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会社法における種類株式設計の留意点(2)

2013/02/14

~ AZX Coffee Break Vol.27 ~

本稿は2013年2月8日に発行したAZX Coffee Break Vol.26「会社法における種類株式設計の留意点(1)」の続きである。

(3) 優先配当 ベンチャー企業の場合、分配可能額が無いか、又は内部留保が優先され、配当が行われないことが多く、優先配当の重要度は一般的に低いものと考えられるが、万一分配可能額が生じた場合を想定して優先配当を規定することが多い。

優先配当の定めにあたっては、「参加型」か「非参加型」かを決める必要がある。「参加型」とは、所定の優先配当を行った後にさらに配当可能利益がある場合には普通株式とともに優先株式も配当を受けるものであり、「非参加型」とは優先配当を受けた後に残余の配当金額があったとしても配当を受けないものである。通常は投資家にとって有利な参加型とされることが多い。次に、「累積型」か「非累積型」かを決める必要がある。「累積型」とは、特定の年度における具体的な配当金額が所定の優先配当金額に満たない場合に、その不足額を翌年度以降に繰り越して累積させていく方式であり、「非累積型」とはそのような繰越しを行わないものをいう。この累積型か否かについては、ベンチャー企業と投資家との間で考え方が対立することがある。前述のようにベンチャー企業の場合、配当が行われることは稀であり、累積型にしてしまうと優先配当するべき金額が年度毎に累積していくことになる。仮に累積型にして株式公開の時点で優先株式が一部残存してしまうことになり(但し、現在の日本のIPO実務上はこのような事態はあまり想定されない。)、かつ未払いの優先配当額の累積額が多大になっている場合には、株式公開後普通株式への配当が事実上困難となり、そのような優先株式の存在が株価に大きな影響を与えかねず、このような累積型の優先株式の存在が株式公開の支障となる可能性もある。従って、ベンチャー企業としては、このような累積型の優先株式は避けたいところである。他方で、投資家としては、優先配当金額を累積させた方が有利であり、投資家が株式公開の前に保有する全ての優先株式を普通株式に転換すれば累積型が株式公開に支障を与えるはずはないと考えることになる。また、投資家にとっては、配当との関係で単純に有利であるという点だけではなく、この累積した未払い配当の金額を、優先的な残余財産分配金額や金銭を対価とする取得請求権を行使した場合の金銭対価の金額に加算することで、最終的に現金回収する場合の利息相当分として上乗せする意味を重視する場合もある。この点については、日本のベンチャー業界では、参加型かつ累積型が多いように見受けられるが、標準的な取扱いは定着していないようであり今後の検討が望まれる。

優先配当金額の定めにあたっては、会社法においては、期末配当及び中間配当に限らず、株主総会決議に基づき、適宜剰余金の配当が可能となっている点を考慮する必要がある。すなわち、単純に優先配当額だけを規定してしまうと、理論上は年に複数回配当を行った場合、その配当ごとに規定された優先配当額が支払われることになってしまう。優先配当額が、一事業年度の累積の優先配当の総額を意味するのであれば、その旨及び事業年度の途中で一部配当が行われたときに優先配当額がどのように計算されるかという点を明確にしておいた方がよい。

最後に、優先配当金額の調整について留意する必要がある。優先配当金額を固定金額で定めた場合、例えば株式分割で1株が2株に分割されるとそのままでは優先配当金額の合計が2倍になってしまう。そのため、株式分割又は株式併合の際に適切に調整される必要がある。また、株主割当てでの新株発行や株主無償割当てがあった場合も実質的に株式分割と同様の効果が生じるため、調整するべきことになる。なお、優先配当金額を固定金額ではなく、優先残余財産分配額と連動させている場合には(例えば、優先残余財産分配額の○%等)、優先残余財産分配額が調整されれば、優先配当金額も自動的に調整されるため簡便である。

