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広がりを見せる「eスポーツ」、法的留意点とは?(賭博・景品表示法等)

はじめまして。弁護士の貝原です。

AZXにジョインして3年目ですが、ブログを投稿するのは初めてとなります。最近、様々なゲームタイトルにおいてプロゲーマーが誕生するニュースを見かけます。私も学生時代は音楽ゲームをプレイしており、公式大会にも出場して入賞するなど今で言うeスポーツに取り組んでいました。ちなみに、私がeスポーツに取り組んでいる当時から有名だったプレイヤーは史上初の音楽ゲームのプロゲーマーとなり活躍されています。私も弁護士になっていなかったら、今頃プロゲーマーを目指していたかも…。

1.eスポーツの大会参加者と賭博罪

プロゲーマーになれれば大会に出場して賞金を獲得できる場合もあるかと思いますが、実は大会で賞金の獲得を争うことで賭博罪が問題となる場合があります。
「えっ、多くのプロスポーツ大会では賞金が獲得できるのに、なんでeスポーツだけ!?」と思う方もいるかもしれませんが、何もeスポーツに限った話ではありません。
一般的なスポーツ大会では参加者や主催者以外の第三者(スポンサー等)が賞金を拠出しており、参加者から参加料の徴収がなされていない大会も多いと思います。
しかし、参加者から参加料の徴収がなされている大会については、参加者が賭博罪に当たる場合があり、注意が必要です。

では、eスポーツの大会において参加者が賭博罪に当たる場合とはどのような場合であるかを見てみましょう。
刑法では、「賭博をした者は、五十万円以上の罰金又は科料に処する。[1]」と定められています(刑法第185条本文)。結構シンプルですよね。
ここで「賭博」とはどのような行為であるかというと、「偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うこと」をいいます。

eスポーツの大会においてはゲームの技術が勝敗を大きく左右しますが、運の要素も含まれており偶然にも左右されますので、「偶然の事情に関して」に当たる場合が多いと考えます。

また、eスポーツの大会においては、参加者同士でゲームのスコアや戦績を競うため、「勝敗を争うこと」に当たる場合も多いと考えます。

重要なのは「財物を賭け」たと言えるかです。
参加料を徴収する大会において、参加料を賞金の原資にあてている場合、参加者が拠出した金銭の得喪を争っているものとして、「財物を賭け」たと評価される可能性があります。
反対に、参加料を賞金の原資としなければ、「財物を賭け」たと評価される可能性は低いと考えられます。例えば、参加者及び主催者以外の第三者(スポンサー等)から直接賞金が提供されるような場合が考えられます。他にも、主催者が運営に必要となる費用の範囲でのみ参加料を徴収し、賞金の原資とは混同せず区分管理されることで、参加料から賞金が拠出されていないと言える場合が考えられます。

eスポーツの大会参加者と賭博罪についてまとめますと、


(1)参加料などの徴収がなく、参加者が財物を賭けていない大会であれば、参加者は賭博罪に当たりません。
(2)参加料などの徴収がある大会において参加料を賞金の原資としている場合、賭博に当たる可能性があり、参加者は賭博罪に当たる可能性があります。
(3)参加料などの徴収がある大会であっても、参加料を賞金の原資としていない場合であれば、賭博罪に当たる可能性は低いと考えられます。


今後はeスポーツの大会が盛んに行われるようになってくると思いますので、プロゲーマーの方は上記の点に留意して大会に参加して頂ければと思います。

2.eスポーツの大会主催者と賭博場開張図利罪

続いて、eスポーツの大会主催者側について見てみましょう。
上記1.の通り、eスポーツの大会が賭博となってしまう場合があると説明しましたが、これを大会主催者側から見ますと賭博を行う場を開いていることとなります。そのため、賭博開張図利とり 罪に当たる場合があると考えられます。
賭博場開張図利罪について、刑法では、「賭博場を開張し、…利益を図った者は、三月以上五年以下の罰金又は科料に処する。」と定められています(刑法第186条第2項)。
賭博場開張図利罪における「賭博」とはどのような行為であるかについては、上記1.で述べたとおり、「偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うこと」をいいます(詳細は上記1.を参照)。

そのため、(1)参加料などの徴収がなく、参加者が財物を賭けていない大会であれば、大会主催者は賭博場開張図利罪に当たりません。
(2)参加料などの徴収がある大会において参加料を賞金の原資としている場合、賭博に当たる可能性があり、大会主催者は賭博場開張図利罪に当たる可能性があります。[2]
(3)参加料などの徴収がある大会であっても、参加料を賞金の原資としていない場合であれば、大会主催者は賭博場開張図利罪に当たる可能性は低いと考えられます。

この中で賭博罪や賭博場開張図利罪に当たらないよう法的に安全と考えられるものは(1)参加料を徴収しない方法であると考えます。もっとも、大会主催者側としても大会運営に相当の費用がかかるため、大会参加者からも一定程度参加料を徴収したい場合もあると思います。
そのため、参加料などを徴収する大会であっても、賭博罪や賭博場開張図利罪となることを避けるよう、参加料を賞金の原資としないよう、参加料と賞金の原資を明確に区分しておくのがよいと考えられます。具体的には、上記1で述べたとおり、参加者及び主催者以外の第三者(スポンサー等)から直接賞金が提供されるような場合が考えられます。他にも、主催者が運営に必要となる費用の範囲でのみ参加料を徴収し、賞金の原資とは混同せず区分管理されることで、参加料から賞金が拠出されていないと言える場合が考えられます。なお、参加料を賞金の原資とすると、前述の通り賭博罪や賭博場開張図利罪となる可能性があると説明しましたが、参加料を賞金以外の大会運営費に充てること自体は問題ないと考えられます。

