AZXブログ

新株予約権付社債・CB の留意点

2014/08/28

~ AZX Coffee Break Vol.30 ~

新株予約権付社債は、新株予約権の投機性と社債の堅実性を併有する有価証券として旧来利用されているが、ベンチャー業界では資金調達の狭間を埋めるブリッジローンとして活用される例が多く、AZXも数多くこれを取り扱っているため、近時の傾向も踏まえてその留意点について解説する。なお、本稿では原則として株式譲渡制限のある非公開会社を想定して説明する。

(1)新株予約権付社債の定義 新株予約権付社債は、新株予約権が付された社債と会社法上定義されている。旧商法では、新株予約権部分と社債部分を分離譲渡できる新株予約権付社債(分離型ワラント)の制度があったが、会社法下では単に社債と新株予約権を同時に発行すれば同様の結果を得られるため、かかる分離型の新株予約権付社債の概念はなく、新株予約権付社債と言えば非分離型が前提となる。したがって、社債部分と新株予約権部分の権利者は同一であり、その一方のみを譲渡できるのは、他方が消滅した場合に限られる(会社法第254条)。

(2)転換社債型新株予約権付社債(CB) 新株予約権付社債は大別して転換社債型とそれ以外があり、転換社債型とは、新株予約権の行使時に社債を現物出資する条件となっているものである。社債を現物出資することによって、あたかも社債が株式に転換されたようになり、旧商法における転換社債と同様のスキームとなることから、転換社債型新株予約権付社債と呼ばれる(Convertible Bondの略としてCBと通称される)。転換社債型以外の新株予約権付社債は、基本的に新株予約権の行使時に別途行使資金が必要となるものであるが、その活用ニーズは低く、発行会社の会計処理との関係もあり、実務では活用例が僅少である。このため、以下では転換社債型新株予約権付社債(CB)を基本的に想定して説明する。

(3)発行手続 新株予約権付社債は社債の一種であり、社債部分には会社法の社債に関する規制(会社法第4編)が適用されるが、その発行手続に関しては社債の発行に関する規定(会社法第676条から第680条まで)の適用が排除され、新株予約権の発行に関する規定(会社法第238条以下)が適用される(会社法第248条)。非公開会社においては、株主総会の特別決議によって新株予約権の内容や社債の条件等の募集事項を定め、割当先と引受契約を締結して発行に至るのが、典型的な発行手順となる。なお、新株予約権部分は無償発行の形にするのが通例であるが、かかる条件が「特に有利な条件」である場合は株主総会において有利発行理由の説明を要する。この点については新株予約権部分のみで有利性を評価するか、社債の利率その他の条件も考慮して有利性を判断するか等で見解が分かれるが、非公開会社では有利発行でなくとも株主総会決議が必要であり、有利発行か否かは会社法の手続上はクリティカルな問題ではない。社債の条件等も総合考慮して新株予約権を無償発行することとした旨を、簡潔に株主総会で説明しておく対応が、保守的かつ実務的な対応と思われる。

(4)開示規制との関係 本ブログで新株予約権について説明したとおり、金融商品取引法(以下「金商法」)上、有価証券の取得勧誘には有価証券届出書(以下「届出書」)の提出義務を含む開示規制があり、届出書の提出義務を一度負うと、以後有価証券報告書を毎年提出しなければならなくなってしまうため、未公開企業の有価証券の発行にあたっては、届出書の提出対象とならないよう留意する必要がある。届出書提出義務の基本的な基準は勧誘対象者が50名以上か否かであるが、新株予約権付社債については勧誘対象者が50名未満の場合でも、新株予約権付社債の内容が一定の要件(私募要件)を満たしていないと、50名以上に転輾流通する可能性がある証券として届出書提出義務の対象となってしまうことに注意を要する。具体的には、1)①一括譲渡以外の譲渡禁止(転売制限)及び②転売制限の証券又は交付書面への記載、又は2)①50枚(単位)未満であること、②券面(単位)未満への分割禁止(分割制限)、及び③分割制限の証券又は交付書面への記載の要件を満たす必要があり(以上を「少人数私募要件」という。)、この1)又は2)の少なくとも一方を満たす内容で新株予約権付社債を設計する必要がある。なお、少人数私募要件のほか、適格機関投資家を相手方とする場合の私募要件(プロ私募要件)等があり、VC等が引受人の場合はプロ私募要件を満たすことでも足りる場合もあるが、ベンチャー企業の発行事例では少人数私募要件を満たす内容で設計するケースが多い。また、詳細は割愛するが、新株予約権付社債の発行額が1億円以上となる場合には、発行会社から引受人に対して、届出書が提出されていない旨等の一定事項を書面で告知する義務があり、かかる告知事項を新株予約権付社債の要項や引受契約に記載することも検討する必要がある。