(4) 優先的残余財産分配請求権 優先株式の場合、ほぼ確実に残余財産分配請求権についての優先規定が設けられる。最近のベンチャー企業では、増資で資金を調達し借入金額が少ないものも多く、また、資本金を全て食い潰す前に事業を停止する場合もあるため、優先的な残余財産分配請求権を規定しておくことは重要である。また、後述するみなし清算条項の前提として、優先的な残余財産分配請求権を規定しておく必要もある。

残余財産分配請求権についても、「参加型」か「非参加型」かを決める必要がある。「参加型」とは、優先株式への一定の残余財産の分配を行った後にさらに残余財産がある場合には普通株式とともに優先株式も分配を受けるものであり、「非参加型」とは一定の優先的な残余財産の分配を受けた後に残余の分配金額があったとしても分配を受けないものである。投資家に有利な設計としては、優先配当の定めを累積型にした上で、優先残余財産の金額として、一定の金額に累積未払配当金を加算した上、残余財産分配請求権の定めを参加型にして、優先残余財産の分配を受けた後の、普通株式との同順位での残余財産の分配にあたり、優先株式1株には、普通株式1株につき分配する残余財産に取得比率(優先株式が会社に取得されて代わりに普通株式が交付される場合の株式数の比率)を乗じた額と同額の残余財産を分配するという形が考えられ、日本のベンチャー投資における優先株式の設計ではこのような形となっている例も多い。なお、残余財産分配請求金額についても、優先配当の場合と同様に、株式分割、株式併合、株主割当増資等があった場合に適切に調整されるようにするべきことに留意する必要がある。 

(5) 議決権制限株式 優先株式等の種類株式であっても1株につき1議決権が与えられるのが通常であり、種類株式を発行する際にはこの点を確認的に定款に明記しておくことが多い。なお、旧商法においては、無議決権株式は配当優先株式でなければならないという規定があり、そこから優先株式=無議決権株式であるとの誤解が生じていた面があるが、以前から議決権を有する優先株式の発行は可能であった。

公開会社(株式の全部又は一部に譲渡制限をつけていない会社)においては、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至った場合には、直ちに2分の1に以下にするため必要な措置を講じなければならないが(会社法第115条)、非公開会社にはそのような規制はない。なお、現在の日本のベンチャー業界では、優先株式を要請するのはVC等の投資家であることが通常であるため、議決権制限株式とされることは稀である。しかし、事業会社が出資する場合には、議決権で会社を支配することが目的ではなく、出資対象会社への経済的な支援と業務提携を目的としているようなケースでは無議決権株式が受け入れられる場合がある。無議決権株式とする場合には、会社法第322条に定める種類株主総会決議並びに株式及び新株予約権を発行する際に要求される種類株主総会(会社法第199条第4項、第200条第4項、第238条第4項、及び第239条第4項)についても議決権を排除するべきか検討した方がよい点、注意が必要である。

(6)普通株式と引換えにする取得請求権 会社は、当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができる旨を定めることができ(会社法第107条第2項第2号、第108条第1項第5号)、かかる権利が付されている株式は取得請求権付株式と呼ばれる(会社法第2条第18号)。日本のベンチャー投資においては、この取得の対価として、普通株式を交付する場合と金銭を交付する場合がある。まずは、普通株式を交付する形の取得請求権付株式について説明する。

