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民事訴訟のデジタル化が本格始動!スタートアップが知るべき改正の全容

筋トレ系ワイン弁護士の小澤です。

私がかつて執筆した少額訴訟の記事が大変ご好評頂いているようで光栄です。

今回も訴訟関連の記事となりますが、日本の民事司法が、これまでにないスピードで変貌を遂げようとしています。

令和4年に成立した改正民事訴訟法により、裁判手続きの「デジタル化」が段階的に施行されてきましたが、令和8年(2026年)5月21日に民事訴訟手続の全面デジタル化が始まります。

スタートアップの経営者や法務担当者にとって、裁判は「時間とコストを奪われるもの」でしたが、この改革によってそのハードルは大きく下がります。

今回の改正で影響を受けるのは主に弁護士となりますが、スタートアップの経営者及び法務担当者に向けて、実務上のポイントを解説します。

1.今回の改正で変化する内容

今回の改正は、①電子申立て・電子納付、②電磁的記録の閲覧・複写及び③ウェブ会議の活用(ウェブ尋問)となります。

以下それぞれの概要を説明します。

(1)電子申立て・電子納付

従前は、訴状や準備書面、証拠書類などは、書面で作成し、記名押印の上、裁判所に持参するか郵送する必要がありました。また、手数料は印紙で納付し、郵送費用は郵便切手で納付する必要がありました。

今後は専用のシステムを通じて、24時間オンラインで提出が可能になります。押印は不要です(民事訴訟法第109条の2) (民事訴訟規則47条の2)。
また印紙代の電子納付も可能となります。

※弁護士に委任しない場合は、従前通り書面による申立も可能です。これは簡易裁判所にて裁判所から許可を得た上で従業者等に委任する場合(民事訴訟法第54条1項本文)も含みます。

※以下の者は電子申立て等が義務付けられております(民事訴訟法第132条の11第1項)。
①委任を受けた訴訟代理人
②国の指定代理人
③地方公共団体の訴訟についてその長から委任を受けた職員

■住所、氏名等の秘匿制度

電子申立ての他に地味に改正された点になりますが、改正法により、当事者に対する住所、氏名等の秘匿制度が創設されました。
これにより、申立人が秘匿決定の申立を行い、裁判所が認めることにより、以下の効果が生じることになります。

①代替事項の記載(代替氏名A、代替住所Aなど)

②秘匿事項届出部分について、訴訟記録等の閲覧等の制限

③(更に申立をした場合)秘匿事項記載部分(秘匿事項届出部分を推知できる事項)の訴訟記録等の閲覧等の制限

なお、秘匿決定の要件は秘匿対象者の住所等又は氏名等が他の当事者に知られることにより、秘匿対象者が社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがあること(民事訴訟法第133条第1項)になります。

■電子記録の送達

電子申立てに伴い、従前の書面を郵便により送達する方法(出力書面の送達(法109条)のほか、電子記録のシステム送達による方法をとることが可能となりました。

システム送達とは、裁判所書記官が、裁判所システム上で必要な操作を行って、受送達者が一定の操作をすることにより閲覧・ダウンロードをすることができる設定を行った上で、受送達者の届出電子メールアドレスに充てて電子メールを送信する方法をいいます(民事訴訟法109条の2第3項、規則45条の2)。

但し、システム送達が受送達者がシステム送達を受ける旨の届出をしている場合に限り、行うことができるため(民事訴訟法109条の2第1項但書)、基本的には届出を行っていない企業が大多数と考えられるため、従前と変わらず郵便等により送達がなされることになります。但し、電子申立て等が義務付けられている者(委任を受けた弁護士)は電子記録のシステム送達が用いられます。

<実務のメリット>

郵送の手間や「消印有効」を気にする必要がなくなり、提出ギリギリまで書面のブラッシュアップが可能になります。またオンライン納付により、収入印紙や切手を用意する手間が省けることになります。

(2)電磁的記録の閲覧・複写(ダウンロード)

上記の電子申立に伴い、訴訟の記録(提出された書面や証拠など)が電子データとして保管され、当事者はインターネットを通じていつでもどこでも閲覧・ダウンロードが可能になります。

但し、書面等や電子媒体に記録・記載された営業秘密のうち一定の要件を満たすものついては電子的記録の対象外となります(民事訴訟法第132条の12第1項第1号、同法第132の13第1項第1号)。

