投資契約(8)-株式買取条項

投稿日:2016/08/12

Investment Economy Financial Investing Income Concept

 

GK暑い日が続きますね。我が家では、春になると亀のベッカメ君を庭に出すのですが、8月になると逆に庭は暑過ぎて危険なので、朝にベッカメ君を庭から家の中に取り込んで、夕方に出してあげる形にしています。

ベッカメ君は妻の亀なのですが、なぜか取り込みは事実上私の担当になってしまっています。今朝は曇っていたのであえて庭に出してきたのですが、晴れてきてしまったので、妻に取り込みを依頼しました。IMG_5200

本日は投資契約の(とりあえずの)最終回として、株式買取条項の説明をしたいと思います。

初めて資金調達をする起業家がVC等から提示された投資契約を見て、ビックリする条項の一つに株式買取条項があります。これは投資契約違反等の場合に、投資家が、会社等に対して株式を買い取ることを請求できる権利です。買取義務を負う者として、発行会社だけではなく、経営者も含まれているケースが多く、その価格がとても経営者個人では対応できない金額になるケースがあることから、「こんな個人責任を要求するのはひどすぎる!おかしいんじゃないか!」と思ってしまうことがあります。初めてこのような規定を見た場合に、このように思ってしまうことは、確かにやむを得ない面があります。しかし、現状において、日本のVCのほとんどの投資契約には、このような株式買取条項が定められているのが一般的なのです。

このような条項は、米国の投資契約では見られないものであり、日本特有のものといえ、起業家個人にこのような責任を負わせるべきではないというポリシーのもと、かかる条項を投資契約に入れないキャピタリストも一部にはいます。この点は、方針の問題であり、本稿の目的は、この点の是非について議論することではなく、日本のVCのほとんどの投資契約には、このような株式買取条項が定められているのが一般的であるという事実を前提として、その意味を解説するとともに、起業家として注意する点を提示することで、日本のVCと起業家の交渉が合理的な形で円滑に進むようにすることに貢献することにあります。

(1) 株式買取条項が定められる理由

まずは、なぜ日本の投資契約において、株式買取条項が定められるているかを理解する必要があります。株式買取条項は、典型的には、投資契約違反の場合に発動されることになります。ベンチャー企業又は経営者が、投資契約に違反した場合、契約違反である以上、民法に基づく債務不履行としての損害賠償請求が理論上は可能です。この場合、損害賠償を請求する側は、損害額を主張立証する必要があります。

しかし、投資契約では、この損害額の主張立証が極めて困難なケースがあります。例えば、新株発行には投資家の事前承諾が必要であるという規定に違反して会社が新株発行をした場合や、投資家の取締役指名権を無視されて取締役の派遣を拒絶された場合に、投資家に生じた損害額を主張立証することは困難です。投資契約の多くの規定については、違反された場合に損害額の主張立証することは困難なケースが多く、投資契約違反に対する明確なペナルティーとして株式の買取りを定める必要が生じます。

また、投資家にとって、投資契約に違反するような企業に対する投資を継続することは難しく、株式を売却する必要が生じ、この面からも株式の買取を請求する必要が生じます。

この場合、株式の発行会社が株式を買い取ることができればよいのですが、日本の会社法では、自己株式の取得については、株主総会特別決議や他の株主の売却請求権等の手続規制と、買取金額は分配可能額の範囲内に限られるという財源規制があり、特にベンチャー企業の場合は、投資された資金を使ってビジネス展開をしており、分配可能額が存在しないケースがほとんどであることから、発行会社が自己株式を取得することは通常は不可能です。

そのため、やむを得ず、会社を実質的にコントロールしているはずの経営者である起業家に買い取ってもらうということになります。

日本の投資契約の多くに、経営者個人も含めて株式買取条項が定められている主な理由はこのような事情によります。従って、株式買取条項は、投資契約の実効性を担保するために、やむを得ず設定されているものであり、それ故に、多くのVCではこれが必須の規定になっているという現実を理解して、投資契約の交渉に臨むのが賢明と考えます。

