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スタートアップが理解すべき『投資契約のイロハ』

2024/09/11

AZX弁護士の石田です。

今回は、資金調達に欠かせない「投資契約」について解説したいと思います。

1. 投資契約とは

ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受ける際には、投資契約を提示されるのが通常です。このような状況を受けてか、スタートアップから「投資を受けるにあたって投資契約の締結が必要だと思うので、まずは投資契約を作成したい。」というご相談を受けることが一定頻度あります。

しかし、投資契約は、株式を発行するために必須のものではなく、会社法上必要なものではありません。

なぜ投資契約が締結されるかというと、投資家サイドとして、会社法上株主として認められる内容より自らに有利な契約条件を定めることが必要と考えるからです。投資家としては、企業の将来的な成長のために、資金を託すものであるため、この資金をどのように使用するべきか、投資先が想定外のことを行ってしまわないか等についてある程度の約束をしてもらう必要があります。

投資契約は、基本的には投資家側から提示されることが多く、スタートアップ側にとっては制約が大きく、「できれば避けたい」と思いがちですが、他方で、一度株主になったら容易に関係を終了させることは難しく、長いお付き合いになることから、経営に関する事項、株式に関する事項などを予めきちんと決めておく方がよいでしょう。

2. 投資契約の概要・構成

投資契約を初めて見た起業家は、「何やらいろいろ難しくて面倒臭そう。。。」という印象を受けるかもしれず、それもあってかあまり内容を吟味せず締結してしまうケースも見受けられます(その後結構な確率で後悔することになるのですが。。。)。

しかし、投資契約は一度締結してしまうと変更や終了させることが難しく、また、調達ラウンドが進むにつれて内容が厳しくなることも多く、将来における投資契約のベース(最低ライン)となってしまう側面もあるため、資金調達の都度、そのステージに比して厳し過ぎないかなどを含め、適切な交渉をすることが重要となります。

投資契約は分量が多く、内容が複雑であることも多いのですが、その基本的な構造を理解して、どの部分の規定なのか確認しながら読んでいくと、意外に理解しやすいことも多いです。

投資契約の基本的な構造は以下のような形になっています[1]

①投資に関する基本的な条件

いかなる種類の株式を、どのような株価で、総額いくら払い込むのかという投資に関する条件を定めるもの

 

②投資の前提条件

例えば、投資家に事前に提出した財務諸表が正しいことなど、一定の事項を投資家に対して表明し、保証する事項や、投資契約締結後払込みまでの間に、後発事象が生じていないことや、株主総会議事録など一定の書面を提出してもらうことを払込の条件とするもの

 

③株式に関する事項

株式を譲渡することの可否や、株式を譲渡する場合に自分に先に売って欲しい(優先買取権)、逆に相手が株式を売るなら自分の株式も一緒に譲渡できるようにアレンジして欲しい(譲渡参加権)など、株式の取り扱いに関する規定

 

④会社の運営に関する事項

取締役やオブザーバーの派遣、一定の重要事項については承認や通知、財務諸表等の書類や情報の提供など、会社の運営に関する投資家の権利等を定める規定

 

⑤投資の撤退に関する事項

万一、投資契約の違反があった場合等に投資家が株式を発行会社や起業家に売却して投資から撤退することを定める規定

 

⑥一般条項

秘密保持、有効期間、裁判管轄等の一般条項

投資契約の規定は、大まかに分けると上記のパーツに分かれているため、各規定が何を目的とするものかをよく理解して投資家側との交渉に臨むと、建設的な交渉ができるのではないかと考えます。

3. まとめ

今回はそもそも「投資契約とは何か」という内容について解説しました。

投資家から送られてきた投資契約のファイルを開いた際に、その分量等に圧倒され、げんなりしてしまった経験がある方もいらっしゃるかもしれませんが、投資契約には重要な条項が規定されていることが多く、起業家ご自身がその内容をしっかり理解しておく必要があります。今回のブログを読まれて、「内容を全て理解するのは大変そうだけど、まずは一度内容を見てみよう」と一歩踏み出す契機になれば嬉しいです。

【脚注】

[1] ①及び②は、「株式引受契約」という名称の契約において、③及び④は、「株主間契約」という名称の契約において、それぞれ規定されることが多いのですが、本ブログでは、これらの契約の総称として「投資契約」と表記しています。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
石田 学
Ishida, Gaku
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