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投資契約(3) 表明保証条項

2015/03/13

GK

AZX弁護士後藤です。

一年ほど前からなぜか我が家にチワワのトラチ(本名:虎之介)がいます。

「なぜか」というのは、家に帰ったら、突然、家にいたからです。

トラチ1

妻が何の事前相談もなく連れてきて、我が家の一員になったのですが、私が食事中に家族の目を盗んでいろいろあげるので、私に一番なついているようです。

チワワのくせにちょっと大きめで、公園で会ったご近所のマメ柴(スミレちゃん)より大きかったのはショックでした。

ところで、投資契約の解説の第3回目として、今回は表明保証条項について説明したいと思います。

 1. 表明保証条項の意味と機能

表明保証条項とは、例えば、①発行会社は、投資家に提出した財務諸表が公正な会計基準で作成され、財務諸表に記載されていない隠れた債務は存在しないことを表明し保証する、②発行会社に対して提起されている訴訟は存在しないことを表明し保証するなど、会社及び経営者が会社に関する一定の事項を投資家に対して表明し、保証する条項です。

VC等の投資家は、投資を行う前に一定程度の調査(通常デュー・ディリジェンス(DD)と呼びます。)を行いますが、それはあくまでも会社が任意で提出した資料や情報に基づくものであり、また時間及び費用の観点からどうしても限界があります。

会社の設立段階から起業家と親しく付き合ってきた投資家であれば、ある程度会社の状況を把握できていることもあるかもしれませんが、資金調達ラウンドで急に声をかけれた投資家にとっては、上記の調査だけですべてを把握するのは難しく、投資契約において、重要な事項について保証してもらうことはとても重要なことです。

そのため、投資契約においては、このような表明保証条項が規定されているのが一般的です。

投資家にとってのこの表明保証条項の主要な機能としては以下の点があげられます。

 ①ペナルティー発動機能

表明保証の内容が真実ではない場合に、損害賠償請求をしたり、株式の買取請求を行って投資の撤退を図る機能です。

なお、法律論的に少し細かいことを説明すると、表明保証された内容が真実と異なっていた場合、表明保証違反として「契約違反=債務不履行」となるかという論点があります。そもそも表明保証とは、会社の状況を説明するものであり、この規定に基づいて会社が何かの行為をなすべき「債務」を負っているものではありません。

従って、表明保証違反というのは、債務不履行ではなく、「詐欺」又は「錯誤」の一種と考えられ、民法上の債務不履行に基づく損害賠償請求が難しく、不法行為に基づく損害賠償請求の対象になるだけではないかという議論が成り立つ可能性があります。そのため、表明保証違反があった場合の効果について、契約において明確に定めておかないと、責任の追及が難しくなる可能性があるため、投資家にとっては、表明保証違反の場合の損害賠償請求や株式買取請求を投資契約で明記しておくことが重要です。

 ②DD補完機能

投資契約において、表明保証条項を規定し、会社の経営陣に対して、「この条項と異なる事情はないですね。」と確認していくと、例えば、「実は元従業員から未払い残業代の請求がきているので、財務諸表に記載されていない隠れた債務に該当するかもしれません。」「商標権侵害の警告が過去に来ていたことがあります。」などの回答を受け、表明保証の内容に抵触する事実の存在が判明することがよくあります。

本来は、DDにおいてこれらの事項の存在を調査しておくのが基本なのですが、ベンチャー投資の場合、時間と費用の観点から十分なDDを行えないケースも多く、この表明保証条項の確認によって、実質的にDDを補完することが可能な面があります。

従って、投資家にとっては、表明保証条項については、特に起業家によく確認し(起業家と一緒に読み合わせを行うぐらいの方がよいと思います。)、異なる事実がないか確認するのが賢明といえます。

この表明保証条項に後で違反が見つかった場合、上記①のペナルティー発動機能があるとしても、そもそもそのような事態になっていること自体、投資の失敗といえます。

そのような違反の事実が投資前に分かっていたなら投資をしなかったということであれば、調査不足として、VCの場合はファンドの投資家に対する善管注意義務の問題が生じる可能性もあります。

契約書を提示した側からすると、いろいろ細かくチェックされて交渉されるより、あまり内容を深く考えずに、サインしてくれた方がよいと考えてしまいがちですが、表明保証条項の場合、起業家がこの内容を確認せず、目くらで投資契約にサインをして、後で隠れた債務があったり、知的財産権が確保できていなかったという事態が判明して、表明保証違反が生じると、投資家としても大きな損失を被ることになります。