3.eスポーツの大会主催者と不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)

上記1.及び2.では、eスポーツと賭博罪について説明しました。
では、賭博罪に当たらなければ自由にeスポーツの大会を運営することができるかというと、そうでもありません。
賭博罪に当たらない場合であっても、上位者に支払う大会の賞金が景品表示法の「景品類」に当たる場合には、支払える賞金の額が最高額でも1人あたり10万円となる可能性があります。
「えっ、多くのプロスポーツ大会では賞金が何千万円と獲得できるものもあるのに、なんでeスポーツだけ!?」と思う方もいるかもしれませんが、やはりここでもeスポーツに限った話ではありません。

(1)「景品類」について

では、景品表示法の「景品類」とは何かを見てみましょう。
「景品類」とは、①顧客を誘引するための手段として(顧客誘引性)、②事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して(取引不随性)、③相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益をいいます(景品表示法第2条第3項)。

eスポーツの大会において上位者に賞金が支払われる場合、賞金の獲得を大会参加の目的とする参加者もいると考えられるため、賞金を支払うことについては①顧客誘引性が認められるものと考えます。

②取引付随性については、eスポーツの大会の参加料の有無、有料のゲームタイトルであるか等、ケースにより異なりますが、例えば、大会主催者が参加料を徴収する場合には、提供する賞金が参加料の支払い及び大会への参加という取引に附随して提供されるものとして、取引付随性が認められる可能性があると考えられます。

eスポーツの大会の賞金は金銭となるため、③相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益に当たると考えます。

そのため、②についてはケースによるものの、eスポーツの大会における賞金が「景品類」に当たる可能性があると考えられます。

(2)「懸賞規制」[3]

「景品類」に当たる場合の規制については、(1)総付景品に関するものと、(2)懸賞に関するものがあるところ、「懸賞」とは、ⅰくじその他偶然性を利用して定める方法、又はⅱ特定の行為の優劣又は正誤によって定める方法によって景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいうとされており、競技、演技又は遊技等の優劣によって定める方法もⅱに含まれるとされています。
eスポーツの大会では、ゲームの操作という特定の行為の優劣により、上位者に賞金が支払われるため、景品類の提供の相手方を定めるものといえ、「懸賞」に当たると考えられます。

「懸賞」に当たる場合、提供する景品類の最高額及び総額は、下記のように制限されています。

懸賞による取引価額 景品類限度額
最高額 総額
5000円未満 取引価額の20倍 懸賞に係る売上予定総額の2%
5000円以上 10万円

具体的にいくらまで賞金を支払うことができるかは、上記の表に従って懸賞による取引価額及び懸賞に係る売上予定総額を検討する必要がありますが、冒頭に記載の通り、支払える賞金の額が最高額でも1人あたり10万円となります。

(3)「仕事の報酬等」

プロゲーマーが参加する大会の優勝賞金が10万円だと、ちょっと物足りないですよね。
スポーツの大会における賞金のように高額の賞金をeスポーツの大会でも支払う方法はないかというと、あります。
「仕事の報酬等」に当たる場合には「景品類」の提供に当たらないとされた消費者庁の回答を見てみましょう(消表対620号令和元年9月3日)。

これによれば、賞金の提供先をプロライセンスを付与した選手に限定する大会等では、
プロとして高い技術を用いたゲームプレイの実技又は実演を多数の観客や視聴者に対して見せ、観客が視聴者を魅了し、大会等の競技性及び興行性を向上させることが求められている等の事実がある場合には、賞金を提供しても、「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、「景品類の提供に当たらない」ものと考えられると示されています。

さらに、賞金の提供先に資格制限を設けないものの、一定の方法で参加者を限定した上で大会等の成績に応じて賞金を提供する大会等に関しても、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せ、大会等の競技性及び興行性を向上させることが求められている等の事実がある場合には、賞金を提供しても、「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、「景品類の提供に当たらない」ものと考えられると示されています。

そのため、プロライセンスを保有するプロゲーマーの大会や、プロライセンスに準じる参加資格等の限定がある大会においては、多額の優勝賞金を提供しても懸賞規制を受けない場合があることが消費者庁から示されました。

上記の通り様々な注意点はありますが、多額の賞金を争うeスポーツの大会を開催することが法的にも可能であることがお分かり頂けたかと思います。

<脚注

[1] 刑法第185条ただし書では、「ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。」と定められています。本投稿の賭博罪の検討においては、プロゲーマーの大会における賭博罪の該当性を検討しており賞金の獲得を争う大会を想定しているため、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」に当たる場合は想定しておりません。

[2]「賭博」に当たる行為を行った場合でも、賭博場開張図利罪が成立するには「賭博場を開張」したことなど他の要件も必要となります。

[3]景品規制の概要については、消費者庁のウェブサイトもご参照ください。https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/premium_regulation/

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
貝原 怜太
Kaihara, Ryota

eスポーツの大会を行う場合には、上記の通り様々な法的問題が含まれています。
上記の賭博、景品表示法の問題以外にも、オフラインイベントとして参加料を徴収して行うeスポーツ大会の場合には、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)の規制を受ける場合もあるため、実際にeスポーツを企画する大会主催者は弁護士等の専門家にご相談ください。今後のeスポーツの盛り上がりが楽しみです!

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