「営業秘密」の意義は、不正競争防止法第2条第6項に規定される意味であり、本制度の利用にあたっては以下の要件を満たす必要があります。

①当該書面等又は当該記録媒体について、当該書面等に係る申立て又はこれらの提出とともに、営業秘密を理由とする第三者による閲覧等の制限の申立てがされたこと

②当該書面等又は当該記録媒体に記載・記録された営業秘密がその訴訟の追行の目的以外の目的で利用され、又は当該営業秘密が開示されることにより、当該営業秘密に基づく当事者の事業活動に支障を生ずるおそれがあること

③上記②が生ずることを防止するため裁判所が特に必要があると認めること

<実務のメリット>

過去の記録を確認するために裁判所へ行く必要がなくなり、弁護士と社内法務、経営層での情報共有が飛躍的にスムーズになります。

(3)ウェブ会議の活用 (ウェブ証人尋問)

すでに先行して実施されていますが、口頭弁論などの期日にウェブ会議(Microsoft Teams)で参加できるようになります(民事訴訟法第87条の2第1項)。

裁判所から事前に送信される会議IDとパスコードにより、口頭弁論等の期日の当日にウェブ会議に参加することになります。

但し、口頭弁論がウェブ会議に付された場合、電話会議により口頭弁論を実施することはできないとされており、例えばウェブ会議等による口頭弁論を行おうとしたものの、回線障害等の理由でウェブ会議等をすることができなかった場合には、電話会議の方法に切り替えることはできないことになります。[1]

加えて、一定の要件を満たす場合、ウェブ会議の方法による証人尋問が可能となります(旧法でも認められていましたが、新法ではその要件が変更され、より広範な利用が可能となりました。)。

一定の要件とは(i)以下①から③の要件のいずれかを満たした上で、(ii)相当と認めるときとなります(民事訴訟法204条、民事訴訟法施行規則123条)。
新法では(i)について、下記③の要件が追加となりました。

①証人が遠隔地に居住している場合(1号)

②証人が当事者等から 圧迫を受ける場合(2号)

③当事者に異議がない場合(3号)

(ii)相当と認めるときの要件は、裁判所が証人の供述内容のみならず供述態度も見て証言の信用性を慎重に判断した場合などは当該要件を満たさないと判断することが考えられ、一方で、一定程度中立性が認められる専門家承認など、虚偽陳述をする動機が乏しく供述内容のみから証言の信用性を判断することができる証人の場合に、当該要件を満たすと判断することが考えられます。[2]

実務のメリット>

地方の裁判所での争いであっても、自社の会議室から出廷が可能です。出張費の削減はもちろん、経営者や担当者の拘束時間が最小限に抑えられます。また契約書で規定される裁判管轄の点についてもウェブ会議による尋問まで実施できるとすれば、旧法下よりは一段重要性が落ちると考えられます。

2.法務担当者が準備しておくべき実務対応

令和8年5月21日の民事訴訟法のIT化の全面施行に向け、以下の準備を意識しておくことをお勧めします。

①専用システムのアカウント登録

手続きを自社で、あるいは弁護士と連携して行う場合、裁判所のシステムにアカウント登録が必要となります 。氏名や住所、メールアドレスなどの登録によって付与されるIDは、その後のすべての訴訟で利用可能です 。

②電子証拠の管理体制

証拠提出がPDF等の電子データ主体となるため、日頃からチャットツールやメール、押印済み契約書を電子の形で保存する等、証拠として使いやすい形でアーカイブしておく重要性が高まります 。

③弁護士との連携フロー再構築

弁護士にはオンライン提出が「義務化」されます 。共有フォルダでの書類管理等、デジタル前提のコミュニケーションラインを構築しておいた方がよいと考えられます。

3.最後に

今回のIT化は、スタートアップにとって「司法へのアクセス」を容易にする追い風です。スピード感を重視する経営判断において、法的な紛争解決もデジタル前提で効率化されることはメリットが大きいと考えられます。

AZXでは、これら最新の法改正を踏まえた法務サポートを行っております。裁判手続きやデジタル法務に関するご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

【脚注】

[1] 圓道至剛ほか「企業法務のための民事訴訟の実務解説」(第4版、244頁)

[2] 前掲「企業法務のための民事訴訟の実務解説」(第4版、441頁)

※本記事の内容は、令和8年5月21日に全面施行される改正民事訴訟法の概要に基づいています 。施行前に提起された事件などは、引き続き紙ベースでの運用となる点にご注意ください 。

 


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執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
小澤 雄輔
Ozawa, Yusuke
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小林 貴志
Kobayashi, Takashi
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