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生成AIで俳優・歌手・声優の顔や声を作るのはパブリシティ権侵害?法務省の解釈指針を解説

弁護士の平井です。

生成AIの技術の進化と社会実装は目覚ましく、誰もが簡単に画像や動画を作成し、さらには作曲もできるようになっています。私自身も、作成者側にはなってはいないのですが、最近では、生成AIにより作曲された曲(歌)をよく聞いていて、自分にハマる曲(歌)を見つけると何度もリピートして聞いています。

一方で、生成AIによる俳優・歌手・声優の肖像や声等の無断利用が問題視されている中で、このような事案については、裁判例もなく、権利侵害となる範囲が不明確であるとの指摘がありました。

このような背景から、2026年(令和8年)8月7日、法務省に設置されていた「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」(以下「本検討会」といいます。)は、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 -生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針-」(以下「本解釈指針」といいます。)を公表しました。

今回は、本解釈指針の内容を概観し、生成AIを利用した肖像や声等を生成することの実務上の留意点(侵害行為が認められる判断基準等)について解説いたします。

1.パブリシティ権

(1) パブリシティ権の保護の対象

最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁〔ピンク・レディー事件最高裁判決〕(以下「ピンク・レディー事件最高裁判決」といいます。)は、「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」と判示し、人の氏名、肖像等が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利をパブリシティ権として認めました(本解釈指針8頁)。

同判決の調査官解説では、「肖像等」には「サイン、署名、声、ペンネーム、芸名等」が含まれるとして、声がパブリシティ権の保護の対象となることが明示されており、本検討会においても同様の整理をしています(本解釈指針9頁)。

(2) パブリシティ権の侵害の判断基準

ア ピンク・レディー事件最高裁判決における判断基準

ピンク・レディー事件最高裁判決は、肖像等の無断使用がパブリシティ権侵害として不法行為法上違法となる場合とは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合であると判示しています。

「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」の具体的な類型としては、以下の3つの類型が挙げられており、かかる3つの類型のいずれにも該当しない場合でも「など」に当たるものとして、パブリシティ権侵害が認められる場合があるとしています(本解釈指針10~11頁)。

第1類型:肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

第2類型:商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

第3類型:肖像等を商品等の広告として使用する場合

「など」:上記3類型以外で、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合

イ 氏名・肖像のパブリシティ権侵害の判断基準の検討

(a) 氏名・肖像の顧客吸引力

本人が俳優、歌手、タレント等の知名度のある芸能人である場合には、その肖像等についても顧客吸引力を有すると考えられるところ、顧客吸引力は、肖像等それ自体が商品等の販売を促進するものであるか否かという点が重要であることから、特定の分野や一部の地域における顧客層に対して商品等の販売を促進する効力があると認められる場合にも、顧客吸引力が認められ得ると本検討会では整理されています。また、本検討会では、顧客吸引力は、利用者によって肖像等が商品等に付されたり商品等の広告に利用されたりするなど、商業的に利用された事実によって実質的に裏付けられる場合も多いとしています(本解釈指針11~13頁)。

(b) 本人の「氏名・肖像」の使用

パブリシティ権の侵害に当たるというためには、本人の肖像等が使用されたといえることが必要となります。そして、本人の肖像等が使用されたといえるためには、顧客において、その使用された肖像等が、本人の肖像等であると識別することができるものであることを要するとされています。

この点については、本解釈指針では、本人が掲載された写真や本人の氏名を使用することは、基本的に「肖像等」を使用したものといえると考えられるが、漫画やイラストなど、本人の肖像をデフォルメしたものであっても、本人と識別することができるものである限り「顔」としての使用はあるとする見解を挙げています。

生成AIで誰かの顔の画像などを生成した場合には、実際の本人のそれとは類似性があるに留まるものの、本人の肖像等との類似性の程度に加え、使用されるに当たって付加された本人の肖像等を想起させる情報等を総合的に考慮して、その使用された肖像等が、商品等の顧客において本人の肖像等であると識別することができるか否かにより、本人の「肖像等」を使用したものといえるか否かを判断することとなると考えられるとしています(本解釈指針13~14頁)。

(c) パブリシティ権侵害の典型例

氏名や肖像を本人に無断で使用した場合のパブリシティ権侵害の典型例は以下のとおりです。

【出典】『肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書-生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針-」[概要資料]』(法務省民事局)4頁

なお、生成AIを利用した肖像の無断利用におけるパブリシティ権侵害については、下記4.(1)4.(3)において、本解釈指針で挙げられている具体的な想定事例について記載しております。

ウ 声のパブリシティ権侵害の判断基準の検討

(a) 声の顧客吸引力

人の声も、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、特定のキャラクターを演じる声優の声自体に商品の販売等を促進する効力がある場合には、その声に顧客吸引力が認められるといえると考えられています(本解釈指針26頁)。