ベンチャー投資における優先株式では、株式公開後市場で売却するために普通株式に転換する必要があるため、原則として普通株式と引換えにする取得請求権が付けられる。また、かかる取得請求権を付け、その取得の比率を調整することにより、低額での新株発行等があった場合における当該優先株式の価値の希薄化を防止することが可能であり、これは優先株式の重要なメリットの一つとなっている。通常はこの取得比率は、「取得価額」という概念を用いて優先株式の発行価額と取得価額の比率で表わし、当初取得価額は発行価額と同額とし、株式分割、株式併合、取得価額を下回る発行価額での新株発行があった場合等に取得価額に所定の調整を行うという形がとられる。新株発行等に伴う取得価額の調整には、大別して、例えば、取得価額を下回る発行価額での新株発行があった場合には、取得価額をストレートに当該発行価額に調整してしまうFull Ratchet(フルラチェット方式)と、取得価額を下回る発行価額での新株発行等があった場合にその発行する数量を考慮して、加重平均を算出して取得価額を調整するWeighted Average Ratchet方式(コンバージョン・プライス方式/加重平均方式)がある。Full Ratchetは、発行する株式数等を考慮しない点で調整式としてはかなり強めのものであるため、バリューエーションがかなり高くなってしまっておりダウンランドのリスクが高い案件や、例えばバイオ銘柄のように今後も大量の資金調達が必要であり、ダウンラウンドしてでも資金調達をしないと生き残れないよう企業が対象の案件に使われることが多く、通常はWeighted Average Ratchetが使われるのが一般である。なお、Weighted Average Ratchetには、既発行株式のみを計算の前提として新株予約権等の潜在株式を計算式の基礎に含めないNarrow-based Weighted Average Ratchetと、新株予約権等の潜在株式も計算式の基礎に含めるBroad-based Weighted Average Ratchetがあり、ベンチャー企業にとっては、調整がより緩やかになるBroad-based Weighted Average Ratchetの方が一般的に有利である。合併、株式交換、株式移転、会社分割、資本減少等の場合も本来は取得価額の調整を必要とする場合があるが、これらについて予め調整方法を定めることは難しく、会社の取締役会が合理的に調整する旨の規定にとどめているのが一般的である。なお、新株予約権等の発行を調整事由とした場合においては、会社の役員や従業員へのストックオプションの発行を調整事由の対象から除外する必要がないかについて慎重に検討する必要がある。

(7) 金銭と引換えにする取得請求権 上述した通り、株主が当該株式会社に対して、金銭と引換えにその種類株式の取得を請求することができる旨を定めることができる。投資家にとっては、この金銭と引換えにする取得請求権を定めることにより、会社に対して、取得請求権を行使することで投資の撤退を図ることができる。通常、会社が特定の株主から自己株式を取得するには、株主総会の特別決議が必要な上、他の株主も自己を売主として追加することを請求することが可能となる(会社法第160条第2項及び第3項)が、取得請求権の行使に場合には、このような手続規制を受けないというメリットがある。但し、取得請求権の行使の場合も、通常の自己株式取得の場合と同じく、分配可能額の範囲でなければならないという財源規制の適用を受ける点注意が必要であり(会社法第166条第1項但書)、特にアーリーステージのベンチャー企業の場合には、分配可能額が存在しないケースが多いため、金銭と引換えにする取得請求権が効果を発揮する場面は少ないのが実情である。しかし、そうは言っても、理論上、会社にとっては、分配可能額がある限り株主の任意で株式の買取りを迫られることになるため、この金銭と引換えにする取得請求権の行使時期について制約を加えるべきかについては、検討した方がよいと考える。なお、金銭と引換えにする取得請求権を定める場合には、取得財源を確保するため、毎決算期において配当可能利益があった場合にはその一定金額を取得積立金として積み立てることを規定することが多い。 

(8) 取得条項付株式 現在の証券取引所の規則では優先株式等が残存したままでの普通株式の上場は可能になったとはいえ、実際にはどのような内容の優先株式がどの程度の割合で残存していても問題ないかについて明確な基準はなく、また優先株式の普通株式への転換により市場で流通している普通株式について希薄化が生じる可能性があるため、株式公開の実務においては、上場前に優先株式を全て普通株式に転換するように主幹事証券会社から指導されることが一般的である。この場合、優先株主が自発的に転換に応じてくれれば問題ないが、株価の問題等からその時点での株式公開に反対する優先株主が転換を拒否するという事態も考えられる。そこで、会社の側から優先株式を普通株式に強制的に転換できる条項を入れておく必要がある。この点に関し、会社法は、定款において当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができる旨を定めることができると定めており(会社法第107条第2項第3号、第108条第1項第6号)、これは取得条項付株式と呼ばれている(会社法第2条第19号)。

