

※異議が出た場合は通常訴訟手続へ移行する。

送達日の翌日から2週間以内

4. 仮執行宣言の申立て

債権者

仮宣前に異議がなければ、仮執行宣言の申立てを行う[8]

※期日内に申し立てない場合、支払督促は失効する。

送達後2週間経過の翌日から30日以内

5. 仮宣の発付・送達

裁判所書記官

仮執行宣言を発付し、仮執行宣言付支払督促正本を債権者・債務者双方に送達する[9]

6. 異議の確認
(仮宣後)

債務者

仮執行宣言付支払督促の送達後、異議がある場合は督促異議を申し立てる[10]

※異議が出た場合は通常訴訟手続へ移行する。

送達日の翌日から2週間以内

7. 確定・強制執行

債権者

異議が出ないまま2週間が経過すると確定(確定判決と同一の効力)。

相手方の銀行口座や売掛金等に対して強制執行(差押え)が可能となる[11]

4.知っておくべき2つの限界とリスク

支払督促は非常に利便性の高い手続ですが、以下のケースでは利用できない、または逆効果になることがあります。

①相手方から「異議」が出ると自動的に通常裁判へ移行する

相手方が受領後2週間以内に「異議申立書」を1枚提出するだけで、支払督促は効力を失い、通常の民事訴訟へ移行します(上記表の通り、債務者が異議を述べる機会は仮執行宣言前と仮執行宣言後にて2回あります。)。

相手方が「納品物に不備があった」「金額が違う」と強く主張していることが分かっている場合は、最初から通常訴訟を起こす方が二度手間になりません。

 

②相手方の住所が不明な場合は利用できない

支払督促は、相手方に書類が直接手渡される(送達される)ことが要件となっています。住所不明の場合に使われる「公示送達」という手法は、最初の支払督促の段階では認められていません。相手方の最新の所在地(法人の登記事項証明書や住民票など)を把握している必要があります。

5.支払督促不送達時の対応

支払督促手続にとって実務上もっともボトルネックとなるのが、支払督促の申立を行ったにも拘らず、相手方に支払督促製正本が届かなかった(不送達となった)ケースです。

不送達の事由としては、主として「保管期間の経過」(送達場所に赴いたが全戸不在のために送達できず、事業所における保管期間の経過により返戻された場合)と、「あて所に尋ねあたらず」(送達名宛人が送達場所に居住していなかった場合)が挙げられます。

この場合、債権者及び裁判所書記官は送達不能事由に応じて以下の措置をとることになります。

(1)「保管期間経過」による不送達(不在で届かない場合)

①休日指定送達
実務上、まずは日曜・休日指定の特別送達を試みます。

②就業場所の調査依頼(債務者が個人の場合)
書記官が債権者に債務者の勤務先(就業場所)の調査を依頼します(任意に応じない場合は申立却下の対象)。

③就業場所送達(債務者が個人の場合)
勤務先が判明した場合は、就業場所へ送達を実施します(民訴法103条2項)。

④法人の代表者宛送達(債務者が法人の場合)
代表者の所在地に宛てて送達を実施します。

⑤付郵便送達
勤務先が不明、若しくは勤務先への送達も不奏功又は代表者の所在地への送達も不奏功の場合は、債権者の上申に基づき書留郵便に付する送達(付郵便送達:民訴法107条1項1号)を実施します(※1)。

かかる上申の際に、調査報告書の作成及び提出(※2)が求められます。

書留郵便に付する送達の場合、書留郵便の発送時点で送達の効力が生じます(民訴法107条3項)。

※1 実務上は、書留郵便に対する送達を実施する前に、裁判所から再送達、配達日指定(日曜・休日)の特別送達及び速達の特別送達の実施を要請されるケースも多いです。

※2 調査報告書の作成にあたり、送達場所(債務者の住所)に実際に赴き、居住の実態があるかを確認する必要があります。具体的には以下の方法が考えられます。
・ 電気メーター、水道メーター又はガスメーター等が稼働しているかの確認
・ 近隣住民への聞き取り調査又は管理会社への聞き取り調査

(2)「あて所に尋ねあたらず」による不送達(居住していない場合)

①送達不能の通知
書記官から債権者へ送達不能である旨が通知されます。

②2ヶ月以内の新住所届出
債権者は通知を受けた日から2か月以内(不変期間)に新たな送達場所を届け出なければなりません。

③手続の分岐

(ⅰ)2か月以内に届出がない場合

支払督促の申立てを取り下げたものとみなされます(取下擬制:民訴法388条3項)。

(ⅱ)新住所を届け出た場合

  • 管轄区域内(または管轄が維持される区域外の一定ケース):新住所宛てに再送達を実施します。
  • 管轄権が維持できない区域外:支払督促申立ての却下処分が行われます。

6.まとめ:自社に最適な回収ルートを見極めよう

未収金トラブルは、時間が経つほど相手方の資金が枯渇し、回収率が下がってしまいます。

また、支払督促は時効中断の効力(民訴法147条、民法147条1項2号)が生ずるため、時効が完成してしまいそうな売掛金がある場合には、時効の完成を阻止する目的で利用するという方法も考えられます。

相手方が「支払う約束はしているがダラダラ延期されている」「単に資金繰りを理由に無視している」という状況であれば、低コストかつスピーディに強制執行の権利を得られる「支払督促」は非常に有効な手段です。

 

AZX総合法律事務所では、支払督促によるべきか、通常訴訟がよいか、又は他の選択肢があるのかなど、最適な回収プランの提案、及び当該プランに則した手続のサポートを行っております。

判断に迷う場合は早い段階でぜひ我々にご相談ください!

注釈

[1] 民訴法382条。請求権の発生原因を問わず、契約に基づくものでも、不法行為、不当利得に基づくものでも可能です。

[2] 普通裁判籍は、債務者が自然人の場合は、債務者の住所・居所となり、法人の場合は、債務者の主たる事務所(本店所在地)となります。

[3] 執行文とは、債務名義(公正証書など)に強制執行をする力(執行力)が現に存在すること、及びその範囲を公的に証明する付記文言。単純執行文は、債務名義に記載されたとおりの執行力をそのまま認める基本的な執行文であり、条件成就執行文や承継執行文に当たらない場合は、単純執行文の付与となります。

[4] 民訴法135条

[5] 民訴法383条

[6] 民訴法386条1項、387条、388条1項、民訴規則233条、234条1項・2項

[7] 民訴法386条2項、390条、395条

[8] 民訴法391条1項、392条、規則235条

[9] 民訴法391条1項・2項、民訴規則234条1項、236条1項・2項

[10] 民訴法386条2項、393条、395条

[11] 民訴法396条、民事執行法22条4号


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執筆者
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弁護士 パートナー
小澤 雄輔
Ozawa, Yusuke
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