(2) 発動事由

従って、株式買取条項を外すのはハードルがかなり高いという前提で、経営者としてできるだけリスクを低減することを検討する必要があります。この点、まずは株式買取条項の発動事由を、自分でコントロール可能な範囲に限定するべきと考えられます。

株式買取条項の発動事由として定められる典型的なものは以下の3つです。

① 投資契約違反

② 表明保証違反

③ 株式上場の要件を満たしているのに上場しない場合

① 投資契約違反

投資契約違反については、意図しない軽微な違反で株式買取事由に該当することを避けるため、違反について是正要求があっても一定期間内に是正しない場合などに限定すること考えられます。また、対象を重要な規定に限定することも考えられます。

② 表明保証違反

表明保証違反についても、「重要な点」についての違反のみを対象とするよう交渉することが考えられます。「重要な点」の定義は実務的には難しいのですが、そのような記載を入れておいた方が安全です。

③ 株式上場の要件を満たしているのに上場しない場合

③株式上場の要件を満たしているのに上場しない場合というのは、若い起業家からすると、「え、IPOできるのにしない場合って?そんなことあるの?」と不思議に思う人もいるかもしれませんが、社歴が長くなってきて、長年にわたり社長として自由に経営していると、IPOに向けていろいろと内部管理体制等を整備していくと、窮屈に感じて、「上場なんて面倒だからやめた!」として、上場を辞めてしまうケースが実在します。また、市場環境の問題からIPOを延期するケースもあります。しかし、VCにとっては、ファンドの満期までにIPO等でのExitを確保することは極めて重要な事項であるため、IPOできるのであれば、きちんとIPOしてもらわなければならないという事情があります。この③の事由については、経営者として、きちんとIPOする意図であるならば受け入れてもリスクが高いものではありません。

この他の事由を株式買取事由とするケースもありますが、経営者の努力で該当することを回避できない事由については、経営者にとってはリスクが高いといえます。この場合は、なんとか「義務」ではなく、「協議」にしたり、買取りの価格を純資産ベースなど合理的な形にするなど交渉していくのがよいと考えます。

(3) 買取価格

買取価格は、以下に基づき定めるケースが多いです。

① 投資家の取得価額

② 財産評価基本通達に定められた「類似業種比準価額方式」に従って計算した金額

③ 直近の貸借対照表の簿価純資産に基づく1株あたりの金額

④ 直近の発行又は譲渡の事例の価額

⑤ 第三者が評価した価額

実際は、株式買取条項が発動される事態の場合には、「①投資家の取得価額」が主張されるケースが多く、これがかなりの高額になる可能性があります。この点で、経営者にとっては大きな個人的な責任になる可能性があるため、上記の株式買取条項の発動事由とともに、慎重に確認検討する必要があります。

なお、少し細かい点ですが、経営者にとっては、上記④の「直近」について、過去のかなり以前の取引事例になってしまう可能性もあるため、例えば過去6ヶ月以内のもの等に限定するべきことを検討した方がよいと考えます。また、⑤の第三者の選定をどうするべきかについても明確化した方がよいです。さらに、株式分割等が生じた場合の調整についても、念のため明記しておくべきであると考えます。

投資家にとって注意するべき点としては、買取価格について、交渉の妥協の産物として、「協議で定める」としてしまうケースがありますが、このようにすると協議が調うまで価額が決まらないため、訴訟等の法的な手続に基づいて、回収することはほぼ不可能になってしまう点です。株式買取条項を重要なものとして規定する場合には、買取価額が一義的に明確に決まるように定める必要があります。

執筆者によるコメント

GK

AZX Professionals Group
AZX総合法律事務所
弁護士 後藤 勝也

いかがでしたか。

投資契約における株式買取条項は、「投資」として相応しいかという観点からそもそもの是非が議論の対象となることもあり、また、投資家及び起業家の双方にとってセンシティブな問題でもあるため、AZXでブログで取り扱うことの適否についても、議論があると思います。

しかし、現実に日本の投資契約のほとんどには規定されている事項であり、その意味を投資家及び起業家の双方がよく理解した上で、議論及び交渉をするのがまずは大事なことであると考え、今回、このテーマについて記載することにしました。

本稿がベンチャー業界における投資契約に関する理解の一助になれば幸いです。


投稿日:2016/08/12