従って、投資契約における表明保証条項は、①ペナルティー発動機能よりも、②DD補完機能を重視して、投資家と企業家双方で内容を良く確認することをお勧めします。

 2. 起業家にとっての留意点

投資契約の表明保証条項について、起業家にとっての留意点としては、当然のことながら、「表明保証条項の内容を漏らさずよく確認すべき!!」ということになります。

起業家サイドでは、「なにやらいろいろ書いてあって面倒くさいな。。。ま、いいか。」と思ってサインしてしまうケースもあるようですが、これは厳禁です。

表明保証条項というのは、会社の事業がうまく行っているときは表面化しないケースがほとんどですが、会社の事業が想定通りに進まず、VC等の投資家が、投資の撤退を考え始めて回収フェーズに入った場合は、「何か回収のネタがないかな。そうだ、投資契約の表明保証条項に違反していた事項があったよね。これだ!」ということで、厳しい回収攻撃にあってしまうケースもあります。

従って、あまり自分にとってなじみのない契約文言であっても手を抜かず、きちんと確認することは重要です。

 3. 例外事項への対応方法

表明保証条項の確認は、会社の現状と合致しているかを確認するということになりますが、確認の結果は以下の3つに分かれるのが通常です。

①正しい

②異なる事実がある(例、実は商標権が他社にとられている)

③自分では分からない(例、「訴訟を提起されるおそれがない」か否かは、相手次第なので自分では分からない。)

①はそのままでよいですが、②、③は手当が必要です。

「②異なる事実がある」ケースは、投資家にこのような事実がある旨を告げて、投資契約の表明保証条項に例外として明記してもらう必要があります。

例えば、上記の例では、「会社はその事業活動に必要な全ての知的財産権を保有している。但し、○○の商標については商標権を取得していない。」と記載することになります。

事実として商標権を取得していない以上、このような但書を記載せざるを得ず、投資家としては、このような但書がついても投資可能かどうかを判断することになります。

なお、この場合、起業家側から「商標の問題があるので、この条項は削除してください。」と修正要請が出る場合がありますが、条項全体を削除してしまうと、当該商標の問題以外の点の表明保証まで消えてなくなってしまうため、投資家としては、条項全体を削除してはいけません。あくまでも但書で例外事項を明記するのが正しい対応方法と言えます。

 4. 「知る限り」と「知り得る限り」

次に「③自分では分からない」ケースは、「○○のおそれがない」という形の規定や、自分以外の取引先、関連会社、株主、役職員の状況に関する規定などでよく生じることがあります。例えば、第三者から著作権侵害等を主張される「おそれがない」がないかといわれると、言いがかりもあるかもしれないから、保証は難しいというケースや、取引先が反社会的勢力ではないことを保証しろといわれても、自分としては反社会的勢力ではないと思っているから付き合っているが、調査会社を使って調べたものではないので、「保証」といわれると厳しいなどというケースです。

このような場合は「発行会社の知る限り」などの文言を追加して、自ら把握している範囲では正しいことを保証するという形に修正するのが一般的です。

例えば、「発行会社の知る限り、○○のおそれがない。」などとします。

このような形にすれば、自分が知らなかったことについては免責されることになります。

表明保証条項の中には、このような「知る限り」を挿入するべき事項も数多くあるので慎重にチェックしましょう。

これに関して、投資家側から「知る得る限り」に修正するよう求められるケースもあります。

これは、会社側として「知り得た=合理的に調査すれば分かった」事項については保証してくださいというものです。

ざっくりいうと、「知る限り」では、知らなければ免責されるのに対して、「知り得る限り」では、知らなかったとしても、知らなかったことについて調査不足などの落ち度があった場合には免責されないということになります。

この点、どの程度の調査をするべきかは、対象事項の重要性や調査に要する一般的な費用や時間などを考慮して、発行会社の当時の具体的な状況に即してケースバイケースで判断されざるを得ないので、多少曖昧な概念といわざるを得ない面があります。

しかし、妥協点としては、「知り得る限り」で妥結せざるを得ないケースも多いのが実情です。

投資家か起業家の双方が上記の意味の違いを理解して、合理的に交渉を進めることが望まれます。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 マネージングパートナー CEO
後藤 勝也
Gotoh, Katsunari

いかがでしたか。
表明保証条項は、その文面だけ読むと、なにやら当然保証するべき事項がずらずら並べられているように見えますが、投資家にとっては、契約書のドラフトとして単に提示するだけでなく、DDの補完としてとても重要であり、起業家にとっても本当に保証して問題ないか慎重にチェックする必要があります。
表明保証条項を両者で慎重に確認して、相互に誤解がない形で投資が実行され、企業の発展につながれば幸いです。

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