(b) 本人の「声」の使用

氏名や肖像の場合と同様に、声に関するパブリシティ権侵害に当たるというためには、本人の「声」が使用されたといえることが必要になります。

声に関しては、氏名や肖像よりも識別性が低い側面があるとされるものの、その判断枠組みについては氏名や肖像の場合と基本的には同様であり、本人と同一の声が使用された場合はもちろん、本人に類似する声が使用された場合も、声の類似性の程度に加え、使用されるに当たって付加された本人の声を想起させる情報等を総合的に考慮して、商品等の顧客において、その使用された声が、本人の声であると識別することができるものであるときは、本人の「声」を使用するものと認めることができると考えられています。

この点について、テレビや動画サイト等でよく見る、物まねや声まねについては、本人の肖像、声等を連想させるものではあるものの、通常は、物まねや声まねの芸をする者自身の氏名・芸名・肖像等の人物識別情報を明示して行われていることを理由として、ピンク・レディー事件最高裁判決の調査官解説では、物まね等に係る「肖像等」は、人物識別情報としては、芸をする者自身を示すものであり、本人の「肖像等」には当たらないとしています。物まねや声まねが人の目を引くのは、その芸の力ゆえであることを踏まえ、「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」との要件を欠くとの見解もあります。このような理由から、物まねや声まねはパブリシティ権侵害に該当しないものと解されていますが、本解釈指針では、芸をする者自身の氏名等を明示せずに顧客吸引力を有する本人の肖像、声等と類似するものを使用し、顧客によってそれが本人を示すものとして誤解されるような場合には、パブリシティ権侵害となる余地があるとしています(本解釈指針26~27頁)。

(c) パブリシティ権侵害の典型例

声を本人に無断で使用した場合のパブリシティ権侵害の典型例は以下のとおりです。

【出典】『肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 -生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針-」[概要資料]』(法務省民事局)5頁

なお、生成AIを利用した声の無断利用におけるパブリシティ権侵害については、下記4.(2) 4.(3)において、本解釈指針で挙げられている具体的な想定事例について記載しております。

(3) パブリシティ権侵害による損害賠償請求・差止請求

ア 損害の範囲

パブリシティ権侵害による損害賠償請求については、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことになるところ、その損害は、財産的損害、特に逸失利益が中心となります。

逸失利益に関しては、侵害行為によってパブリシティ権者が得られたはずの利益であるところ、その算定においては、使用料相当額を基礎に損害額が算定されている事案が多いです(本解釈指針30~36頁)。

イ 差止請求

ピンク・レディー事件最高裁判決の調査官解説は、侵害された者が侵害行為の差止めを求め得ることを当然の前提としたうえで、パブリシティ権侵害の差止請求が認められる要件も、同判決が示した侵害の要件と同一のものになるとしています。

そのうえで、本解釈指針では、ピンク・レディー事件最高裁判決以降に差止請求の可否が問題となった事案においては、「現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため」の差止めの必要性が要求されており、侵害者において現に無断利用を継続しているとか、パブリシティ権侵害を否定しているといった事情がある場合には、必要性が肯定される傾向にある一方で、既に侵害行為を停止しており将来侵害するおそれが乏しいといった事情がある場合には、必要性が否定される傾向にあると整理しています(本解釈指針37~39頁)。

ウ 請求の主体

パブリシティ権侵害があった場合における損害賠償請求や差止請求の請求主体は、原則として本人(肖像、声等の持ち主)であるのが原則となりますが、裁判例上では、利用許諾が独占的である場合には、一定の要件の下で、侵害者が独占的利用許諾契約に基づく独占的ライセンシーの利益を侵害しているものと構成し、債権侵害による不法行為責任の追及を認めているものがあります(本解釈指針40~42頁)。

2.肖像等をみだりに利用されない権利(肖像権)

(1) 肖像権の法的性質等

上記1.で記載したとおり、ピンク・レディー事件最高裁判決は、「人の肖像等は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される」として、排他的な権利としての肖像権を認めました。

同判決の調査官解説は、肖像権をパブリシティ権と比較したうえで、パブリシティ権を肖像等の商業的価値から生ずる財産的利益を保護する権利として位置付ける一方で、肖像権を肖像等の精神的価値から生ずる人格的利益を保護する権利として位置付けています。

なお、「肖像等」に声が含まれることについては、上記1.で記載したとおりですので、肖像権の一つとして、「声をみだりに利用されない権利」が認められると解されています(本解釈指針50~51頁)。

