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税制適格ストックオプションの要件緩和!? 改正租特法のポイント解説

弁護士の小鷹です。

福岡オフィスが新オフィスに移転しました。
執務スペースも広くなり、また今後人員も拡大していきたいと思っておりますので、新年度も引き続き頑張って仕事をしていきたいと思います。

さて、今回は、税制適格ストックオプションについて説明させて頂きます。

先日、「税制適格ストックオプションの要件緩和」(AZX石田弁護士によるブログ記事)でもアナウンスしておりましたが、「スタートアップ・エコシステムの更なる強化」の一環として、税制適格ストックオプションの要件が緩和されました。
これまでの税制適格ストックオプションの要件との関係では、例えば、上場前に税制適格SOを行使することは事実上難しい、などといった問題がありましたが、今回の法改正により、この点のハードルが下がることが期待されます。

ベンチャー界隈では少し前から注目トピックとなっておりましたので、既にその内容を把握されている方も少なくないとは思いますが、2024年4月1日付で正式に施行されましたので、今回は、その内容について、解説していきたいと思います[1]

それでは、詳細をみていきましょう。

1.税制適格SOのおさらい

まずは、租税特別措置法(以下「租特法」といいます。)の改正内容に触れる前に、これまでの税制適格SOの要件について、おさらいしておきましょう。

これまでの租特法では、税制適格SOの割当てに関する契約書(割当契約書)において、以下の内容を規定することとされていました。

① 権利行使が付与決議の日から2年を経過した日から10年(付与決議の日において、設立の日以後の期間が5年未満であり、株式の上場又は店頭売買登録がなれていない会社の場合、15年)を経過する日までの間に行われること。

② 権利行使の総額が年間1200万円を超えないこと。

③ 権利行使価額は付与時の時価以上であること。

④ 権利行使に係る株式の交付が会社法上の決議事項に反しないこと。

⑤ 新株予約権の譲渡ができないこと。

⑥ 新株予約権の行使により取得する株式については、会社と金融商品取引業者等と間で予め締結される取り決めに従い、当該取得後直ちに振替口座簿への記載・記録、保管委託又は管理等信託がなされること。

今回の租特法の改正は、上記のうち、②と⑥を改正したものとなります。

これから税制適格SOを発行する方は、この改正内容を前提に、役職員への付与個数を検討したり、割当契約書を準備したりする必要があります。

なお、「そもそも税制ストックオプションとは?どのようなメリットがあるの??」などについてご確認されたい方は、あわせて、以下をご参照頂ければと思います。
「シード・アーリースタートアップのためのストックオプションセミナー」(AZX雨宮弁護士によるセミナー資料)

「ストックオプションの税務」(AZX佐瀬税理士によるブログ記事)

「ストックオプションの実務」(AZX池田弁護士によるブログ記事)

2.改正ポイント①~年間権利行使価額の限度額の引上げ~

それでは、まず、上記要件②の改正内容についてみていきましょう。

そもそも、この要件②は、年間の権利行使価額の限度額に関するルールで、「年間の権利行使価額が合計1200万円以下であること」、ざっくりいうと、1年間で取得できる会社の株式は1200万円以下でなければならないというルールです。

このように、新株予約権の行使に係る年間の権利行使価額の合計額が決まっていますので、「誰に何個SOを付与するか?」を検討するにあたっては、この要件②を考慮する必要があります。

昨年公表された、「『租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて』の一部改正について(法令解釈通達)」及び「ストックオプションに対する課税(Q&A)」に基づく権利行使価額の算定方法も踏まえると、行使価額をかなり低く設定できるケースが多くなると想定されることから、そもそも、年間の権利行使価額が1200万円を超えてしまうケースは多くないとは思われ、この権利行使価額の限度額の要件が問題となるケースは少ないかもしれません。

とはいえ、例えば、ステージがかなり進んだスタートアップが、ある役職員に対して、少なくない数量の税制適格SOを付与するケースも少なからず想定されることを踏まえると、やはり、この要件がネックになる可能性はあります。

その中で、今回の改正内容の目玉の一つが、「年間の権利行使価額の限度額を引き上げよう!」というものになります。

具体的には、年間の権利行使価額の限度額との関係では、税制適格SOを付与するタイミングに応じて権利行使価額を以下の通り算出する、ということになりました(租特法第29条の2第1項但書、租特法施行規則第11条の3第1項)。

  • 設立5年未満の会社の場合
    ➡権利行使価額を2で割った金額

  • 設立5年以上20年未満の会社で、上場(又は店頭売買登録)していない会社、又は上場(又は店頭売買登録)後5年未満の会社
    ➡権利行使価額を3で割った金額

この年間の権利行使価額の限度額との関係では、権利行使価額は2又は3で割った金額で計算されることになりますので、実質的には、年間の権利行使価額の限度額は、「設立5年未満の会社の場合は2400万円に」、「設立5年以上20年未満の会社で、上場(又は店頭売買登録)していない会社、又は上場(又は店頭売買登録)後5年未満の会社は3600万円に」引き上げられた、ということができます。

3.改正ポイント②~会社自身による株式管理スキームの創設~

次に、上記要件⑥の改正内容についてみていきましょう。

そもそも、この要件⑥は、保管委託要件といわれるもので、「税制適格SOの行使によって取得する株式について、取得後直ちに、証券会社等に対して保管の委託等を行わなければならない」というルールです。

上場後に税制適格SOを行使する場合、SOを行使して取得した株式について振替口座簿への記載等が必要となりますが、上場会社では株式等振替制度があり、株式の取扱いについて振替口座簿への記載等が当然の前提となりますので、この保管委託要件が論点となることはほぼありません。

