弁護士の青木です。
2026年12月11日に「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律」(通称:早期事業再生法)が施行されます。
早期事業再生法は、経済的に窮境に陥るおそれのある事業者について早期での円滑な事業再生を促すことにより、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図ること等を目的として、当該事業者の債務に関し、公正かつ中立な第三者が関与した金融機関等の債権者の多数決による権利関係の調整手続を作ることを目的とした法律です。
早期事業再生法は2025年6月13日に公布されましたが、今般、2026年6月30日に早期事業再生法施行規則が公布されるとともに、Q&Aも公表されましたので、これを踏まえて早期事業再生法の概要について解説します。
今回は、前編として、早期事業再生法の制定に至る経緯や概要について説明します。
■早期事業再生法制定の背景
早期事業再生法制定の背景として下記の問題意識があったとされています[1]。
(1)「日本企業の債務残高は、コロナ禍前に比べて120兆円以上増加。原材料高・人手不足等を受け、2024年の倒産件数は11年ぶりに1万件超。債務負担が収益性向上の事業活動の足かせとなって事業再生の機会を逃し、倒産に至る企業が更に増加するおそれ。」があること。
(2)「経済的に窮境に陥るおそれがある事業者が早期での事業再生に取り組み、事業価値の毀損や技術・人材の散逸を回避できる制度基盤を整備し、経済の新陳代謝機能を強化しておくことが重要。」であること。
■早期事業再生法の制定の経緯
上記の問題意識を踏まえて、2021年6月18日付成長戦略実行計画において、「私的整理による事業再生を円滑化するため、債権者保護に配慮しつつ、私的整理の利便性の拡大に向けた法制面の検討を図る。」と記され、事業再生の環境整備が政府全体として検討を要する課題として位置づけられました。また、2022年6月7日の新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画においても、「コロナ後に向けた我が国企業の事業再構築を容易にするため、新たな事業再構築のための法制度について検討し、早期に国会に提出する。」とされました。
その後、内閣官房の分科会及び経済産業省の小委員会での議論を元に、2025年2月18日に検討結果をまとめた「産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 事業再構築小委員会報告書-早期での事業再生の円滑化に向けて-」が公表されました。
そして、2025年3月4日に当該報告書の内容を踏まえた「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律案」が閣議決定され、第217回通常国会に提出され、当該法案は、衆議院及び参議院で可決成立し、2025年6月13日に公布されました。
■従前の制度の問題点
(1) 以上が早期事業再生法の制定までの大まかな流れですが、早期事業再生法が制定される以前にも民事再生法や会社更生法といった法律上の事業再生に関する制度があり、また、これらの法的制度を利用しない形での私的整理(準則型私的整理や事業再生ADR等の手続を含みます。)も一般的に行われていました。
それでは、これらの従前からある事業再生に関する制度やスキームではどのような問題があったのでしょうか。
(2) 従前の事業再生に関する権利関係の調整の方法としては、大別して、(i)法律に基づき裁判所が関与して権利関係の調整を行う法的整理、及び(ii)裁判所を介さない形で当事者の合意により手続を行う私的整理がありました。
法的整理の場合には、①裁判所の関与の下、債権者の議決権の一定割合の多数決により決議がなされるため、全債権者の同意は不要である一方で、②申立てを行った場合、申立てが行われた旨の公告がなされ、また、③商取引債権も含めた全債権が債務整理の対象となるため、事業価値や収益性への毀損の影響が大きくなりやすいというデメリットがありました。
他方で、私的整理の場合は、①私的整理を行ったことは公表されず、②私的整理の対象となる債権者は金融債権者に限定されることが一般的であることから、法的整理と比較すると事業価値の毀損の可能性は低いものの、③私的整理の対象となる債権者全員の同意がなければ再建計画が成立しないことから、再建計画の成立のハードルが高く、少数の債権者が同意しないことにより私的整理が成立しない事態が生じる可能性があり、事業再生の円滑化に向けた課題となっていました。
■早期事業再生法の特徴
そこで、早期事業再生法では、これらの法的整理と私的整理の課題を解消し、経済的に窮境に陥るおそれのある事業者の早期の事業再生を図るため、経済産業大臣の指定を受けた公正な第三者の関与の下で、金融機関等である債権者の多数決(議決権の総額の3/4以上の同意等)及び裁判所の認可により、金融債務に限定して、公告がなされることなく当該事業者の債務の権利関係の調整を行うことができる手続を整備しました。
上記のとおり、早期事業再生法は、①公正な第三者が関与する手続であること、②事業者が主体となる手続であること、③多数決による手続であること、④金融債務に限定した手続であること、⑤裁判所の認可が必要となる手続であること、⑥外部に公表されない手続であること、という特徴があります。
また、早期事業再生法では、「経済的に窮境に陥るおそれのある事業者」が制度を利用することができるとされていますが(法第3条第1項)、「経済的に窮境に陥るおそれ」とは、「民事再生法上の「経済的に窮境にある」状態の前段階といえる。」とされており、従前の法的整理の場合よりも早期に事業再生を図ることが想定されていると考えられます。
「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律に関するQ&A」(以下「Q&A」といいます。)のQ1では以下のようなケースでは「経済的に窮境に陥るおそれ」に該当すると示されています。
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以上のとおり、早期事業再生法は、私的整理の非公開性と、法的整理における多数決による処理及び法的拘束力というそれぞれのメリットのいいとこどりをしたうえで、従前よりも早期の段階での事業再生を目指した制度であるといえます。
■早期事業再生法における計画成立までの具体的な流れ

早期事業再生法の利用の申請から決議の成立までの流れは概ね上記の経済産業省ウェブサイトに掲載されているフローチャートのとおりであり、下記の手続を経ることとなります。
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なお、上記③の一時停止の要請がなされた場合、裁判所は、必要があると認めるときは、確認事業者又は対象債権者の申立てにより、対象債権に基づく強制執行、仮差押え等又は対象債権を被担保債権とする留置権(商法又は会社法の規定によるものを除く。)による競売の手続の中止を命ずることができるとされています(法第7条)。
また、裁判所は、対象債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、確認事業者又は対象債権者の申立てにより、担保権の実行手続の中止を命ずることができるとされています(法第8条)。
早期事業再生法は、事業者が主体となり、指定確認調査機関の関与の下で、権利調整を行うことが予定された制度ですが、上記のとおり、権利変更決議の認可前においても、裁判所が中止命令を行うことができるとされており、一定の範囲で裁判所の関与が予定された制度となっています。
小括
以上のとおり、早期事業再生法の概要について説明してきました。
早期事業再生法は従前の私的整理の運用を基礎として手続等が設計されています。一方で、従前の実務上、やや明確でなかった部分について取り扱いが明記された部分もあるため、後編では個別の留意点について解説していきます。
注釈
[1] 「産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 事業再構築小委員会 早期事業再生検討ワーキンググループ取りまとめ」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/business_restructuring/early_business_revitalization/pdf/20260306_1.pdf
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