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インバウンド(訪日外国人客)ビジネスに関する法律の改正動向まとめ(後編)

弁護士の石田です。

前回、濱本弁護士が、「インバウンド(訪日外国人客)ビジネスに関する法律の改正動向まとめ」の前編として、民泊関係、IR(総合型リゾート)法について解説しました。今回は、後編として、旅行業法、通訳案内士法の改正[1]について解説します。

私は生まれも育ちも奈良県なので、奈良を訪れる外国人観光客が増加し、世界文化遺産の東大寺・法隆寺、国の名勝である奈良公園等の奈良の良さをより多くの方に知ってもらうのは喜ばしいことです。ただ、残念なことに、奈良県のホテルの客室数は47都道府県中ワースト2位ということもあり(厚生労働省「平成27年度衛生行政報告例」)、奈良の来訪者は奈良では宿泊せず、大阪や京都で宿泊することが多いようです。このような状況を受けて、奈良県では良質なホテルの誘致が進められており、現にマリオットホテルが2020年に開業すると言われています。宿泊者数が増加し、滞在時間が増すことで、奈良の魅力を知ってもらう機会が増えることを期待しています。

 1.法改正の動向について

旅行業法、通訳案内士法等の旅行業法制については、2016年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた「観光関係の規制・制度の総合的な見直し」の検討のため、学識経験者等からなる「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」が2016年10月に設置されました。

上記検討会での検討を経て[2]、2017年3月10日には、「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、本年の通常国会(第193回国会)に提出されました。改正の概要は以下のとおりです。

 2.旅行業法

(1)地域の観光資源・魅力を生かした旅行商品の企画・販売促進の観点からの改正

旅行業法では、旅行業、旅行業者代理業を行うには、登録を受けなければならないとされています。以前は、旅行業は、以下のとおり、第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業の3種類の区分のみが存在していました。

 旅行業の区分 取扱可能な旅行業務の範囲
 第1種旅行業 すべての旅行業務を行うことができる
 第2種旅行業 海外の企画旅行[3]のうち参加する旅行者の募集をすることにより実施するもの以外の旅行業務を行うことができる
 第3種旅行業 原則として[4]、企画旅行のうち参加する旅行者の募集をすることにより実施するもの以外の旅行業務を行うことができる

地域独自の魅力を生かした体験型・交流型観光のニーズの高まりを受けて、平成25年4月1日には、新たに地域限定旅行業の登録区分[5]を創設しました(なお、この旅行形態は、旅行者を受け入れる地域(着地)側が発案し提供することから、「着地型旅行」と言われているため、本ブログでも以下「着地型旅行」といいます。)。この地域限定旅行業は取り扱える旅行業務の範囲が営業所のある区域と隣接する区域に限定されており、既存の第1種から第3種の旅行業より取扱範囲は狭くなりますが、その代わり、保有資産額に関する登録要件や営業保証金の供託義務が緩和されています。このように地域限定旅行業の登録要件や供託義務を緩和することで、旅行業への参入を容易にし、着地型旅行のニーズに応えられる旅行業者を増やすことが企図されました。

しかし、地域限定旅行業の創設後も、地域限定旅行業の普及は十分に進みませんでした[6]。地域限定旅行業を含め旅行業を行う者(以下「旅行業者」といいます。)は、取り扱う旅行業務の範囲にかかわらず、営業所毎に、総合旅行業務取扱管理者試験の合格者を最低1名管理者として選任する必要があり、かかる規制が負担となっていたことが上記の原因の一つであったと考えられます。

このような状況を踏まえ、地域限定旅行業の普及を通して、着地型旅行へのニーズに対応できるよう、以下の改正が検討されています。

①  旅行業務取扱管理者の資格要件の緩和(⇒地域限定旅行業務取扱管理者の創設)

改正前 営業所毎に選任が必要な旅行業務取扱管理者としては、総合旅行業務取扱管理者試験か、国内旅行業務取扱管理者試験の合格者である必要がある
改正後 特定地域の旅行商品のみを取り扱う営業所については、総合旅行業務取扱管理者試験、国内旅行業務取扱管理者試験の合格者だけでなく、特定地域の旅行商品の提供に必要な知識のみを問う、地域限定旅行業務取扱管理者試験の合格者でもよい

②  旅行業務取扱管理者の選任基準の緩和

改正前 旅行業者又は旅行業者代理業者は、営業所毎に1人以上の旅行業務取扱管理者を選任しなければならない
改正後 複数の営業所が近接している場合には、複数の営業所を通じて1人の旅行業務取扱管理者を選任すれば足りる

上記①、②の改正により、旅行業務取扱管理者の選任義務の負担が軽減されるため、地域限定旅行業として旅行ビジネスに参入することがこれまでよりも容易になると考えられます。

(2)旅行サービス手配業者の業務の適正化の観点からの改正

ランドオペレーターとは、旅行業者と交通、宿泊等のサービス提供機関との間で、ホテル、バス、レストラン、ガイド等の地上のサービスの手配を行う業者のことであり、地上手配業者とも呼ばれています。ランドオペレーターは、旅行業者が旅行者と宿泊等のサービス提供機関との間の契約を締結する点で、旅行業者又は旅行業者代理業者の行う旅行業務と同様の行為を行いますが、ランドオペレータ―は、旅行者ではなく、旅行業者の依頼を受けて手配を行う点で、旅行業者又は旅行業者代理業者の行う旅行業務とは異なるため、現行の旅行業法の規制は及びません。