一方、未上場の段階で税制適格SOを行使する場合には、この保管委託要件を満たすことが事実上難しい状況にありました。具体的には、一度、会社を株券発行会社にした上で、株券を証券会社へ預託するという手続が必要になると考えられ、また、このような業務を受託してもらえる証券会社が実務上極めて少ないことや、証券会社へのフィーの発生等、時間的・費用的なコストがかかる点もデメリットとなっていました。

そのため、未上場の段階、典型的にはM&Aにあたり税制適格SOの行使を認めようとしても、役職員に税制適格SOのメリットを享受させてあげたいのにこの保管委託要件をクリアできないため税制適格SOの行使を認めてあげることが難しい、という点が実務上の論点となっていました。

その中で、今回の改正内容の目玉のもう一つが、「保管委託要件に代わる要件として、新たな株式管理スキームを創設し、会社自身による株式の管理も可能としましょう!」というものになります(租特法第29条の2第1項第6号ロ)。

これにより、証券会社等に株式の管理を委託することが必須ではなくなりますので、上場前の(=M&A等に際しての)税制適格SOの行使のハードルが下がった、ということができます。

では、会社自身による株式管理スキームとは、どのようなものでしょうか。

具体的な株式の管理に関する取決めの要件は、大要、以下の通りとなっています(租特法施行令第19条の3第9項)。

➀当該管理に係る契約は、新株予約権の行使により付与会社の法第二十九条の二第一項第六号ロに規定する株式の取得をした権利者・・・の各人別に締結されるものであること。

②・・・当該対象株式等の取得その他の異動状況に関する事項を記載し、又は記録することによって、当該対象株式等を当該対象株式等と同一銘柄の他の株式と区分して管理をすることその他の経済産業大臣が定める要件((注)経済産業省告示第69号「租税特別措置法施行令第19条の3第9項第2号に規定する対象株式等の区分管理の方法として経済産業大臣が定める要件」)を満たす方法によって管理をすること。

③権利者・・・が行う法第二十九条の二第七項の株式会社により管理がされている特定株式・・・の譲渡は、金融商品取引業者等への売委託又は法人に対する譲渡・・・により行うこと。

④その他財務省令((注)租特法施行規則第11条の3第4項)で定める要件

まず、会社自身による株式管理スキームにより管理されている株式の譲渡は、金融商品取引業者等への売委託、又は法人に対する譲渡に限定されている点に注意が必要です(上記③)。

また、上記②及び④の具体的な内容は、それぞれ、経済産業省告示第69号「租税特別措置法施行令第19条の3第9項第2号に規定する対象株式等の区分管理の方法として経済産業大臣が定める要件」、及び租特法施行規則第11条の3第4項に委任されており、例えば、経済産業省告示第69号に定める区分管理の方法としては、権利者ごとに、権利者の氏名及び住所、取得した株式に関する事項、株式取得に関する事項、株式譲渡に関する事項等を記載した帳簿を備える必要があるなど、その内容は細かいものとなっていますので、実際に会社自身による株式管理スキームの導入を検討するにあたっては、各要件をご確認頂く必要があります。

今回の改正内容は、保管委託要件のみでは、どうしても手続の手間や時間的・費用的なコストがかかってしまっていた中で、特にエグジットの手段としてM&Aを視野にいれているスタートアップとしては、税制適格SOの発行とともにこの会社自身による株式管理スキームも整備していくことにより、上場前であっても役職員に税制適格SOのメリットを還元できるようになった、という意味において、非常に重要な改正であると考えられます。

 

4.発行済みの税制適格SOにも適用可能

上記の改正内容は、2024年4月1日以降に発行される税制適格SOのみを対象としているわけではなく、既に発行されている税制適格SOにも適用が可能となっています(附則第31条第2項)。

具体的には、「2024年12月31日まで」に、従来の要件を改正後の要件に代えることを内容とする「契約の変更」をすることにより、発行済み税制適格SOにも上記の改正内容を適用することが可能となります。

もっとも、この点の対応にあたっては、(1)変更対象となる割当契約書の内容と改正租特法及び附則の内容を参照の上で変更合意書を作成する必要があるほか、(2)変更対象となる割当契約書・新株予約権発行要項の内容や発行当時の決議内容を踏まえて、株主総会決議等の要否を確認する必要があると考えられますので、実際に契約の変更を行う際には専門家にご相談頂くのが望ましいと考えます。

改正後の内容を既存の税制適格SOにも適用するメリットは少なくないと考えられますが、特に、「今後の付与計画を踏まえ、権利行使価額の限度額を引き上げておきたい」、「M&Aの可能性があるため保管委託要件に代わる会社自身による株式管理スキームも可能にしておきたい」といった場合には、2024年12月31日までに契約の変更を行う必要がある点に注意が必要です。

【脚注】

[1] 今回の租特法の改正では、社外高度人材の付与要件の緩和等も行われていますが、本ブログは役職員への発行を念頭においた税制適格SOの要件の解説をメインとしておりますので、今回はこの点については割愛しております。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
小鷹 龍哉
Kotaka, Tatsuya

今回の法改正は、今後ストックオプションの発行を検討されている方はもちろんのこと、既にストックオプションを発行されている方にとっても重要な改正となっています。

もちろん、例えば、会社自身による株式管理スキームってどのように整備すればいいのか?など、まだまだ今後の実務の運用を注視すべきところも少なくありませんが、スタートアップにとってはメリットがあるものであることは間違いありません。

「改正後の内容に基づくストックオプションを設計したい」「発行済みのストックオプションの内容を変更したい」といったご要望や疑問点等がございましたら、ぜひ、お気軽にご連絡頂ければと思います。

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