この取得条項を付けた場合、取得条項の発動に基づく優先株式の取得には一定の期間が必要となる点注意が必要である。取得条項の定めにあたっては、①一定の事由が生じた日に会社が株式を取得する旨及びその事由並びに②会社が別に定める日が到来することをもって①の事由とするときはその旨を定めることになる。一般的には、投資家としては会社の任意で優先株式を普通株式に転換させられる事態を防ぐため、一定の取得条項発動事由を定め、その事由が発生した場合には、上記②の「日」を会社の取締役会で決定できるという形で設計することが多い。かかる②の日を決めるためには、取得条項付株式の株主に対して2週間前の通知又は公告を行う必要がある。さらに、株券発行会社の場合には、原則として、1ヶ月前までの株券提供の公告及び通知を行う必要がある。従って、上場申請前に取得条項に基づき全ての優先株式を普通株式に転換させるためには、上場申請の1ケ月以上前に取得条項を発動できる事由が発生している必要がある。そのため、「会社の普通株式を金融商品取引所への上場の申請を行うことが取締役会において可決され、かつ、株式公開に関する主幹事の金融商品取引業者から要請を受けた場合」を取得条項の発動事由とすることなどを検討する必要がある。

他方で、このような早い時点で取得条項の発動事由を設定すると、優先株主にとっては、優先株式を普通株式に強制的に転換されたにもかかわらず、結局株式公開がスケジュール通りに実現しなかった場合のリスクを懸念せざるを得ない。そこで、投資契約等の交渉の場では、投資家サイドとしては取得請求権を自発的に行使して対応するから取得条項は入れる必要がない旨の主張をすることになる。ベンチャー企業の側としてはリード・インベスターの担当者とは親密度や信頼度も高いのである程度信用できるとしても、持株比率の低い投資家との間の信頼関係は高いとは限らず、この点悩ましい問題となる。一つの案としては、優先株式の内容として、「会社の普通株式を金融商品取引所に上場する旨を取締役会において決議し、かつ、株式公開に関する主幹事証券会社から優先株式を普通株式に転換するべき旨の要請を受けた場合」を取得事由の発動事由とする取得条項を入れておき、別途、株主間契約等において、優先株式が普通株式に強制転換された後一定期間内に会社の株式公開が達成されなかった場合には、会社は元の優先株式に戻す転換の手続を行い、株主間契約の全当事者はそれに協力をする旨を定めることが考えられる。現在の登記実務においては、特定の普通株式を優先株式に転換することは、全株主の同意等を得て行うことにより可能であるとされているため、株主間契約で全株主を拘束することができればかかるアレンジは可能である。

取得請求権及び取得条項については端数の処理が規定されるのが通常であるが、この端数処理が優先株式1株単位で行われるのか、株主単位で行われるのか、全ての取得対象優先株式の単位で行われるのかが不明確なものとなっていると問題が生じる。端数処理の規定が不明確な場合、優先株式が転換された場合に発行される普通株式の数を明確にすることができず、上場関係書類においてその点の記載について問題が生じてしまう可能性がある。従って、端数処理は一義的に明確になるように規定する必要がある。

なお、端数処理について、取得請求権付株式については会社法第167条第3項により、端数切り捨てを前提としつつ、定款による別段の定めがない限り一定額を現金交付するものとされる。これに対し、取得条項付株式については会社法第234条(第1項第1号)の規定上、各株主に生じた端数の合計(但し1未満は切り捨て)を競売(又は2項により任意売却)した上で、代金を配分するものとされ、かつ当該ルールについて定款による別段の定めが予定されていないという相違点がある。株数計算の定款の規定として、各株主に交付される株式数の端数切り捨てを定めることによって、そもそも端数が生じていないものと扱って(端数切り捨てルールを会社法108条第2項第6号ロの「算定方法」の一部であると解釈して)、第234条の適用を回避できるかは不明であり、取得請求権付株式とわざわざ異なる規律となっている趣旨に鑑みればそのような取扱いは脱法と解される可能性も否定はできない。従って、取得条項付株式の設計と実際の運用にあたっては、この点に留意する必要がある。

(次号へ続く)

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