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2026年から義務化!スタートアップが行うべき「カスハラ」対策

2026/04/13

AZXの横田です。

2026年10月施行予定の労働施策総合推進法の改正により、企業にはカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)対策が義務化されることとなり、この法改正に関連して厚生労働省から指針[1](以下「本指針」といいます。)も公表されました。

この法改正に伴い、企業は、カスハラにより従業員の就業環境が害されることのないよう、従業員からの相談に応じ、適切な対応をするために必要な体制の整備をする等の措置を講じることが義務化されました。

今回は、本指針に基づき、カスハラ対策のためにスタートアップが留意すべき事項や取り組むべき対応のポイントを、具体例も含め解説します[2]

なお、今回の法改正に合わせて求職者等に対するセクハラ対策の義務化も施行されますが、こちらは次の機会に解説予定です。

1.職場におけるカスハラに該当する場合とは?

(1)職場におけるカスハラの定義

本指針では、職場におけるカスハラを以下の3つの要素のすべて満たすものと定義されています。

顧客等の言動であって

②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、

③労働者の就業環境が害されるもの

 なお、職場におけるカスハラには、電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含まれるとされています。 

(2)「顧客等」の範囲は広い

カスハラ対策の対象となる「顧客等」には、既に取引のあるサービスのユーザーや商品購入者等に加え、本指針では、例えば、以下のような者も含まれるとされている点に注意が必要です。

①潜在的な顧客

②今後取引する可能性のある者

③企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者

④施設・サービスの利用者及びその家族

(3)「社会通念上許容される範囲」の判断基準は?

顧客等の言動が、社会通念に照らし、①当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は②手段や態様が相当でないものである場合には、「社会通念上許容される範囲」を超えたものと判断されます。

逆に、社会通念上許容される範囲で行われる苦情等については、正当な申入れであり、職場におけるカスハラには該当しないと考えられます。

本指針では、例えば、以下のようなものは「社会通念上許容される範囲」を超えるとされています。

【言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの】

①そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
 (例)性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること

②契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
 (例)契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること

③対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
 (例)契約金額の著しい減額の要求をすること

④不当な損害賠償要求
 (例)商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること

手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの】

①身体的な攻撃(暴行、傷害等)
 (例)物を投げつけること

②精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
 (例)SNS等へ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこ

③威圧的な言動
 (例)大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること

④継続的、執拗な言動
 (例)同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること

⑤拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
 (例)長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること

なお、この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当とされています。

(4)「労働者の就業環境が害される」とは?

「労働者の就業環境が害される」とは、顧客等の言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。

この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当とされています。

2.スタートアップが「必ず講ずべき措置(義務)」とは?

今回の法改正により、企業は、以下の10項目の措置を、必ず講じなければならないこととされました(スタートアップなどの中小事業者が免除されるなどの規定もありません。)。

以下の項目のうち、下線を引いたものについては他のハラスメントで講ずべき措置と異なる内容であるため、既に他のハラスメントの対策をされている企業においても特に注意が必要です。

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

①カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する

(例)
社内のホームページや資料等に、職場におけるカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を記載し、配布等する(従業員がいつでも見られる形式で共有する等)。

②カスハラの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を、労働者に周知する

(例)
・管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ
・可能な限り労働者を一人で対応させない
・犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
・本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ など

(2)相談体制の整備

③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する

(例)
・相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
・相談に対応するための制度を設けること
・外部の機関に相談への対応を委託すること

④相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする

(例)
・相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と関係部門とが連携を図ることができる仕組みとすること
・相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること
・相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと

(3)事後の迅速かつ適切な対応

➄事実関係を迅速かつ正確に確認する

(例)
・相談者からの事実確認(心身の状況等にも配慮して行う)
・必要に応じて、周囲の労働者からの事実関係を聴取
・客観的な証拠(録音・録画等)の確認
・(必要かつ可能な場合には)行為者からの事実関係の聴取

※ 個人情報保護法等の法令を遵守して行う必要がある点に注意。

⑥被害者に対する配慮のための措置を適正に行う

(例)
・管理監督者等が被害者に代わって対応すること
・被害者と行為者を引き離すこと等の措置を講ずること
・行為者に対応する担当者の変更又は複数人で対応すること
・管理監督者等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること

※ 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報することや、法的な手続が必要な場合には法務部門等と連携し、弁護士へ相談することも考えられる。

⑦再発防止に向けた措置を講ずる

(例)
・改めて上記①の周知・啓発を行うこと
・カスハラの発生を契機として、カスハラの原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などが把握された場合には、その問題等そのものの改善を図ること
・労働者に対してカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針及びカスハラへの対処の内容を周知・啓発するための研修、講習等を改めて実施すること

(4)対応の実効性を確保するために必要なカスハラの抑止のための措置

⑧特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する

例えば、以下のような対処方針を定め、周知し、当該対処を講ずることができるよう関係部門間の連携等の体制を整備することがあり得る。

(例)
・暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。
・行為者に対して警告文を発出すること。
・法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしないこと。
・行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること。

(5)そのほか併せて講ずべき措置

⑨相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する

(例)
相談者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること 等

⑩相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

(例)
就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、カスハラの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること 等

3.まとめ

以上のように、今回の法改正により、企業にはカスハラに関して一定の措置を講じることが義務付けられました。
カスハラへの対策は、上記の法改正への対応をするということにとどまらず、顧客等からのハラスメントにより従業員に身体的・精神的な苦痛が生じ、パフォーマンスが低下してしまうことを防ぐためにも必要と考えます。

2026年10月の施行に向けて、就業規則やハラスメント防止規程等の修正、ポリシーやマニュアル等の作成、通報窓口の設置、具体的な対応方法のご相談等、お力になれることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

【脚注】

[1] 厚生労働省『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)』

[2] そのほか、自社の従業員が行ったカスハラについて他の事業者から事実関係の確認等を求められた場合に協力する努力義務、その他のカスハラを防止するための望ましい取組も定められています。概要はこちらの厚生労働省のリーフレットを、詳細は本指針をご参照ください。

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執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
横田 隼
Yokota, Hayato
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Sugawara, Minoru
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