(5)社債金額、枚数等の設定上の注意点 会社法上、一定の例外に該当する場合を除き、社債の発行に際しては社債の管理を社債管理者(銀行や信託銀行のみが社債管理者となり得る)に委託する必要があるが、非公開会社ではこのような対応は現実的ではない。1)各社債の金額が1億円以上である場合、又は2)ある種類の社債総額を当該種類の各社債の金額の最低額(例えば、100万円と200万円の券種が混在する社債であれば、100万円)で除した数が50を下回る場合には、社債管理会社が不要となるため、この1)又は2)のいずれかの条件を満たすように、社債の枚数及び金額を設定すべきである。また、CBの場合は権利行使時に社債が現物出資されるため、会社法上の煩雑な現物出資規制(検査役の調査)を回避できるよう、当該規制の例外要件(会社法第284条第9項)に該当するよう設計する必要がある。実務的には、新株予約権1個あたりの社債額が500万円を超えないように新株予約権の数及び社債額を設定し(同項第2号参照)、新株予約権が行使された場合には社債の期限の利益が失われたとみなす旨を規定する(同項第5号参照)ことで、現物出資規制を回避するのが通例である。

(6)目的株式数、調整条項 会社法上、新株予約権の目的となる株式数について定める必要があるが、新株予約権付社債に付された新株予約権の場合、具体的な数値でなく、行使時に現物出資される社債額を、一定の行使価額で除して得られる数として(計算式の形で)これを定めるのが通例である。CBの場合、新株予約権行使時に現金でなく社債を現物出資するので、ここにいう行使価額は行使時の払込金を意味するのでなく、交付される株式数を算出するための係数として規定されていることになる。
行使価額は、新株予約権付社債発行時の株式の価額に準じて定められるのが一般的であり、株式分割・併合が生じた場合や、ダウンラウンドが生じた場合に、ダイリューション緩和等の目的で行使価額を調整する(その結果として目的となる株式数が調整されることになる)定めを置くのは、ストックオプションの新株予約権と同様である。調整条項の内容については、新株予約権を解説した本ブログを参照頂きたい。

(7)利息制限法 社債には一定の利息を付するのが通常であるが、社債が利息制限法にいう「金銭を目的とする消費貸借」に該当するかは必ずしも明確でなく、適用がある旨の見解もある。そのため、利息の割合については利息制限法の上限内に設定した方が良い。

(8)発行後の条件変更について(償還期限の延長など) 新株予約権付社債の償還期限を迎えるが償還が難しい場合等に、償還期限や新株予約権付社債の行使期間を延長したいというケースがある。これは新株予約権付社債の発行後の内容変更ということになり、新株予約権の部分については、変更内容についての株主総会の承認と、全権利者の同意を得ることによって可能と解されるが、社債部分については、上記に加えて社債権者集会(会社法第715条)の決議、当該決議の裁判所による認可(同第734条)というプロセスが必要であるかが問題となる。これが必要であれば手続に時間とコストがかかるほか、裁判所の認可が下りる保証がないことが、実務上の障害となる。社債権者集会は本来多数の社債権者を集団的に処理するための制度であることを理由に、新株予約権付社債者全員の同意があれば社債権者集会の決議は不要と解して処理するケースも散見されるが、必要説に配慮して、償還期限を迎える新株予約権付社債を現物出資する形で、新たな新株予約権付社債を発行するといった便法をとるケースもあり、いずれにせよ専門家に相談して判断すべきである。

(9)近時のベンチャーにおける活用例 冒頭で述べたとおり、ベンチャー企業では次の調達までのブリッジローン的にCBを発行するケースが多いが、次の調達がある程度見えている場合、発行会社としては、できればその調達と同程度の条件で社債を株式に転換して欲しく、現時点の株式評価額で転換されると新株予約権付社債者が得る持株比率が高くなり過ぎると考える場合が多い。引受側としても、次の調達時に株式に転換する意思はある一方、リスクをとって資金を出す以上、次の調達時の投資家よりは優遇を受けたいと考える。かかる両者の要望に基づく設計として、一定期間新株予約権の行使(転換)を制限し、その期間内に一定の要件を満たす適格資金調達(例えば1億円以上の第三者割当)が実現した場合には、適格資金調達の株価から一定の割引(1割、2割など)をした価額を行使価額として株式に転換されるような条件とするケースが近時多く見られる。これに加え、次回調達単価が想定外に高くなった場合に備えて、いわゆるバリュエーションキャップを設け、一定の計算式をもとに行使価額の上限を設定するケースも多い。これらは米シリコンバレーで多用されているConvertible Noteの条件を、日本の新株予約権付社債にあわせる形で行われている実務における工夫のひとつであり、事案によってより複雑な設計がなされるため、本稿では簡単な紹介に留めておく。

(文責:弁護士 林 賢治)

そのほかの執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
高橋 知洋
Takahashi, Tomohiro
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
高田 陽介
Takata, Yosuke
執筆者一覧