現在、ランドオペレーターは864社が確認され、旅行業者の 35.4%、交通、宿泊等のサービス提供機関の 13.9%がランドオペレーターを利用しており(平成28年10月観光庁 観光資源課 「ランドオペレーターに関する調査業務報告書」)、旅行業界で重要な役割を果たしているにもかかわらず、これまで法律の規制がなかったこともあり、直前でのキャンセル・変更などのトラブルも生じていたようです(「「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」 中間とりまとめ」6頁)。

このような状況に鑑みて、以下のように、ランドオペレーターに対して「旅行サービス手配業」としての登録義務を課すこと等を内容とする改正が予定されています。

改正前 旅行サービス手配業[7]について、特段法規制はない
改正後 旅行サービス手配業を行う者は、観光庁長官の登録を受けなければならない
営業所毎に旅行サービス手配業務取扱管理者を選任しなければならない
原則として[8]、旅行サービス手配業に関して契約を締結する際に、相手方に書面を交付しなければならない

このように、今回の改正によって、これまで規制対象ではなかったランドオペレーターにつき、新たに登録義務等が課されることになりました。したがって、改正後は、これまでランドオペレーターをしてきた方、又はランドオペレーターを始める方は、旅行業法に従った登録手続が必要となる点に注意する必要があります。

2.通訳案内士法

現状、通訳案内(「外国人に付き添い、外国語を用いて、旅行に関する案内をすること」(通訳案内士法第2条)を意味します)を行うには、通訳案内士という資格を取得し、登録する必要があり、かかる資格制度の内容が通訳案内士法という法律で定められています。この通訳案内士法は、かなり古い法律であり、これまであまり注目されなかった法律ですが、最近のインバウンドビジネスの盛り上がりの中で、この法律が障害となる事態も生じてきたため、今回法改正されることになり、注目を集めるようになりました。

訪日外国旅行客の増加し、通訳案内のニーズが高まってきたことを背景に、このようなニーズにより応えられるようにするため、通訳案内士を含め通訳案内を行う者の量の確保という観点から、以下の改正が検討されています。

①  業務独占から名称独占へ

改正前 <業務独占>
通訳案内士以外の者は、報酬を得て、通訳案内を行うことを業として行うことができない
改正後 <名称独占>
通訳案内士でない者が通訳案内士という名称及び類似名称を用いてはならない(=通訳案内の業務を行うこと自体は禁止されていない)

②  地域通訳案内士の創設

改正前 通訳案内士法では、全国対応を前提とした通訳案内士のみ認められている
地域限定の通訳ガイドとしては、特別法で、地域限定通訳案内士、特例通訳案内士[9]が認められている
改正後 地域通訳案内士の資格制度を創設し、既存の地域限定通訳案内士、特例通訳案内士を一本化する
地域通訳案内士の創設に伴い、これと区別するため、これまでの全国対応を前提とした通訳案内しは「全国通訳案内士」という名称に変更される

今回の改正のうち、とりわけ①業務独占から名称独占への改正が実現すると、通訳案内士としての名称を使用しなければ、資格がなくとも通訳案内を行うことができるようになるため、より通訳案内をビジネスとしてきた方、又はこれから通訳案内のビジネスとしようとする方にとってビジネスチャンスが広がることになります。

なお、今回の法改正によって上記①、②のように規制緩和がなされる一方、通訳案内士の質の向上の観点から、通訳案内士の試験科目の追加、定期的な研修の受講の義務付けがなされる予定です。

♦ 脚注

[1] 改正の内容については、観光庁の「「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律案」を閣議決定」及び関連ページに記載されている情報に基づき解説しています。

[2] これまでの検討については、観光庁の「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」をご参照下さい。

[3] 「企画旅行」とは、旅行業法第2条第1項第1号に掲げる行為(「旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス・・・の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為」)を行うことにより実施する旅行を意味します(旅行業法第4条第4号)。

[4] 企画旅行であっても、「一の企画旅行ごとに一の自らの営業所の存する市町村・・・の区域、これに隣接する市町村の区域及び観光庁長官の定める区域・・・内において実施されるもの」(旅行業法施行規則第1条の2第3号)は、第3種旅行業として行うことができるものとされています。

[5] 旅行業の登録制度については、観光庁の「旅行業法」が参考になります。

[6] 新たな時代の旅行業法制に関する検討会で、地域限定旅行業の課題について議論がされています(「「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」中間とりまとめ」6頁)。

[7] 「旅行サービス手配業」とは、「報酬を得て、旅行業を営む者・・・のため、旅行者に対する運送等サービス又は運送等関連サービスの提供について、これらのサービスを提供する者との間で、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為・・・を行う事業」(改正旅行業法第2条第6項)を意味します

[8] 相手方の承諾を得て、国土交通省令に従った方法によれば、電磁的方法によることもできるとされています。

[9] 地域限定通訳案内士は、外国人観光旅客の旅行の容易化等の促進による国際観光の振興に関する法律に基づく制度で、特例通訳案内士は、構造改革特別区域法、小笠原諸島振興開発特別措置法その他の特別措置法に基づく制度です。地域限定通訳案内士、特例通訳案内士の詳細については、観光庁の「通訳ガイド制度」が参考になります。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
石田 学
Ishida, Gaku

いかがでしたでしょうか。現時点では改正法は国会で審議中であり、関係する政省令も法案成立後に整備されることになるため、今回は概要のみの解説に留めましたが、インバウンドビジネスには大きな勝機(商機)があると思われるため、このような形で解説することにしました。本ブログがインバウンドビジネスに携わる方、又はこれから携わる方の役に立ち、ビジネスが奏功することを願っています。

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