(2) 肖像権侵害の判断基準

最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁〔法廷内写真撮影事件〕(以下「法廷内写真撮影事件」といいます。)は、本人の容ぼう等を無断で写真撮影し、これを写真週刊誌の記事に掲載し、同週刊誌を発行したという事案において、「人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益〔みだりに自己の容ぼう等を撮影されない人格的利益〕の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」と判示しています。

本解釈指針では、肖像権の実質的な保護法益について、プライバシー、名誉感情、私生活の平穏等が考えられることから、それぞれの性質を踏まえて、上記の法廷内写真撮影事件の判断枠組みに則り、肖像権侵害の判断基準については、本人の社会的地位・活動内容、肖像利用の目的・態様・必要性等を総合考慮して、当該侵害が社会生活上受任の限度を超えるものといえるかどうかによって判断されると整理されています(本解釈指針51~54頁)。

また、声をみだりに利用されない権利の侵害の判断も、肖像権侵害の判断基準と異ならないと解されるとしています(本解釈指針55頁)。

なお、生成AIを利用した肖像・声の無断利用における肖像権侵害については、下記4.(3)において、本解釈指針で挙げられている具体的な想定事例について記載しております。

(3) 肖像権侵害による損害賠償請求・差止請求

ア 損害の範囲

肖像等をみだりに利用されない権利は、人格権に由来し、人格的利益として保護される権利であることから、その損害による損害賠償請求は、原則として、慰謝料の範囲で認められるものとされています(民法第710条(本解釈指針57頁))。

イ 差止請求

肖像権に基づく差止請求は判例においても認められているところ、差止請求が認められるための要件については、不法行為法上違法となる要件と同一であるとする見解や個別具体的事情を踏まえた利益衡量により差止請求の可否を判断すべきであるとの見解があります。

もっとも、少なくとも、インターネット上の電子掲示板やSNS上に投稿された情報については、書籍等全般の出版の差止めが行われる活字メディアの出版物の差止めと異なって部分的な削除も可能であり、削除による経済的な負担も少ないことから、裁判例でも、不法行為法上違法と認められる場合には、その削除が認められるとする傾向にあります(本解釈指針58~60頁)。

ウ 請求の主体

肖像権侵害があった場合における損害賠償請求や差止請求の請求主体は、肖像権が人格権に由来する権利であり、その譲渡性も否定されていることから、肖像権を有する本人(肖像、声等の持ち主)のみと解されています(本解釈指針61頁)。

3.不正競争防止法

本検討会は、パブリシティ権や肖像権を検討対象としており、不正競争防止法を直接の検討対象とはしていません。

本解釈指針では、本検討会が不正競争防止法を直接の検討対象とはしていないことを前提としつつも、パブリシティ権による保護と不正競争防止法による保護は、重なりあう場面があるとして、不正競争防止法上の周知表示混同惹起行為(同法第2条第1項第1号)、著名表示冒用行為(同項第2号)、誤認惹起行為(同項第20号)及び信用棄損行為(同項第21号)の成否について検討を行っています(本解釈指針68~78頁)。

4.肖像・声の無断利用に関する事例検討

本解釈指針では、生成AIによる肖像や声の無断利用について、具体的な事例を想定したうえで、パブリシティ権侵害や肖像権侵害等について検討を行っていますので、いくつかの事例を以下にて紹介します(本解釈指針82~135頁)。

(1) 映像作品への俳優の肖像の無断利用がされた事案

【出典】『肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 -生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針-」[概要資料]』(法務省民事局)9頁

(2) 配信音源への歌手・声優の声(キャラクターの声を含む。)の無断利用がされた事案

【出典】『肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 -生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針-」[概要資料]』(法務省民事局)10頁

(3) 収益目的のない肖像・声の無断利用がされた事案

【出典】『肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 -生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針-」[概要資料]』(法務省民事局)14頁

 5.まとめ

法務省の本検討会が公表した本解釈指針は、生成AIを活用して個人の肖像や声等を利用するビジネスを行う事業者にとって、その利用においてどのような民事責任を負うリスクがあるのかといった点や実務上の留意点について、羅針盤となり得るものであると考えます。

本解釈指針では、生成AIを活用した個人の肖像や声等の利用場面に応じた複数の想定事例を題材にして、利用者側の民事責任の判断要素等について具体的に検討されていますので、ご自身に関連しそうな想定事例の検討内容については是非一読してみてください。

当事務所では、生成AIを利用したサービスに関する契約書や利用規約のドラフトはもちろんのこと、具体的な利用場面を想定したうえでどのような設計にした方が法的な観点でリスクを低減できるのかといったアドバイスも行っておりますので、そのようなご相談がありましたら是非お問い合わせください。

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執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
平井 宏典
Hirai, Kosuke
そのほかの執筆者
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弁護士 マネージングパートナー CEO
後藤 勝也
Gotoh, Katsunari
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貝原 怜太
Kaihara, Ryota
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